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  4. 【コラム】第61回 「モチベーション0.0」(1/2)
コラム

「モチベーション0.0」(1/2)

モチベーションについては、以前にも述べたが、また少し違った角度から考えてみたいと思う。というのは、以前にもモチベーションに関する補論の中で少し述べたが、このテーマは、会社が取り上げるべきテーマかどうかという点に、少なからぬ違和感を覚えるからである。違和感の主な理由は、以下の各点である。

  • ・個人の内面の問題、心の問題であり、一人ひとり違うという点
  • ・上がったり下がったりする理由も一つではなく、その時々によって変わるという点
  • ・ちょっとしたことで上がったり下がったりする、また、個人的理由(体調や家庭の問題等)に
     最も大きく左右されるという点
  • ・食うに困らぬ立場にいる人の贅沢な悩みと思えなくもない点

通勤途中に鳥の糞が肩にかかったとか、左右違う靴下を履いてきてしまったとか、電車の中で足を踏まれたとか、仕事に関係のない、およそどうでもいいようなことでモチベーションは簡単に下がる。また、自分や家族の体調や、家庭環境、夫婦関係、子供の進路、両親の介護等々、個人ごとの影響を最も大きく受ける。身体的理由による、やる気の低下や不機嫌さについては、以前からよく言及されてきた点である。「身体の一部の故障からくる気弱」という点について、新渡戸稲造が『自警録』の中で述べている。アランの『幸福論』の中でも、不機嫌の原因はごく単純な身体的なことの場合が多いという点が強調されている。それらはたとえば、“不機嫌な人には椅子を差し出せ”や、“ピンを見つけるまで幼な子は泣き続ける”などの言葉として表わされている。

モチベーションに関しては、こうした理由が大きいにも関わらず、会社は仕事面にだけ焦点を当て、しかもおおげさに、複雑に考え過ぎてはいないだろうか。あたかも、真の単純な原因である、幼な子のうぶ着に付いたピンを見つけずに、あれこれ的外れな考えを巡らす母親のように。結果、あの手この手を試してみても、たいてい奏功しない。操作主義に陥り逆効果のこともある。なぜなら、原因の多くは個人ごとだからである。そもそも、社員は会社に自分のモチベーションを高めてほしいと思っているのだろうか。モチベーションを高めるうえでの邪魔はしないで欲しいとは思っているかもしれないが、高めて欲しいとは思っていないのではないだろうか。

成果を上げるために必要な知識やスキルを修得させるということは、企業の責任と言えるであろう。しかし、モチベーション、やる気といった、個人の内面にまで企業は踏み込むべきなのであろうか。まさしくメンタル面であるがゆえ、メンタルヘルス上問題がないと言い切れるだろうか。たとえば、「うつ」から職場復帰した人に、掛けてはいけないとされる言葉として、「頑張れ」、「元気出せ」などがある。ましてや、「やる気を出せ」は論外であろう。
職場復帰者に限らず、昨今「うつ」になりそうな人は多い。うつ予備軍まで含めれば、働く人のさらに多くの人が該当するであろう。ということは、誰に対しても、その人のモチベーションを高めようとするような行為は、積極的に行うべきではないということになる。モチベーションが低そうにしていると上司に目を付けられるので、“モチベーションが高いふり”をする人も中にはいるであろう。会社用の仮面である。そのような場合、さらに精神的には苦しくなるに違いない。

「部下のモチベーションが低い」と言う上司は多い。自分の方針の不明確さや指導の拙さはさて置き、部下のモチベーションのせいにする。どうしたらもっと成果が上がるようになるか分からない場合、やる気に矛先を向ける。管理職には業績責任があり、業績へのプレッシャーを受ける立場だが、それをそのまま下に下ろしてしまうのは問題がある。プレッシャーは自分が一身に受け止め、部下には伸び伸びと実力を発揮させるのが本来あるべき姿である。だが、そのまま下にプレッシャーを下ろし、さらに、状況が思わしくない場合にモチベーションに矛先を持っていくのでは管理職として失格であろう。パワハラ上司の典型例である。

また、「社員のモチベーションが低い」と言う経営者もいる。「モチベーション低下に課題を感じない企業は業績好調な企業である」との調査結果もある通り、モチベーションを問題視する企業は業績が思わしくないケースが多い。業績が思わしくない理由を社員のせいにしていることになる。特に、「やる気」という内面的なところに求めるのは、思考が働いていない証拠であろう。
同様に、社員に対して、「若いのだから、もっと危機感を持て、元気を出せ!」と言う経営者もいるが、それは無理な話だ。経営者は常に光が当たっているので、業績が上がれば、経営者の手腕と社内外に認知される。社員は裏方、そのようなモチベーション装置は働かない。また、経営者でも常にモチベーションが高いわけではない。「私はモチベーションが下がることは全くない」と豪語する人がたまにいるが、それがもし本当なら、私はそういう人には人間的なものを感じない。

自分で「自分のモチベーションが低い」と言う人もいる。どうしたらもっと成果が上がるのか、具体的な思考を巡らすことなく、単にモチベーションのせいにしてしまう。「本気を出せば俺だって」と、仕事の技術も身に付いていないのに、モチベーションが問題としてしまう場合も同様だ。 結局、「モチベーション」という言葉は、“思考停止のキーワード”といえる。便利な言葉なので、安易にその言葉に飛びつきがちだ。「やる気」や「根性」に比べれば、「モチベーション」という言葉は多少なりとも知的な感じがするが、言っていることは同じである。

(続く)

プロフィール

元マーサージャパン株式会社 代表取締役副社長。マーサー社ではコンピテンシーに基づく人材の評価、選抜、育成および組織開発に関わるプロジェクト、日系企業海外現地法人の現地化推進等のコンサルティングのほか、コンサルティングノウハウのITプロダクト化、提携戦略等による新規事業開発に従事。現在は、継続性と実効性を確保できるマネジメント手法の開発および普及に力を注ぐ。著書に、『会社人生は評判で決まる』(日本経済新聞社)、『コンピテンシー活用の実際』(日本経済新聞社)、『チームを活性化し人材を育てる360度フィードバック』(共著、日本経済新聞社)、『図解戦略人材マネジメント』(共著、東洋経済新報社)ほか。日本人材マネジメント協会(JSHRM)幹事等を歴任。

写真:南雲 道朋(なぐも・みちとも)
株式会社HRアドバンテージ代表取締役社長
相原 孝夫(あいはら・たかお)

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