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対談「光と影と表と裏」

多くの企業の方々と関わりを持つことができる点が、私共のような仕事をする者の一つの喜びです。そのような中でも、特に人間的魅力に溢れた方々のうち何名かにご協力をいただき、数度にわたりお話を聞かせていただく予定です。・・・(続き)
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Vol.11-3
古川 明日香さん(AIG富士生命保険株式会社 人事部長)
×南雲道朋


前回に続き、古川明日香さんとの対談です。今回掲載する部分は、フランス系食品メーカーの文化の中で広がった人事観についてのお話が中心です。

キー語録(Vol.11-3)
コンサルタントを卒業しようと思ったきっかけは、直接的に変革の当事者でありたい、と思ったことです。
外部の人が中に入っていく時にも、これまでの常識が通用しない局面が出てきます。
マーケティングの会社が重視するのは結局左脳じゃなくて右脳に訴えかけるアプローチなので、例えば社員に求めるコンピテンシーの資料を作るにあたっても、あらゆる手段を使って、雰囲気が伝わればいいみたいな、そういう冊子だったりします。

(南雲)
ビジネスを通じて社会貢献ができ、ビジネスと社会貢献とが両立できれば一番いいですね。

(古川)
ダノンに入る前から、仕事を通じての社会への貢献ということは何となく思ってはいたのですが、ダノンという会社がその点ですごく両立している会社だったので、入ってすごく学びました。これはもう偶然なんですけれど、入ってみると、本当にそれをビジネスで両立させている会社でした。

(南雲)
金融業界の経験だけだと、金融は付加価値を生んでいない、という言い方をする人もいるくらいなので、食品メーカー、特に社会貢献を理念に掲げている会社を経験できたことはよかったですね。

(古川)
自分が銀行を辞めたとき、これが一体なんのためになるのかがちょっとわからなくなってきていたのですね。プロジェクトファイナンスというのはモノが残る仕事なので、何の価値を生んでいるのか説明できなくはないのですが、例えばデリバティブとか為替だとかで右から左へお金を動かすだけでチャリンと落ちるみたいなそういうビジネスがどういう付加価値を生んでいるのかというのは、その頃の自分からは見えなかったのです。もっとも、私が当時そのように思っていたのは完全に勉強不足によるもので、すごい誤解だったとは思うのですが・・・。だからものづくりには憧れました。ダノンという会社は、ものづくりということにもっとプラスαしていろんな思想を持っていたので、価値を生むということはすごく感じられました。

(南雲)
ダノンと巡りあった経緯は?

(古川)
ダノンのことは、マーサーにいた当時はほとんど知らなかったのです。マーサーを辞める頃はグローバル人事系の仕事をかなりやっていたので、日系企業がグローバル人事を推進するお役にたてるかもしれない、本当にグローバル人事をやりたいという日本企業があればお手伝いしたいと思ったことはあったので、その方面の仕事にどのような仕事があるか少し見ていて、あるオファーをいただいたのですが、会社としても準備ができていなさそうだし、すぐにその会社を変えられるほど自分の影響力は持てなそうだと思った機会があったのです。それはオファーされるポジションでわかるのですが。 それでもマーサーを卒業したいなという気持ちはすごく持っていたので、人事のマネジメントの初心者として来てほしいと言われたら行ってみようかな、くらいの気持ちでダノンには入って行きました。

(南雲)
コンサルタントの仕事はプロジェクトとともに終わってしまいますが、プロジェクトの結果を最後まで見届けられる立場にいたいとか、もっと直接的に影響力を行使したいとか、そのように思われて、ということですか?

