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コラム

〈番外編〉「スマホ依存症」という国家リスク

『文藝春秋』誌の今号に掲載されたある記事に衝撃を受けた。「中高生52万人を蝕む『スマホ亡国論』」という記事だ。全国に先駆けて「ネット依存症専門外来」を開設した久里浜医療センター院長の樋口進氏によるものである。52万人という数字は、厚生労働省の研究班が全国の中高生に調査して明らかになった推計であるという。

記事にもあるとおり、電車の中でも、車両のほとんどの人がスマホをいじっているという一昔前では考えられない光景もすでに日常となっている。これを読んでいて思い起こしたことがある。昨年、小学生の息子と東京ドームへ野球を見に行った時のこと。前の席に高校生らしき少年たち4人のグループが座っていた。そのうち、試合を見ているのは1人だけで、あとの3人は試合はチラチラと見るのみで終始スマホをいじっていたのだ。互いにろくに話もしない。話をする時にも視線はスマホを見たまま。SNSで誰かと連絡を取り合っているのか、あるいはモバイルゲームに興じているのかは分からなかったが、いったい何しに球場にやって来たのか、理解に苦しむ光景だった。そういう光景を見ているこちら側も興ざめしてしまうし、息子の数年後を思い描いて暗澹たる気持ちにもなった。そのさらに前の席に座っていた、高校生たちよりは10歳以上は年上と思しきお姉さんたち2人組が、応援用のカンフーバットを叩きながら大声を張り上げて終始応援し続けていた姿に何か救われるものを感じた。

スマホに依存しがちなのが大人ではなく、これからの世代である中高生であるという点が、さらに気持ちを暗くする。若者や女性など、これまで「依存」と縁の薄かった層の患者が大きな割合を占めるというのがスマホ依存の特徴となっている。アルコール依存や薬物依存、ギャンブル依存では、患者の中心は圧倒的に中高年男性だが、スマホ依存は若い人が中心であり、社会に与えるダメージはより大きい。長い人生の入口で大きくつまずいてしまう危険性があると記事の中でも警告している。
症状としては、「睡眠の質が悪い」、「気分が落ちこむことがある」などが典型で、その結果、学校に行けなくなり、身体を壊してしまうという重症化にもつながる。また、「葛藤」というプロセスが抜け落ちているのもスマホ依存の特徴であるという。精神的に未発達でネット上のバーチャルなアイデンティティに固執する傾向が強いため、学校へ行けなくなるということに対して葛藤を感じないのだそうだ。昨年、社会問題化した飲食店などで悪ふざけをした写真を投稿するというような事象も、同様の背景によるものであるという。

日常的な使用法と依存の境があいまいなのも、スマホ依存の特徴のひとつとして挙げられている。本人に自覚がないことが多いのだ。他の依存症の患者は、依存症専門外来へ来院する時点で多少なりとも依存症であることを自覚しているが、スマホ依存症の場合、ほぼ全員が自覚がないので、半数近くは初めは本人は病院にはやって来ず、家族だけが来院するのだという。実際に、自覚症状がないままにネット依存症になっている人はたいへんに多いのではないだろうか。
さらに他の依存症と比べても対応も難しいという。アルコール依存症であれば、飲酒をゼロにしていく治療は可能だ。しかし、スマホの場合、通話もメールもなしで過ごすことは現代社会では難しいので、使用をゼロにすることはできない。また、スマホ依存症については治療法も確立していない。ネットに関わる最新事情が分からなければ、診察をしても患者とコミュニケーションを取ることさえできない。医師は「パズドラ」や「LINE」などに精通する必要がある。しかもそうしたコンテンツは先を争うように次々に出てくる。より魅力的なものが次々に登場する。魅力的ということは依存性が高いということとほぼ同意であろう。樋口医師は、依存性の高いと思われるゲームが発売されるたびに、背筋が寒くなるという。

こうしたネット依存は、世界的にみても、東アジアが“先進国”なのだそうだ。東アジアでも特に、韓国はスマホ普及率が世界トップクラス。突然死や自殺などで死亡に至る事件が10件も発生し、国の政策として対策に乗り出している。依存度合いを学校で調査し、依存の疑いのある生徒はカウンセリングを受けさせたり、病院に行くように指導するということや、「レスキュースクール」というネット依存の子供を集めた合宿も韓国の各地で行っている。また、16歳になるまで、夜12時から朝の6時まではオンラインにアクセスできない「シャットダウン制度」もある。

日本でも必要な対策をとらずに放置すれば、不健康な状態が蔓延し、国力の低下を招く可能性があると記事の中で指摘している。国力の低下と言っては大げさ過ぎると考えられがちかもしれないが、スマホ依存は、中高生の不登校や引きこもりを招き、身体を害し、うつを誘発し、ひいては自殺や犯罪につながりかねない。社会に出る前の若者の数十万人もの人たちがそうしたリスクに直面している状況は、やはり国家リスクといっても過言ではない。ごく日常的なことが、気付いてみたら取り返しのつかない深刻な事態につながっているという点がスマホ依存の恐ろしいところである。
しかも、本人に自覚がない、治療法も確立されていない、対応が難しい。より依存度の高い新サービスが次々に登場する。医師も学校の先生も親も追いついていけない。また、他とつながっているという点がネットの特徴だが、オンラインのやりとりを深夜までやっているのは、皆で手を取り合って依存状態へ突き進んでいるようなものである。こうした特徴からすれば、ますます急速に拡大してゆくであろうことは容易に想像される。ほんの数年先には、アルコール依存症やギャンブル依存症のように数百万人規模となるのではないだろうか。

当の「ネット依存症専門外来」は、増員しても対応が間に合わず、今では7ヶ月待ちの状況とのことだ。韓国のように国家としての政策が必要となるかもしれないが、それを待つだけでなく、まずは各個人が節度を持つ必要があるであろう。特に精神的に成熟している大人が、範を示せなければどうにもならない。アルコール依存にならないように休肝日を設けるように、週に一日はネットにつながらない日をつくるなどから、中高生の子供がいる人は子供と一緒に、始めるとよいのではないだろうか。


*『文藝春秋』2014年3月号 P396「中高生52万人を蝕む『スマホ亡国論』」

プロフィール

元マーサージャパン株式会社 代表取締役副社長。マーサー社ではコンピテンシーに基づく人材の評価、選抜、育成および組織開発に関わるプロジェクト、日系企業海外現地法人の現地化推進等のコンサルティングのほか、コンサルティングノウハウのITプロダクト化、提携戦略等による新規事業開発に従事。現在は、継続性と実効性を確保できるマネジメント手法の開発および普及に力を注ぐ。著書に、『会社人生は評判で決まる』(日本経済新聞社)、『コンピテンシー活用の実際』(日本経済新聞社)、『チームを活性化し人材を育てる360度フィードバック』(共著、日本経済新聞社)、『図解戦略人材マネジメント』(共著、東洋経済新報社)ほか。日本人材マネジメント協会(JSHRM)幹事等を歴任。

写真:南雲 道朋(なぐも・みちとも)
株式会社HRアドバンテージ代表取締役社長
相原 孝夫(あいはら・たかお)

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