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  4. 【コラム】第58回 〈番外編〉がん検診におもう
コラム

〈番外編〉がん検診におもう

久しく番外編を書いていなかったので、このあたりで少し肩の力を抜いて番外編を挟みたいと思う。番外編はまったくの私事の中で思うところがあったことについて、これまでも書いてきたが、今回もそのような内容とさせていただく。コラムというよりも、むしろブログ的であることをお許しいただきたい。

知人の勧めで、先週、会社近くの病院でがん検診を受診した。PET検診というもので、がん細胞は正常細胞よりも多くのブドウ糖を摂取するという特性を利用して、ブドウ糖に似た構造の薬剤を使用し、体内のブドウ糖の代謝を画像化してがんを診断するものである。 

診断の結果は2週間後に郵送されるとのことだったが、その後に受付の方が付け加えられた一言が、耳から離れなくなった。それは、「ただし、緊急性が高い場合にはお電話します」というものだった。受付の方としては普通に事務的連絡として付け加えられたに違いない。この検診を受診した人には毎度当たり前のように、そのように伝えているのであろう。しかし、受診者の側からすれば、こんなに怖い言葉はない。おかげでそれ以降というもの、電話には異常なまでに過敏になった。

クライアント先でのミーティング中などは、携帯のバイブが鳴っても放っておくのだが、それ以降は、非礼ながら思わず手に取って表示を見てしまうことが多くなった。03から続く見知らぬ番号であった時など、気が気ではなくミーティングへの集中度にも少なからず影響した。その病院の検診センターの番号を登録するかどうかしばし迷ったが、迷った挙句に登録をした。電話が鳴り、その病院名が表示されでもしたら、心臓が口から飛び出しそうなほどに驚愕するに違いないのだが、とはいえ、03番号の度にいちいち集中度を落とされるのも堪ったものではないので、結局そのようにした。

ある時、やはりミーティング中にバイブが鳴った。携帯を手に取るとその病院名が表示されている。あぶら汗が滲む。中座の許しを得て電話に出る。心なしか聞き覚えのある声。「相原様の携帯ですね。大切なお話があります。早急に弊院までお越しください。」目の前の景色が歪む。

こんな夢を数日前に見た。映画やテレビドラマでこのようなシチュエーションがあまりにも多いので、容易に自分の中で映像化されてしまうのであろうか。とはいえ怖れすぎだろうか。しかし、相手は癌だ。身近な人の中にもそれによって旅立たれた人は多い。あと半年なんて言われたらどうするか。まだ小学生の子供がいる身である。「緊急性が高い場合にはお電話します」というあの一言。あれは果たして、あえて付け加えるべきものなのかどうか。そんなことも幾度か考えた。聞いてしまえば、受診者の側では自ずと構えてしまう。たとえ心配のない結果だったとしても、2週間もの間、無用な心配をしてしまうことになる。

果たして「あと半年」と言われたらどうするか?いろいろ考えてみては即座に否定するようなことを何度も繰り返した。やりたくてもなかなかできなかったことをやり尽くすか。行きたくて行けなかった所へ行くか。それとも、少しでも世のためになるようにボランティア活動に精を出すか。やはり、家族と一緒に過ごす時間を少しでも多くすべく、とにかく家族に密着するか。いずれもどうもあたふたし過ぎのような気がする。最低限、映画「マイ・ライフ」のマイケル・キートンを見習って、自分がこれまで学んできたことを息子へ伝えるべくビデオに収録するか。いやかえってそのようなものは残さない方がいい。

さんざん逡巡した挙句、その時が来るまで、自分らしい普通の生活を送るのがやはりベストではないか、というありがちな結論に至ることになった。なんとなく、それが良いように思う、というのが一番の理由だ。癌とはいえ、死とは生物にとって自然なことであるから、その自然なことへ向けて不自然な行為をしてしまえば、死の間際になってきっと後悔しそうな気がするのだ。ただ、自然に日常を過ごすとはいっても、その事実を知らなかった場合と同じようにというわけにはいかない。やはり後悔を残さないように、自分らしく密度濃く過ごしたいとは思う。ほかに何か特別なことをするとするならば、座右の書でもある、「後世への最大遺物」(内村鑑三著)にあるように、自らの思いや考えを何らかの形で遺すことくらいであろうか。

しかし、自分らしく自然に過ごすと考え至ったところで、一つの壁に直面することになった。自分らしくとはどういうことか、という点である。これまで、内観のようなことはあまり気が進まず、いわば自分自身を見て見ぬふりをして過ごしてきた。自己が肥大化してしまうのは良くない、なんていう言い訳のもとに自分はさて置き、仕事や会社、家族や社会など、周りのことにあえて意識を向けてきた。しかしここに至って、もしもの時の備えとしてそこを考えておかなければいけないという状況に直面することになった。自分らしくということが分からなければ、自分にとって自然な状態というのも分からない。結果として、その時へ向けて、自分らしく自然に過ごすことすらままならない。これは困ったことである。

いろいろ考え、自らの原風景といったものに思いを巡らす中で、「職人気質」への憧れの理由などが確認できた。まだまだ時間は掛かりそうだが、どうもそのあたりから自分らしさのヒントが得られそうだ。この点が今後へ向けての大きな宿題となったが、少なくとも、今回図らずも逡巡する機会を得たことで、もしものその時までにどう過ごすべきか、さらにそれまでに何を考えておく必要があるのかが鮮明になり、だいぶ心の平静を得られたように思う。ともかく現状においては、例の一言を受付の方が言ってくれたことに感謝しなければならないであろう。


(これをアップした後に、がんになったような結末で心配になる、というありがたいご心配のお声をいただいたので、追記させていただきます。現時点にてまだ診断結果は出ておりませんが、夢の中以外では電話連絡もいただいていないので、少なくとも緊急性はないものと心得ております。お心遣いに感謝いたします。)

プロフィール

元マーサージャパン株式会社 代表取締役副社長。マーサー社ではコンピテンシーに基づく人材の評価、選抜、育成および組織開発に関わるプロジェクト、日系企業海外現地法人の現地化推進等のコンサルティングのほか、コンサルティングノウハウのITプロダクト化、提携戦略等による新規事業開発に従事。現在は、継続性と実効性を確保できるマネジメント手法の開発および普及に力を注ぐ。著書に、『会社人生は評判で決まる』(日本経済新聞社)、『コンピテンシー活用の実際』(日本経済新聞社)、『チームを活性化し人材を育てる360度フィードバック』(共著、日本経済新聞社)、『図解戦略人材マネジメント』(共著、東洋経済新報社)ほか。日本人材マネジメント協会(JSHRM)幹事等を歴任。

写真:南雲 道朋(なぐも・みちとも)
株式会社HRアドバンテージ代表取締役社長
相原 孝夫(あいはら・たかお)

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