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  4. 【コラム】第66回 パワハラについて
コラム

パワハラについて

今回は、前回述べた長時間労働との関連性も深い、パワハラの問題について述べたい。10年ほど前から、職場におけるパワハラの問題はクローズアップされているが、昨今では学校でのいじめの問題同様、職場でのいじめの問題が増加傾向にある。都道府県労働局に寄せられる「いじめ・嫌がらせ」に関する相談は、2002年度には約6600件であったものが、2010年度には約3万9400件と急増している。成果志向性の高い上司からすれば、部下の士気が低かったり、部下が思い通りに動かなかったりした時に我慢がならず、ついつい厳しい態度をとってしまうのであろう。そうした言動の一部が、部下にとってはパワハラと映ることになるのだ。

パワハラの問題がメディアで取り上げられるようになった2000年代前半の調査ですでに、「パワハラを受けた経験がある」との回答は41.0%を占めていた(日経ビジネス2003年9月)。「なぜ指導や激励ではなくパワハラだと思ったか」との問いに対して、「仕事上の問題ではなく、上司と性格が合わないことが責められる原因になったと思う」が最多で50.7%であった。上司の側としては激励のつもりであったとしても、被害者側の認識としてはこのようになるのだ。上司の側に、「パワハラに類する言動をしたことがあるか」たずねたところ、20.8%が「ある」と答えた。その言動を取った理由としては、「いくらアドバイスをしても自分の言うことに従わなかった」が最多で、75.7%に達した。モチベーションの高い上司が、思うようにならない部下の行動に苛立ちを募らせた結果、パワハラに至るケースが多いということがわかる。

企業において、社員のストレス診断を実施すると、他部署に比べてストレス度合いが図抜けて高い部署が判明することがある。同様に、「従業員意識調査」などをしても、メンバーの離職可能性が図抜けて高い部署というのが出てくることがある。同じ職種の中でも、他職場に比べて社員のストレス度合いが極端に高い、あるいは満足度が極端に低いという場合、その職場のリーダーが原因であることが多い。しかし、当のリーダーはまったくそのことに気づいていないことも多いのだ。気づいているくらいなら、そのような状況が放置されることはないであろう。自分自身を客観的に見ることのできないリーダーの場合、そのような事態を招きやすい。職場が良い状態にはないということは薄々分かっているような場合でも、その原因が自分にあるとはまったく思っていないのだ。それゆえ、そうした状態は放置されたまま、悪い場合にはメンバーの離職や、メンタル上の問題が起こることになる。

日本企業に比較的多いと考えられる精神論を好むリーダーは、具体的思考が欠如したまま、自分流を妄信する傾向が強い。この点を企業家であり評論家でもある宋文洲氏は以下のように指摘している。「精神論を好む人は、自分を客観的に見ることはできません。自分が主張している精神論に自らの行動は抵触しているのだ、と気づく力はないのです。精神論を語るリーダーには共通項があります。思い込みの膨張と具体論の欠如です。(中略)精神論を過剰に語る組織は、良い組織ではありません。宗教のように、自分の精神論に合わない現実を無視してしまうからです。『市場対応』という最もシンプルかつ具体的そして難しい作業には、高尚な精神論は何の役にも立たないのです」(日経ビジネスオンライン)

パワハラとは、「上司や先輩またはその意思を体現した者が、労働者に対して嫌がらせ的行為をすること」であるが、問題は「嫌がらせ行為」の線引きである。厚生労働省におけるワーキング・グループが発表した定義によると以下のような行為がパワハラにあたるとされている。
(1)暴行・傷害(身体的な攻撃)
(2)脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言(精神的な攻撃)
(3)隔離・仲間外し・無視(人間関係からの切り離し)
(4)業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害(過大な要求)
(5)業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと(過小な要求)
(6)私的なことに過度に立ち入ること(個の侵害)
(職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議ワーキング・グループ報告2012年1月30日)

これだけを見るとあまりピンと来ないかもしれない。自分には無縁なことだと思う人は多いかもしれない。しかし、より具体的な言動としてどうなるかを見てみると、おそらく他人事とは思えなくなるであろう。労働問題を専門とする弁護士の千葉博氏は、ここまでいくと、もう「アウト」ということで、パワハラと見なされかねない上司の言動例を挙げている。
①「こんなのは誰だってできることだぞ」と、大勢が見ている前で言う
②飲み会の場所で、「若手は先に帰ってはダメだ」
③仕事ができない部下に、「嫌なら辞めちまえ!」
④「たるんでいる」と、机を叩く、物を投げつける
⑤「終わるまで帰るな!」と、残業を強要する
(「パワハラと熱血指導は紙一重」日経ビジネス2010年11月)
意外に思われる中高年社員は多いのではないだろうか。かつては日常的に普通にあったことばかりだからだ。しかし、「昔は当たり前だった」ということ自体、言葉に出してしまえば、やはり「アウト」になるのであろう。「おれがおまえくらいの時には・・・」などと言いつつ長時間労働をさせるのはパワハラとなる可能性が高い。上司自身には「嫌がらせ」のつもりがまったくないことも多いようだ。その自覚の無さが問題なのだ。「気合が足りない」などと叱咤激励のつもりで多少強い口調で叱責すれば、それはパワハラとされることもある。それゆえ、「パワハラと熱血指導は紙一重」なのだ。発言の中身も去ることながら、言い方などの行為の態様、両者の関係、行為の場所なども重要な判断基準になる点に注意を要する。



プロフィール

元マーサージャパン株式会社 代表取締役副社長。マーサー社ではコンピテンシーに基づく人材の評価、選抜、育成および組織開発に関わるプロジェクト、日系企業海外現地法人の現地化推進等のコンサルティングのほか、コンサルティングノウハウのITプロダクト化、提携戦略等による新規事業開発に従事。現在は、継続性と実効性を確保できるマネジメント手法の開発および普及に力を注ぐ。著書に、『会社人生は評判で決まる』(日本経済新聞社)、『コンピテンシー活用の実際』(日本経済新聞社)、『チームを活性化し人材を育てる360度フィードバック』(共著、日本経済新聞社)、『図解戦略人材マネジメント』(共著、東洋経済新報社)ほか。日本人材マネジメント協会(JSHRM)幹事等を歴任。

写真:南雲 道朋(なぐも・みちとも)
株式会社HRアドバンテージ代表取締役社長
相原 孝夫(あいはら・たかお)

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