(古川)
そういうことですね。コンサルタントを卒業しようと思ったきっかけは、直接的に変革の当事者でありたい、と思ったことです。クライアントの人事の方とお話している中で、やはり人事を変えていきたい、外部の人間としてではなく自分で変えるパイオニアになれればいい、と。そして、それが成功モデルみたいになっていけば、いろんな影響を与えられるのではないかと思ったのです。

(南雲)
そうして入ったダノンのHRのモデルはそれまでの常識を覆す衝撃的なものだった、とのことですね。そのことについてお話をおきかせください。

(古川)
マーサーで作っていた人事のモデルは「Pay for Performance」「Pay for Job」であり、ロジカルであることを重視して、透明性とか納得性とかよく言いますよね。しかし、最初にダノンの上司の方と話したときに、その方は日本の方なのですがダノンが長い方で、「僕は透明性とか納得性という言葉は信用してない」と言われて、そこでガーンと衝撃を受けまして、何を言っているのだろうこの人は?と思ったのです(笑)。

ダノンではよく「Danonize=ダノン化する」って言うんですよ。アメリカの会社から来た人は「Danonize」をまずしないとうちの会社にはフィットしない、というくらい、強烈なカルチャーがダノンにはあります。ちょっとガラパゴス的なところはあるのですが。フランスが発祥で、創業家の流れを汲むところがトップの方にはありまして。もちろんグローバル企業ですし、いろんな人種の方とか女性も活用されているし、見た目はダイバーシティがあるのですが、そういうところがあります。ミッションもものすごく明確で、 「Health through Food」すなわち「食べ物を通じて世界中に健康をお届けする。以上。」という会社です。

そこでは、外部の人が中に入っていく時にも、これまでの常識が通用しない局面が出てきます。例えば人事制度であれば、普通は1ヵ月もあれば制度の現状分析なんかササッとできるだろうと思います。私もそういうつもりだったのです。しかし、ダノンの人事制度はどうなっているか、と入っていったとき、「グレードはどうなっている?」とか「評価制度はどういうもの?」とか、そういったものをササッと現状分析するつもりが、一向に情報が整理された形で伝わってこないんですね。情報が分散していて、いろんなことが錯綜していて、経験しなければわからない「ニュアンス」みたいなところがすごくあるのです。それで最初、「いろんなことが整理整頓されてない会社ですね」と上司に言ったのですが、それほどにイロジカルというかエモーショナルというかそういうマネジメントをしている会社という印象を受けたのです。マーサーのときには、人事というのは「Pay for Performance」というプリンシプル(原則)があって、それに愚直に則ってジョブサイズを測って・・・とやっていましたが、そういうものとは全然違うフィロソフィを持ってやっているところがすごく衝撃的で、これまで正しいと思っていたことが覆ってくるんですね。

(南雲)
ダノンでのポジションはどういうポジションだったのですか?

(古川)
人事部長のサブみたいな、サクセサー(後継者)という位置づけのポジションで、だから人事部長の方にはものすごくいろいろなことを教えてもらいました。

(南雲)
特に採用・育成系とか、評価・報酬系とか、そういう偏りなく、人事全般を見ることができたのですね。

(古川)
そうですね。それはラッキーでもありました。C&B(Compensation & Benefit)だけ別の人がいましたが、あとは全部やっていました。採用から育成から評価から。ヘッドの方もすごくいろんなことを教えてくださったので、いろんなニュアンス的なものを感じることができたのでよかったですね。(そのニュアンスは)言葉では表現しにくく、明文化されているものもあるにはあるのですが、それよりも、例えば明文化されている共通価値観みたいなものを学ぶとしたら、そのやり方は、3日くらいワークショップをやるとして、その中身としては、みんなで映像を見て感じるとか、みんなで切り貼りして絵を作っていったり、といったものになるのです。

(南雲)
「あなたの心の風景を絵に描いてシェアしましょう」といった研修があったりしますね。

(古川)
それもやりますし、あと「うちの会社のミッションをみんなで絵にしてみましょう」という感じで、「コラージュ」と言うのですが、女の人の写真を雑誌から切り取って貼ってみたり、そこに文字を書いてみたり、「何でもいいんです、とにかく表現してみてください」というようなことをいい大人が延々とやったりとか、要は、レクチャーで覚えるのではなく感じてもらう、というワークショップをやるのです。つまり、インスピレーションのような形で会社の価値観を注入していくというか、感じていただくというものなのです。


(南雲)
それで、「これはダノンらしい」「これはダノンらしくない」というコンセンサスは作れるものなのでしょうか?

