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Vol.2-2
太田直樹さん(MSD株式会社 取締役執行役員 人事部門統括)
×相原孝夫
(2010年10月1日、万有製薬株式会社とシェリングプラウ株式会社が統合してMSD株式会社となる)
| キー語録(vol2-2) |
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| ・ | ラーニングカーブが寝てきたら、何か刺激を与えないことにはラーニングカーブはまた立ち上がらない。 |
| ・ | 70点くらいになったらもう次の仕事に移ってくれ。 |
| ・ | 人事のプロの言葉で語るのではなくて、経営の標準語できちんと語る。 |
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(相原)
転職の時期ということについてお聞きしたいのですが、30代後半での転職というのはいかがでしょうか?
(太田)
こればっかりは個人差があると思うので、30代後半が遅いという人だってけっこういると思うし、いやまだまだ早いという人もいると思う。
これはなんとも自分でも判断のしようがないですけれども、ポイントとしては自分の成長が止まってないのであれば、常にそこで成長し続けているという実感があれば、別に40歳を超えるからといってあせる必要はないんじゃないのと後輩なんかには話していましたね。
あるいは「うちの会社もだいぶしんどそうで、先行きがなさそうだから仕事を変わった方がいいでしょうか?」と相談されることも当時よくありましたが、逆にしんどい会社だから勉強できることもあるし、伸びている会社だけども退屈な仕事もあるだろうから、「その仕事が自分にとってすごくプラスになっていると思うのであればいいチャンスだからやってみたらどう?」と言ってましたね。
転職のタイミングについて相応しい年齢があるということではないと思います。でも何歳であっても自分のラーニングカーブが寝てきたら、何か刺激を与えないことにはラーニングカーブがまた立ち上がらないなと思っていますね。
(相原)
転職するにあたって、人事という仕事でのご転進だったわけですが、人事は新卒採用の3年間だけだったですよね。頭取秘書や経営企画の仕事の方が魅力も多かったかと思いますが、人事という仕事に転進されるということについてはどう思われていましたか?
(太田)
銀行で人事の仕事をしてその面白さは十分に理解していましたし、自分のベーシックインスティクトというか本能というか、そういう部分で一番上手にできるのはこれかなという気はしていました。
数字をいじるのが上手な人だとか、研究や調査が上手な人だとかいると思いますけど、私に関しては、採用の仕事を通じて自分が担っていた、たとえばインタビューであったりアセスメントであったり、そういうのが自分は本能でできていたと思います。
(相原)
それは実際に転職なされてみて間違いはなかったですか。
(太田)
そうですね。計算が苦手で財務に進むと大変ですし、人と会うのが苦痛で営業しているとこれもまた大変だと思います。人事の仕事をするからには例えば、面接を通じて人のことを分析したり、あるいはその人がどうやったら組織で活きるだろうかということを考えたりするのが好き、苦にならない、ということが必要かと思いますが、自分はそういうことは非常に好きですね。
(相原)
GEに転職なされた当初は、戸惑いですとか、ある種のカルチャーギャップなどはなかったでしょうか?
