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  4. 【コラム】第67回 まじめな人は「うつ」になりやすい
コラム

まじめな人は「うつ」になりやすい

前々回、前回と、「長時間労働」や「パワハラ」について述べてきたが、それらの結果として引き起こされる問題として、「職場のうつ」の問題がある。企業の職場において大きな問題となっており、しかも増加傾向にあり、治まる気配が全く見えない状況にある。業種によっては業務に支障を来たすほど深刻さを増している。うつ病や躁うつ病で医療機関にかかっている患者数は100万人を超えている。医療機関にかかっていない人はその何倍にものぼるといわれている。さらには、多少その傾向が見え隠れする、いわゆる“プチうつ”の人まで含めれば、もう日本全国を覆っているといってもよいのではないだろうか。

まじめで責任感が強い人はうつになりやすいといわれる。ということは、日本人はまじめで責任感の強い人が多いので、もともとうつ傾向にあるということになる。特に、「頑張り屋」であり、「頑張ればなんとかなる」という意識の強い人はうつになりやすい典型といえる。これまで頑張りによってなんとかなってきた優秀な人は特に危ない。異論はあっても上司の指示に従う、なんとか期待に応えようとプライベートも犠牲にしてがんばる、そして燃え尽きるということになりかねない。

また、うつ病は年齢的な要因も大いにあり、誰しも無縁ではない。心理学者のレビンソンによると、正常な中年の80%が、漠然とした人生の幻滅感や停滞感、圧迫感、焦燥感を主な兆候とする「中年期の危機」を体験するという。「日経ビジネスオンライン」にあるケースが紹介されていた。

40代男性で仕事も家庭も順調であったにもかかわらず、管理職としての栄転後にうつ病を発症した例だ。これまで順調であっただけに、年齢的な体調の変化を受け入れることができず、目をそむけ続けてきたことが災いしたという。体育会系で頑張り屋の当人の考えがよく表われている言葉がある。「欠勤、遅刻、早退などしたことがない。20年間ずっとだ。会社を休むなんて考えられなし、欠勤なんて自分に負けることだと思う。部下や上司との飲み会やランチもすべて付き合う。管理職なのだから人間関係は大切にしたい。自分の愚痴は言わない。年上の人間として弱音など吐けないと思っている」、「管理職なのだから、規則正しく、強く、頼りがいのある人間であらねばならない」。まじめで責任感が強いがゆえ発症したケースだが、日本人の中高年には比較的多いタイプではないだろうか。

そもそも仕事は、デキる人のところへ集まる傾向がある。責任感が強ければ無理しても仕事を受けてしまう。リストラによる人員削減の折、過重労働の状況の中で、さらに他の人の分の仕事まで引き受けていてはいつかは破綻を来たしてしまうであろう。多忙を極めて睡眠時間も切り詰めているような人はたいてい仕事を抱え込んでしまっている。

日本能率協会が実施した「当面する企業経営課題に関する調査」2005年によると、「7割近くの企業がミドルマネジャー層が期待される役割を満たしていない」と答えている。「役割の達成度」において、「かなり期待を上回っている」と「やや期待を上回っている」の合計は約3割に過ぎず、大多数の会社では期待を下回っているという結果となっている。ミドルマネジャーたちはまったく手が回っていないという状況を顕著に示している。

まじめで責任感のある人は、期待に応えられていないと自責の念に駆られる。回らなくなった業務の穴を埋めようと、死に物狂いで働いてしまう。そういう人ほど、他人に仕事を振ることができず、抱え込んでしまう。そうこうしているうちに、仕事を振る余裕すらなくなっていく、そしてどんどん仕事が膨らんでいく、という悪循環から抜け出せなくなり、ある時破綻する。バブル世代は特に、上の世代がリストラの対象となりスリム化しているケースも多く、そうした企業では急に管理職を命ぜられ、担当業務の引継ぎすらできずに丸々抱えたまま管理職としての仕事もするような状況も起こっている。 たとえば、「献身的なナンバー2がうつになる」という状況があちこちで見られる。組織のナンバー2としての期待も感じる。上と下との板挟みになっている上司の苦しさも分かる。そんなまじめさから気が付けば自分が板挟みになっている。職場の空気が悪くなったり、離職者が出たりすれば、その責任も感じ、なんとか打開しようと一人頑張る。そんなまじめで責任感の強い人は非常に危険である。

同じような状況が80年代の米国でもあったが、米国企業の対応は早かった。EAP(Employee Assistance Program)と呼ばれる専門機関を設け、対応した。欠勤による費用損失を食い止めるというリスクマネジメントによってなされたことである。一方、日本企業の対応は遅かった。うつ対策で何をやったかといえば、例によって管理職への研修である。これは効果があったのか、逆効果であったのか、微妙なところである。会社に聞けば「効果あり」と答えるであろうし、受講者当人に聞けば「むしろ逆効果」と答える人が多いように思われる。

管理職、特にミドルマネジャーへの会社からの要請は質・量ともに急増している。そんな中、社員のメンタルケアもミドルマネジャーの責任とばかりに研修を受講させることは、物理的負荷はともかく、精神的負荷を増大させたことは間違いないであろう。近年、管理職のうつや過労死・過労自殺は増加傾向にある。雇用形態が多様化してきている中でマネジメントの複雑さは増す一方であり、それに加えて、成果主義やコンプライアンス、ダイバーシティーなどの取り組み強化がなされてきた。自らのキャリアや雇用に対する不安などもあり、部下のメンタルヘルスどころか、自らのメンタルが限界に来ているという人も少なくない。



プロフィール

元マーサージャパン株式会社 代表取締役副社長。マーサー社ではコンピテンシーに基づく人材の評価、選抜、育成および組織開発に関わるプロジェクト、日系企業海外現地法人の現地化推進等のコンサルティングのほか、コンサルティングノウハウのITプロダクト化、提携戦略等による新規事業開発に従事。現在は、継続性と実効性を確保できるマネジメント手法の開発および普及に力を注ぐ。著書に、『会社人生は評判で決まる』(日本経済新聞社)、『コンピテンシー活用の実際』(日本経済新聞社)、『チームを活性化し人材を育てる360度フィードバック』(共著、日本経済新聞社)、『図解戦略人材マネジメント』(共著、東洋経済新報社)ほか。日本人材マネジメント協会(JSHRM)幹事等を歴任。

写真:南雲 道朋(なぐも・みちとも)
株式会社HRアドバンテージ代表取締役社長
相原 孝夫(あいはら・たかお)

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