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【コラム】第86回 「なぜ軽やかに一歩踏み出せないのか?」

前回はハイパフォーマーの特徴の一つとして、失敗の受け止め方について述べた。今回もハイパフォーマーに共通に見られる点について述べたい。それは「行動を起こす」という点であり、特に留まることなく「動き続ける」という点である。「動き続ける」ということは「小さなアクションを繰り返す」ことともいえる。ハイパフォーマーの人たちはフットワークが軽いのだ。

一般的には人は誰しも変化を嫌うので、新たな行動を起こすことに関しては躊躇しがちである。しかし、ハイパフォーマーの人たちはそうではない。少しでも良いと思ったことはとりあえずやってみる。ハイパフォーマーの人たちが多く口にする言葉として、「とにかく、やってみなければわからない」というのがある。それゆえ、新しいものにいち早く反応するのは常にハイパフォーマーたちだ。確かに、動かなくて何事も起こらない。「打たないシュートは100%決まらない」のだ。こんなことは言われるまでもなく皆わかっていることであろうと思われるので、今回は「それでもなぜ行動は起こらないのか?」について考えてみたい。なぜ、軽やかに一歩踏み出すということができないのであろうか。

一つには、間違いのない確実な方法で進めたいと思う傾向が強いことが挙げられる。それゆえ、一歩踏み出すことに躊躇しがちなのだ。人はリスクを予測するのは得意でも、チャンスを見極めるのは苦手だ。良い刺激より悪い刺激により強く反応する。その結果、行動を起こす選択よりも起こさない選択をしがちなのだ。他人の目を気にして、マイナス評価をされることを恐れるということもある。そのため、そうならない完璧な方法を目指すのだ。「完璧を喫す」とか「ベストを尽くす」ということがよく言われるが、これらは行動を留保することに過ぎない。

完璧を目指したがるのは、学校での教育が影響している可能性も高い。日本の教育では、問題には必ず「正解」が存在する。学習者は問題を解き「正解」を導き出す。どう考えたかではなく、結果が正解だったかどうかだけが問題となる。その場合、間違えたくないという思いが強くなり、授業中なども十分な自信がない場合には発言しないことになるであろう。思ったことをどんどん表現する「ハーバード白熱教室」のような議論にはなりえない。

昨今、「フィンランド式教育法(フィンランドメソッド)」が日本で注目を集めている。フィンランドの学校で出す問題には「正解」はない。あらかじめ決められた答えはないのだ。大事なのは「正解」ではなく、自分自身の「解答」を導き出したアイデアや考えたプロセスであり、それを自分の言葉で「表現」することである。まずは発想してみて、自分のアイデアを表現し、他者の意見も聞き、徐々に考えを収斂させていく。その動きの中での学びとなる。暗記を前提として自分一人で「正解」を導き出す日本式教育とは対極を成している。「まずは軽やかに動き出してみる」という行動特性が身に付きやすくなるのではないだろうか。

往々にして、考えすぎると行動が起こらなくなる。「ムカデのジレンマ」という有名な逸話がある。たくさんの足を持つムカデが上手に足を動かして歩くので、「正確にはどういう順番で足を動かして歩くのですか?」と蛙に聞かれ、その瞬間にムカデは身動きが取れなくなり、とうとう餓死してしまったという話である。優秀な分析者や優秀な計画者は多いが、実行の面はどうだろうか。優秀な人でも、考えすぎたり分析しすぎたりすると行動が抑制されてしまうこととなる。

私たちの頭の中には、臆病な隊長と二人の慎重な参謀がいる。新しい状況に直面するたびに、「退却!」と叫ぶ隊長。一人の参謀は若く熱血漢で、進むべきでない理由を熱く説得する。もう一人の老練な参謀は、反対する代わりに「少しだけ待ちましょう」と言う。この「待とう」という先延ばし術は、行動しない場合の常套句だ。多くの会社で、組織の上の方にもこのタイプは多いに違いない。「保身」の一類型だ。そうした人が意思決定者となると、物事は永遠の先延ばしとなる。

大きな一歩を踏み出そうと思うとリスクも高まるので動きづらくなる。小さな一歩でいいのだ。少しずつ動くということも重要なポイントだ。一気に動き過ぎてはかえって悪循環にも入りかねない。森林の伐採も、程よく間引きすれば次の芽が育ちやすくなるが、一気に伐採してしまえば保水力が失われ、森林破壊につながりかねない。ダイエットをする場合にも、極端なやり方で一気に体重を減らしてしまえば、リバウンドが起こりやすい。無理のない範囲で徐々に体を絞っていけば、それが自然な状態となる。

少しずつ進むのはシンプルに進めるという利点がある。シンプルに進めるということはフィードバックも早く、シンプルな形で得られる。大きく進む場合には、様々な制約が発生し、複雑でややこしくなり、フィードバックを得るまでに時間がかかる。コストとリスクも増すことになるのだ。小さく動いて、わかりやすいフィードバックが早期に得られれば、必要な軌道修正が迅速にでき、すぐに次の行動に移れる。特に大きな困難に直面した時などは、手も足も出そうにないということもあるだろう。しかし、そういう時にこそ小さな一歩を止めないことが重要なのだ。孔子は、「歩みを止めないかぎり、どれだけ遅く進んでもかまわない」という言葉を残している。

以上のように、どんどん行動を起こし、「動き続ける」ということは容易いことではないため、一部の人にしかできない。そしてそれができる一部の人たちはそれにより膨大なフィードバックを得てそこから学び、経験値が蓄積され、成長していく。また、多くの人たちとの接点も生まれ、協力者も現われ、次の一手も明確になり、どんどん先に進める。一見わかりづらい日々の小さな行動の積み重ねが埋めきれない大きな差となる所以である。大きな期待をせずに、とりあえず少し動いてみて、様子をみて方向感をつかみつつ、また動いてみるというような、軽やかに一歩踏み出す行動習慣こそが重要なのだ。



プロフィール

元マーサージャパン株式会社 代表取締役副社長。マーサー社ではコンピテンシーに基づく人材の評価、選抜、育成および組織開発に関わるプロジェクト、日系企業海外現地法人の現地化推進等のコンサルティングのほか、コンサルティングノウハウのITプロダクト化、提携戦略等による新規事業開発に従事。現在は、継続性と実効性を確保できるマネジメント手法の開発および普及に力を注ぐ。著書に、『会社人生は評判で決まる』(日本経済新聞社)、『コンピテンシー活用の実際』(日本経済新聞社)、『チームを活性化し人材を育てる360度フィードバック』(共著、日本経済新聞社)、『図解戦略人材マネジメント』(共著、東洋経済新報社)ほか。日本人材マネジメント協会(JSHRM)幹事等を歴任。

写真:南雲 道朋(なぐも・みちとも)
株式会社HRアドバンテージ代表取締役社長
相原 孝夫(あいはら・たかお)

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