(太田)
まずひとつ一番びっくりしたのは、当時入社してすぐの頃ですね、自分が担当していた仕事のあるプロセスを変えようと思ったんですね。これはちょっと機能不全を起こしているなと思ったので、上司にこれを変えたいんだけれどもどういうふうに稟議を書いたらいいのかというようなことを聞いたんです。そうしたら一蹴されて「いいと思ったらやればいいじゃないの。私が今ここでいいと言っているんだからやればいいでしょ」と。
銀行だったらおそらくそういうものを書面に残して上司がハンコを押してというのがあったと思うんですけど、それがまず一番の違いだったですね。
あとは二番目に挙げるとすれば、銀行員の仕事というのは常に100点をとりに行く仕事なんですよね、だから100点をとるために時間をかけることはある程度容認される。一方GEでは、「70点くらいになったらもう次の仕事に移ってくれ」という感じだったと思います。 70点をとるのに70の努力が必要だとします。そこはリニアなんですね。だけど、70点から100点にするまであと30の努力で100点になるかというと実はそうじゃなくて、どんどん収穫逓減の法則が働いてきて、70点とるには70の努力だけど90点とるには200ぐらいの努力が必要で、99点とろうと思ったら500くらいの努力が必要だと。ここがもったいないじゃないかと。その分のエネルギーを、ほかのことで70点とるのに使ってくれというような発想だと思うんですね、仕事のやり方が。
(相原)
では次に、GE後のお話をお聞きしたいと思います。
(太田)
2006年にING生命に転職をしました。GEにいたときはいろいろなファンクションのマネージャーを担当して、だんだんと人事部長になる準備ができてきたと自分では思っていたんですよね。だけど、GEの中で自分が人事部長をやりたい会社があるかなと考えるとビジネスとして自分が興味を持てる会社が少なくとも当時はなかったんです。
私は人事そのものよりもビジネスに興味を持っているタイプなので、この機械を作って、売って、この人達は何が楽しいんだろうと思うような会社では多分いい仕事ができないと思います。こんなに素晴らしいものを作っているのに知らないお客さんはかわいそうだ、もっとがんばって皆が買うようになればいいのに、というくらいでないと。
自分が人事部長になるんだったら、GEじゃないかもしれないなということは最後の1年くらいはずっと考えていました。いくつか話があって、ヘルスケアの話もいくつかありましたが、その中である外資系コンシューマー企業の人事部長の話を当時いただいて、最後までそこに行くかINGに行くかすごく悩みました。コンシューマー企業の方も、そこの社長にお会いして話を聞いてみると、これはこの会社変わるかもしれないなとすごくワクワクするものを感じました。
ただ当時は、ING生命の方がビジネスとしてより伸びしろがあるなと思いました。その決断はよかったなと思います。INGでは10人くらいの役員の中で日本人は自分ともう一人だけみたいな環境でしたので、単に人事を担当しているという感覚ではなくて、経営者のひとりとして自分の持ち場からビジネスの成長に貢献しないといけない、そういうプレッシャーがある意味またいい筋肉痛につながっていました。
ING生命で役員会の中に入ると経営のありとあらゆる資料、また当然資料だけではなくて実際経営として何が起きているかをいつも見ていて、それについて人事の立場あるいはもう人事の立場を超えて経営陣の一人という立場で常に考えて発言してさらに行動していかなければならないわけです。それはまた別の意味で全然今まで自分が使ったことのない筋肉なり能力なりを開発されたという感じですね。
(相原) ING生命では経営陣の一員として仕事をされたわけですが、そこではどんな能力を特に伸ばすことができたと思われますか? |
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(太田) でも、そうではなくて、損得勘定の真剣勝負でビジネスをやっている人に、ビジネスの感覚で納得して貰えるロジック、レトリックで人事のことをきちんと説明する。これを勉強しました。 つまり、GEでは人事のリーダーに対して自分の考えを説明していたわけですね、人事のマネージャーですから。だけど今度は人事のことには興味がない、あるいは興味があっても決して人事のプロではない経営者やラインリーダーに対 |
して自分の考えをコンヴィンスしなければならないところに突き出されたわけで、それは遅まきながら全く違う能力だったと思います。 私のミッションというのは、人事の外、それは社員であったり、社外であったり、そして経営に対して、人事が成し遂げようとしていることを伝える能力みたいなものがやっぱり非常に求められるのかなと、これがINGで一番考えたことですかね。 |
