1. トップページ
  2. インフォメーション
  3. コラム
  4. 【コラム】第68回 職人の働き方との対比で見る「組織労働」
コラム

職人の働き方との対比で見る「組織労働」

内発的動機に基づく労働は確かに理想だ。子供が一心不乱に遊ぶように仕事ができたなら、どんなに素晴らしいことだろう。しかし、当然ではあるがそういうケースは多くはない。短期的には、誰しもそういう状態を経験することはある。しかし、それが長く続くことはまず望めない。それは、内発的動機づけの例として紹介されるのも仕事以外の話がほとんどであることからも分かるとおりである。

そんな中でも、職人の働き方は内発的動機が得られやすいように思われる。普段、職人さんの仕事ぶりを見るということは少ないが、数年前に家を建てた時に多くの職人さんたちの仕事を間近で見るという経験をした。そこには一心不乱に仕事に向かう姿勢があった。いっさいの手抜きをせずに懸命に働くことに何の疑いもなく、それが当然のことのようであった。「職人気質」という言葉があるが、確かに仕事ぶりには精神性が感じられ、仕事に対する誇りや心意気というものが感じられた。品質に対するいっさいの妥協を許さない姿勢が特に印象的だった。

基礎工事や骨組み、床下、天井裏など、壁やタイルの仕上げなどのほかは、出来上がった後には実際には見えない箇所が圧倒的に多いわけだが、それらすべてにわたって手抜きはなく、素人目にも完璧に綺麗な仕上がりであった。ほんの一箇所でも何かがずれているとか、おそらく、「そんな恥ずかしい仕事はできない」という職人の意地や誇りというものがあるのであろう。それは、やる気やモチベーションといったレベルのこととは無縁のように思われた。少なくとも、企業で問題になっているモチベーションとはまったく異質のものが存在していた。「職人の心意気」や「職人としての誇り」というようなことはよく言われるが、「職人のやる気、モチベーション」という言われ方は聞かない。やる気ではなく、心意気や誇りで働いているのだ。そこにはやる気のあるなしなど、モチベーションの入り込む余地はないのである。

もともと日本人はモチベーションなど必要としない、そのような働き方をしてきたのではないだろうか。それが近代化の中で、工場労働やオフィス労働が主になってくる中で、モチベーションを必要とするようになってしまったのではないだろうか。同じ仕事でありながら、職人の労働と工場やオフィスでの労働には大きな違いがある。一方はモチベーションが大きな問題となるような働き方であり、もう一方はモチベーションなど問題にならないような働き方である。どちらが幸せなあり方かといえば、後者であることは疑いないであろう。ではなぜ、会社員の仕事においてはそのようにならないのであろうか。何が違うのであろうか。

職人の仕事を会社員の仕事との対比で見てみると、まず、「全体性」や「裁量性」という点が特徴として挙げられる。職人仕事の場合、自分の持ち場の全体について把握し、自らの裁量で仕事を進める。大工さんもそうだが、金型職人も旋盤職人も、染物職人も靴職人も、皆自分で設計から製作、仕上げまでのすべてを行う。これらの点は、全体の一部のみを担当し、上役の指示・命令のもとに、管理されながら行う仕事とは大きく異なる。 

また、「責任意識」という点での違いも大きいと考えられる。資本主義経済下、もの作りは市場における流通を前提とし、使うため、消費するために作るのではなく、売るために作ることとなった。売るといっても、自ら直接仕事の依頼を受けて、直接客に手渡すのではなく、他者の手によって客の手に渡っていくことになる。こうなると、作る物についての「責任意識」も希薄になっていかざるを得ない。たとえば、自分で使うものであれば、「使いやすいように」という強い意志が自ずと働く。直接依頼を受けた客へ手渡す場合には、「客に喜んでもらえるように」との意識が強く働く。しかし、他者の手を仲介して顔の見えない客に渡っていく場合には、作り手と作る物との関係は希薄なものとなり、「責任意識」も作る喜びも薄れることになる。

同時に、作り手と作られた物とをつなぐのが金銭的な報酬だけになるため、やらされ感は強まり、仕事に対する主体性は低くなる。結果、労働はお金を稼ぐための手段という側面ばかりが強調されることになる。ここに至って、仕事に対する誇りや心意気といったものは隅へ追いやられ、モチベーションによる労働が前面に出てくることになる。企業内における仕事の場合、ここに見たような「組織労働」の特徴ゆえ、内発的動機は働きづらく、モチベーションが問題となるものと考えられる。一方で、望ましい働き方へのヒントもここにあるのではないだろうか。


プロフィール

元マーサージャパン株式会社 代表取締役副社長。マーサー社ではコンピテンシーに基づく人材の評価、選抜、育成および組織開発に関わるプロジェクト、日系企業海外現地法人の現地化推進等のコンサルティングのほか、コンサルティングノウハウのITプロダクト化、提携戦略等による新規事業開発に従事。現在は、継続性と実効性を確保できるマネジメント手法の開発および普及に力を注ぐ。著書に、『会社人生は評判で決まる』(日本経済新聞社)、『コンピテンシー活用の実際』(日本経済新聞社)、『チームを活性化し人材を育てる360度フィードバック』(共著、日本経済新聞社)、『図解戦略人材マネジメント』(共著、東洋経済新報社)ほか。日本人材マネジメント協会(JSHRM)幹事等を歴任。

写真:南雲 道朋(なぐも・みちとも)
株式会社HRアドバンテージ代表取締役社長
相原 孝夫(あいはら・たかお)

サービスに関するお問い合わせ・ご相談はこちらまで

お問い合わせ

人事に関する情報が満載メールマガジン配信中

メールマガジン登録