(古川)
会話の中で、だんだん作られていきますね。それはいわゆる「レッテル」にもなりえるのですけれども。「彼はダノンに合わないよね」とか。「それって、評価が主観的じゃない?」と言ったら、「何言っているの、評価は主観的なものなのよ」と言い切られてしまうような世界でしたね。私は最初全くそれがわからなくて、日本駐在のR&Dのヘッドの女性に「ダノンについて教えて」とレクチャーしてもらったときに聞くと、パフォーマンスが悪くても、プロジェクトに失敗しても、昇進するみたいなことがあるらしいのです。その辺は全く不透明なのですが、ダノンらしければ評価されるという会社でしたね。


(南雲)
それは日本社会的な、空気が読めていることを重視する、というものにも通じるものですか?

(古川)
ハイコンテクストであることは確かですね。阿吽の呼吸の世界はあります。

(南雲)
それはヨーロッパ企業の特徴とも言えるのでしょうかね。

(古川)
ドイツとフランスとはまた違うと聞きますね。あるいはアングロサクソンとゲルマンとも。私はラテンの文化かなと勝手に想像しているのですが、何かあっても笑い飛ばすみたいなところはありますよ。会議は異様に長くて、アウトプットの見えない会議だとかも普通にあります。Q&Aの時間なのに、クエスチョンでなくて単に言いたかっただけだよね、みたいなクエスチョンがあったりとか、それにまじめに答えているとまたはまっていったりとか。タイムマネジメントの感覚はアメリカの会社では考えられない感覚でしたね。

(南雲)
それはドイツの会社とは全然違うでしょうね。最近リーダーシップバリューの冊子をいくつか目にしたのですが、欧州の会社は、ちょっと文学的な、ポエム集なのではないか、というようなリーダーシップバリューの冊子を出していたりとかしますよね。

(古川)
そうですね。パワーポイントのスライドとかでも、「ふわっ」と何が言いたいのかさっぱりわからない感じに描いてあったりするんですね。それは、フランスの会社ということにプラスして、マーケティングの会社の特徴でもあると思っています。マーケティングの会社が重視するのは結局左脳じゃなくて右脳に訴えかけるアプローチなので、例えば社員に求めるコンピテンシーの資料を作るにあたっても、あらゆる手段を使って、ビデオは作るわ、冊子は作るわ、そしてその冊子も、細部の整合性がとれていなくても気にしない、雰囲気が伝わればいいみたいな、そういう冊子だったりします。そういうのはやはりマーケティングの発想だからだと思います。コンサルタントから見ると突っ込みどころ満載なのですが(笑)。

(南雲)
そういったカルチャーの伝道者、責任者のような人はいるのですか?

(古川)
世界中でそういう人を作っていくのです。(シックスシグマの改善推進リーダー)ブラックベルトに近い、そこまできっちりと制度化はしていませんが、そういう専門のトレーニングを受けた人で、下に展開していく担い手です。それは人事部門ではない人にやってもらいます。現場で仕事を持っているのに2日くらいトレーニングを受けてもらい、しかもそのためにものすごい準備を要求したりして、普通の営利企業であれば、「うちの生産性をどうしてくれるんだ?」みたいな文句が出るところですが、大事なことだからと、ほとんどそういう文句もなくやるのです。

(南雲)
一方でビジネスとしてもきちんと回っているのがすごいですね。カルチャーの部分はブランド価値として価格に上乗せしていくということなのでしょうか?

(古川)
多分そうだと思います。そしてそれが好きな人材が集まっているのです。上司は気に入らないけどダノンは好き、という人が多かったですね。

(南雲)
マーサーのようにアメリカンな人事をやっているところから、直接AIG富士生命に行っていたら、物の見え方は違っていたでしょうね。

(古川)
はい、違っていたと思います。その間にダノンがあったからものすごくよかったですね。

 

(続く)

(次回掲載は、現在のこと、そして、これまでの経験の結果として出来上がってきた人事のスタイルについてのお話が中心です。)

 

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