(相原)
GEの場合は、ビジネスと緊密に結びついた人事でありビジネスの一部としての人事と言われました。そういう言い方をするとすれば、INGでなされていたお役割というのは、人事という専門分野を持った経営、という感じになるんでしょうか
(太田)
そうですね。話が少し変わりますけれども、GEにいたときは、やるべきことは最初からかなり決まっているんですね。確立されたプラクティスとかすでにテストされて認知されたメソドロジーみたいなものがそこにあるので、言ってみればそれをいかに自分がきちんと日本でエクセキュートできるかと。つまり急に何か新しいことを考えるみたいなことは、禁じられているわけではないけれども、それほど求められない。どうやって部下を評価したらいいんだろうなんて考えているうちに「いや、もう決まってるからこれでやってよ」と言われる、これがGEだったと思います。
一方でINGに行くと、人事自体はちゃんとしていますけども、グローバルなアラインメントとかセントラライゼーションみたいなものは、欧州系企業だったこともあると思うし、あるいは日本のING生命がゼロから立ち上げた会社だったということもあると思うけれども、あまりはっきりしていなかったし、振り返って聞いても誰も教えてくれないんですね。
アジアパシフィックに聞いてもグローバルに聞いても「それは自分で考えて」とか、「ああ、そろそろ決めなきゃと思ってたけどまだ決めてないんだよね」みたいなことを言われる。 となると、人事として何かインプリしよう思っていることは極論すると全て太田独自のアイデアだから、私自身が責任持ってコンヴィンスしないといけないんですよ、経営に対して。
GEだったら「すみません、グローバルのHRから今年はこういうふうにやるって言われました」って言えば、「へへー」と言って大体みんなやってくれるわけですよ。でもINGでは「今年の評価はこういうふうにやるべきだと思う」というと「なんで?去年どおりでいいじゃない」とか「俺は今までどおりの方が楽だ」とかいろいろなことを言われる。
だから、すべての人事の仕組みの存在意義とか理由について、自分が全部説明責任を持っているんですね。やっていること全てに説明責任を持たされるし、やっていないことについても説明責任を問われる。そういうところに押し出されたというのが一番の変化だったような気がしますね。それまでは「なぜこれをやるのか?」ということに対する説明責任はそんなに深くも重くもなかったような気がします。
(相原)
GEの場合、マネジメント手法は高度に普遍化されていますからね。
(太田)
そうなんです。例えば人材ポートの差別化は「2:7:1」の比率でやるぞと言われて、なんで「2:7:1」なのかと言われても、「そういうふうにグローバルのガイドラインが決まってます」と言えば多分にそれで収まる。
だけど、今思い返すと、自分でもよくあんなことを考えていたなと思うのは、当時から「なんで2:7:1でなくてはいけないんだろう」ということはよく考えていました。なぜGEは強制分布をしなければならないのだろうと。
世の中に強制分布なんてやっていない会社は山ほどあるし、あるいはボトム10なんて厳しい選別をやっている会社ばかりじゃないよねと。トヨタもキヤノンもそんなことやらないけどちゃんと隆々としてるじゃない。なんでGEはやらないといけないのだろうということはいつも考えていました。
結局それについて僕が、まぁ勝手な解釈ですけど、思っていたのは、GEというのは社員が入るときには人を選べない。社員の過半数はM&Aを通じて会社ごとGEに入ってきます。入社のときには人を選別できない、だから入社した後から選別するしかありません。
トヨタとかキヤノンとかは入社の採用選考のときにとても丁寧に選別していますし、そもそもトヨタが大好きな人しか入ってきません。そういったトヨタを大好きな人を長年トヨタに勤めた人が丁寧に面接して選び出しますから入社のときにミスマッチが起きる確立は相当低いはずです。
だけどGEの場合、入る方も入れる方も基本的に入社のときは選べない、それで入ってから選別していくしかないということじゃないかなと、僕なりに理由を考えたんですね。 GEのときには、こんな感じで、周りが当たり前のように思っていることを「なんでだろう?」といつも考えていたし、そういうものだよとみんなが割り切っていることも、「そういうものじゃないかもしれない」といつも考えていたので、その個人的な拘りみたいなものがINGで効いたかなという感じは自分では思いますね。























