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  4. 【コラム】第62回 「モチベーション0.0」(2/2)
コラム

「モチベーション0.0」(2/2)

モチベーションというものは、会社員特有の問題と言えなくもない。会社がモチベーションに焦点を当てるほど、個人としてもそこに意識が向いてしまう。結果、自己の肥大化を招き、悪い場合には自ら抑うつ状態を引き起こしたりもする。八百屋のおじさんや魚屋のおじさんが、「今日はモチベーションが上がらない、やる気が出ない」なんてことは言わない。会社員以上に単調な毎日を送っているはずではあるが。体調が優れないことや、面白くないことがあった時でも、やる気があろうがなかろうが、毎日やるべきことをやらなければならず、朝早くから市場に赴く。モチベーションなんていうことを考えている暇はないのだ。会社員の場合、そういう時間的余裕があるから、モチベーションが問題になるともいえる。モチベーションが上がらない時に上がらないままでいても、ある程度は支障なく過ごせてしまうのが問題なのだと言ったら、言い過ぎだろうか。

そもそもモチベーションという言葉は状況が悪くなると顔を出す傾向にある。好調な状況においては、まず出てくることのない言葉である。悪い状況に対する責任転嫁の可能性は高い。スポーツの世界では、思いのほか、モチベーションという言葉は使われない。陸上選手が、モチベーションが高まらないので全力で走れない、なんてことは言わない。チームスポーツでも、試合に勝つということに集中するのみであって、モチベーションなど問題にならない。メジャーリーグのイチロー選手は、「チームが低迷する中、個人記録を追い続けるモチベーションを維持するのが難しい」という文脈でのみ使う。
一方、医療の分野では思いのほか、モチベーションという言葉は聞かれる。闘病生活を行う患者さんのモチベーションをどう維持するかは切実な問題である。看護師は患者さんのモチベーションを上げようと積極的に声掛けをする。これは、免疫力を高めるという、命に関わる問題である。

モチベーションに焦点が当たると、それを上げることが目的化してしまう。しかし、少なくともモチベーションが先ではない。小学生の息子が剣道を習っているが、「今日は行きたくない」ということも多い。そういう時に、「強くなりたくないのか」とか、「剣道に行ったらガチャガチャを買ってあげる」とか、あの手この手でやる気を出させようと思っても、やる気は出ない。有無を言わせず着替えさせて、道場へ連れて行けば、道友たちと会って少し調子が出てきて、大きな声を出しながら素振りを始めれば徐々にやる気が出て、かかり稽古をやる頃にはやる気満々になっている。結局、プロセスを進めていくうちに、モチベーションが上がっていくわけであって、モチベーションが先ではない。モチベーションありきではない。それを目的とすることはおかしい。
感情を排除するわけではない。感情は必ずプロセスを進めていくうちに、楽しいとか苦しいとか、湧き上がってくるものだ。プロセスを進める前に、動き出す前に、ネガティブな感情にあえて取り合うべきではないということである。

さて、表題の「モチベーション0.0」は、ダニエル・ピンク氏の「モチベーション3.0」をもじったものであるが、「モチベーション3.0」を批判しようなどという大それたことを考えているわけではない。「モチベーション3.0」は至極真っ当な主張である。しかし一方で、ちょっと違った考え方もあるのではないかと思うわけだ。言い換えるならば、「モチベーション3.0」は必ずしも働く人全員向けのメッセージではないように思えるのだ。
では、「モチベーション0.0」とは何か。それは、モチベーションを問題視しない働き方である。子供が一心不乱に遊んでいる時にモチベーションは問題にならない。朝起きて歯を磨いている時にもモチベーションは問題にならない。また、生きるか死ぬかという切迫した状況においても問題にはならない。結局、モチベーションが問題にならないケースは三通りある。一つは、好きなことをやっている時であり、もう一つは、それをすることが当たり前になっていること、習慣化していることをやっている時、そして三つ目が、切迫した余裕のない状況にある時だ。仕事をこのいずれかに振り分けられれば、モチベーションは問題にはならなくなる。

この続きは追々述べたいと思うが、言葉として、モチベーションが高くない状態を「低モチベーション」とは言わず、「ローモチベーション」と言いたいと思う。低モチベーションと言うと、なにか怠けている感じがあり、悪いイメージが強くなるからだ。ローモチベーションは、車のギアのイメージである。ローでもしっかり動く。むしろ力強く動く。大きな負荷のかかる急な坂道では、ローでないと進まない。そういうイメージだ。
トップギアでスピードを出していると、視野が狭くなるため、事故を起こしやすい。また、トップギアのまま急な坂道に入ったら、エンストを起こしてしまう。ハイモチベーションの場合、自分への期待も、結果への期待も大きいため、うまくいかなかった場合の落ち込みも激しくなる。ローモチベーションの場合は、もともと過大な期待はしていないので、うまくいかないことがあっても、さして落ち込むこともなく、変わらず着実に実行し続ける。
「モチベーション0.0」をこの線で喩えるなら、ギアを考える必要のない、オートマチックということになる。状況に合わせて自動的に切り替わる。必要なところでは考えずとも自動的にトップギアに入る。そもそも仕事のできる、できないの分かれ目は、ここぞという時の集中力や突破力にあることが多い。一定のモチベーションの持続ではなく、むしろ緩急である。常にモチベーションが高くないからといって、問題視する必要はないのだ。

プロフィール

元マーサージャパン株式会社 代表取締役副社長。マーサー社ではコンピテンシーに基づく人材の評価、選抜、育成および組織開発に関わるプロジェクト、日系企業海外現地法人の現地化推進等のコンサルティングのほか、コンサルティングノウハウのITプロダクト化、提携戦略等による新規事業開発に従事。現在は、継続性と実効性を確保できるマネジメント手法の開発および普及に力を注ぐ。著書に、『会社人生は評判で決まる』(日本経済新聞社)、『コンピテンシー活用の実際』(日本経済新聞社)、『チームを活性化し人材を育てる360度フィードバック』(共著、日本経済新聞社)、『図解戦略人材マネジメント』(共著、東洋経済新報社)ほか。日本人材マネジメント協会(JSHRM)幹事等を歴任。

写真:南雲 道朋(なぐも・みちとも)
株式会社HRアドバンテージ代表取締役社長
相原 孝夫(あいはら・たかお)

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