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  4. 【コラム】第72回 スキルがあれば生き残れるか?
コラム

スキルがあれば生き残れるか?

「スキルさえあれば生き残れる」というのは、若年層社員に多く見られる一つの誤解である。企業の中では、“研修マニア”などと揶揄される、スキルアップに熱心な人たちがいる。選択型研修を主として行っている企業では、「毎回出てくる人はだいたい決まっている」、「出てきて欲しい人が出てきてくれない」ということが、どうやら人材開発部門の人たちの悩みの種のようだ。選択型研修とは、社員が受講を希望する研修プログラムに自ら手を挙げて参加するタイプの研修形式である。“手挙げ式”と言うこともある。意欲のある人が自ら手を挙げて参加するわけだから、こんな望ましいことはないと一般的には思われる。しかし、実態としてはどうもそうでもないようなのだ。

毎回、出てくる人はだいたい決まっており、そういう人たちはたいていのプログラムには手を挙げて参加する。彼ら彼女らは向上心があり、休日を暇に過ごしているよりは会社が提供してくれる研修会に参加して少しでも新しい知識やスキルを身に付けようとしているのだ。中には、「このままではいけない」、「自分を変えないといけない」という強烈な危機感を持っている人もいる。その危機感の向かう先が研修なのだ。他に特段思いつかないということもあり、とりあえず会社が提供する研修に出ていれば何とかなるのではないかと思っているのかもしれない。

しかし、当人にとって仕事上の必要性の低いプログラムも当然ある。その場合、仕事上英語を使う機会のない人が熱心に英語の勉強をするのと同様に、職務上の必要性というわけではなく、それらは自己啓発の域となる。中には、遠からず転職を考えていて、転職前に会社が提供してくれる研修でいろいろな知識を身に付けておきたいという人もいるという。転職のためにスキルアップを目指す人もいれば、一方では、スキルアップのために転職を考える人もいる。2000年代前半、日本の大企業から外資系企業やIT企業、ベンチャー企業へと大量の若者が流出した。「雑用ばかりやらされていたのではスキルは身に付かない」という思いが共通にあったようだ。

ちょうど世の中では、「勝ち組・負け組」というような差別的な言葉が使われ始めた頃である。若手社員の中では、なんとか負け組にならないようにという切迫感が漂い、そのような言説に急き立てられて転職をした若者も多かったと思われる。企業の側もバブル崩壊以降から社員に“自律”を求めるようになり、社員の側も「頼れるのは自分しかいない」との思いを強くしたことも、このような動きに拍車を掛けた可能性は高い。

2011年11月26日号の『週刊東洋経済』において、「さらば!スキルアップ教」という特集が組まれた。その結論はなぜか「教養のススメ」という、たいへんに飛躍した方向へ向かっていたが、スキルアップ教へと至る過程の分析には興味深いものがあった。その中では、「スキルアップ教は、どちらかといえば会社の中で将来が嘱望されていない人たちを中心に広がった」と分析されている。また、「モーガン・マッコールという学者が800人のスーパーエグゼクティブにインタビューしたところ、仕事以外の自己啓発で偉くなった人は一人もいなかった」ということが、元リクルートワークス研究所の海老原嗣生氏のコメントとして紹介されていた。

スキルアップへと向かう場合、現状に何かしらの不安を感じていることは間違いないであろう。特に若手社員の場合、組織の中でまだ十分な活躍ができず、成長実感も得られづらい状況にあることは多いであろう。そうした状況に不安を覚え、スキルアップを目指すわけである。それを個人としての“自律”と考えているのかもしれない。しかし、個人としてスキルアップへ向かう場合、仕事そのものへの集中度が削がれることのないよう、また組織から距離を置く結果とならないよう注意する必要がある。もしそうなってしまえばそれは、“自律”ではなく個人として閉じこもった状態であり、一種の逃避行動となってしまうからだ。結果、組織の中で仕事をすることで本来身に付くべき重要な「仕事力」が身に付かない結果となってしまいかねないのだ。

プロフィール

元マーサージャパン株式会社 代表取締役副社長。マーサー社ではコンピテンシーに基づく人材の評価、選抜、育成および組織開発に関わるプロジェクト、日系企業海外現地法人の現地化推進等のコンサルティングのほか、コンサルティングノウハウのITプロダクト化、提携戦略等による新規事業開発に従事。現在は、継続性と実効性を確保できるマネジメント手法の開発および普及に力を注ぐ。著書に、『会社人生は評判で決まる』(日本経済新聞社)、『コンピテンシー活用の実際』(日本経済新聞社)、『チームを活性化し人材を育てる360度フィードバック』(共著、日本経済新聞社)、『図解戦略人材マネジメント』(共著、東洋経済新報社)ほか。日本人材マネジメント協会(JSHRM)幹事等を歴任。

写真:南雲 道朋(なぐも・みちとも)
株式会社HRアドバンテージ代表取締役社長
相原 孝夫(あいはら・たかお)

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