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  4. 【コラム】第75回 偉大なるイエスマン
コラム

偉大なるイエスマン

ここ数回は若手社員について、彼らが誤解している点や問題点などを書いてきたが、では、どんな若手社員であったら、会社や上司から見て魅力的に映るのだろうか?新入社員教育を担当されている人事部の人などに聞けば、「正々堂々と自分の意見が言える者」というような点が多く挙げられる。しかし、現場の管理職からしてみると、少々事情が違うようだ。「自分で理解し納得しないと動けない若手は困りもの」という意見も多い。

方針に対して、「自分はそうは思いません、こうすべきだと思います」と自分の意見を述べられることは悪くないとしても、あまり個人の意見に固執されてはプロジェクトが進みづらくなったりもする。入社して2,3年の経験値ですべてが理解できるわけではない。私自身も、数年経ってから思い返してみて、ぞっとするような若気の至り的な言動というのは結構あった。「青かったなあ」と後々になって反省するわけだ。

方針に反対というだけではなく、あまり気の進まない役割を付与されることも多いであろう。しかし、組織上の指示命令である以上、組織内での立場上それを拒否することは基本的にはできない。であるならば、露骨に気が進まないことを表情に表わした挙句にしぶしぶ引き取るよりは、快く「YES」と言って取り掛かる方がよい。そのような仕事を割り当てる上司の側でも、本人が気が進まないであろうことはたいていは承知のうえである。それに対して、快く「YES」と言える部下はなかなか見上げたもので、信頼感も増し、一目置くようにもなるかもしれない。

小泉政権下で幹事長を勤めた武部勤は、自らを「偉大なるイエスマン」と公言していた。企業の中にも「イエスマン」は多いものだが、自分を殺して指示命令にとことん忠実に、徹頭徹尾それに徹することができる人は稀な存在ではないだろうか。「偉大なるイエスマン」になりきるうえでは、他の意見はすべて撥ね退けて、指示命令を確実に遂行しうる強い意志と能力がなければ到底できることではない。

「郵政選挙」と言われた第44回衆議院議員総選挙で武部は選挙対策の先頭に立ち、郵政民営化法案の採決に造反した議員に党の公認を与えず、“刺客”と呼ばれた対立候補を送り込む選挙戦略を展開した。忠実に上の意向に従ったのだ。小泉もまた、当時の参議院議員会長や他党から度々武部の更迭を求められても、一貫して拒否し続けた。武部のモットーは「絶対にリーダーに忠実」であった。リーダーを絶対裏切らないと知っているから、小泉は使い続けたといえる。 

「偉大なるイエスマン」と公言するということには、いくつかの意味がありそうだ。同胞に“刺客”を立てるというような理不尽な命令にも、私情を挟まずにその通りに実行するという、造反者に対して覚悟を示すということ。またボスである小泉に対して、決して裏切りはしないという忠誠心を示すこと。あるいは、自分の意見とは必ずしも一致はしていないけれども上の命令だから、という多少の言いわけ的な意味合いも含まれていたのかもしれない。そうだとしても、あそこまでイエスマンに徹することができたことは賞賛に値するだろう。

企業の中でも、上司の立場の人であれば誰しも、そのような部下を求めているものだ。まったく意見をしないということではなく、方向性が定まれば、多少自分の意見とは違っていても、そこは割り切って決定した方向へ邁進できる部下だ。企業の中でよく見かける光景としては、自分の考えと異なった意思決定がなされた場合など、割り切ることができずに引きずってしまい、行動が中途半端になり、十分な貢献ができないようなケースだ。企業の中では組織の方針が途中で変わるようなことも珍しくない。そのような場合に、気持ちを切り替えられずに引きずってしまう人は多いものだ。組織人として、「偉大なるイエスマン」に徹することができる人はそう多くは存在しないものである。

日露戦争時に、海軍大臣であった山本権兵衛が、東郷平八郎の「従順さ」を買って連合艦隊司令長官に任命した話は有名である。徹頭徹尾、命令に従う高潔さを持っていた東郷もまた「偉大なるイエスマン」としての資質を持っていた。
通例であれば、開戦をひかえて編成された連合艦隊司令長官には、常備艦隊司令長官であった日高荘之丞がなるわけだが、それまでの人事慣例を破るものと批判されても、人事権は海軍大臣にあると断行したのだった。面目を潰された日高は、激高して大臣室へ乗り込み、短刀を抜いて「この剣で俺を刺してくれ」と山本に迫ったという。対して山本は、「作戦用兵の方針は大本営が決定し、艦隊司令官にはそれに従ってもらう必要があるが、日高は自負心が強く、気に入らぬと自分勝手の料簡をたてて、中央の命令にしたがわないかもしれない。しかし東郷という男にはそういう不安はいささかもない。大本営が与えるとそのつど方針に忠実であろうし、それに臨機応変の処置もとれる」と説得したという。


プロフィール

元マーサージャパン株式会社 代表取締役副社長。マーサー社ではコンピテンシーに基づく人材の評価、選抜、育成および組織開発に関わるプロジェクト、日系企業海外現地法人の現地化推進等のコンサルティングのほか、コンサルティングノウハウのITプロダクト化、提携戦略等による新規事業開発に従事。現在は、継続性と実効性を確保できるマネジメント手法の開発および普及に力を注ぐ。著書に、『会社人生は評判で決まる』(日本経済新聞社)、『コンピテンシー活用の実際』(日本経済新聞社)、『チームを活性化し人材を育てる360度フィードバック』(共著、日本経済新聞社)、『図解戦略人材マネジメント』(共著、東洋経済新報社)ほか。日本人材マネジメント協会(JSHRM)幹事等を歴任。

写真:南雲 道朋(なぐも・みちとも)
株式会社HRアドバンテージ代表取締役社長
相原 孝夫(あいはら・たかお)

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