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  4. 【コラム】第56回 ポジティブフィーリングについて
コラム

ポジティブフィーリングについて

ポジティブな感情が支配している職場もあれば、ネガティブな感情が支配している職場もある。ポジティブな感情が支配している職場では、メンバー間の対話は多く、創造性も高く、生産性も高い状態になる。また、対話が多い場合には、人材も育ちやすい。職場を構成するメンバーが、そのような空気をつくるわけだが、その中でもやはりリーダーの存在は大きい。多くのリーダーを観察してみると、大きく分ければ、人の長所を見ることに長けている人と、人の欠点ばかりに目が向いてしまう人とに分かれるようである。

部下を育てられるマネジャーはもちろん前者だ。後者の場合、本人は部下を育成しているつもりでも、目についた欠点を指摘しているに過ぎないことが多い。前者のマネジャーはどうして長所を見ることができるのであろうか。一つの答えは、マネジャー自身の感情にあるようだ。「“ポジティブフィーリング”があるから人の長所に気がつく」と心理学者であり精神科医のカレン・ホーナイは言っている。ポジティブシンキングではない。考え方ではなく、感情である。

かつてプロ野球のオリックスで監督をしていた仰木彬氏は、ポジティブフィーリングを持ち、選手の長所を見るのに長けた監督だった。就任後、それまで二軍生活をしていたイチロー選手をすぐに一軍に抜擢して大活躍させた話は有名である。イチロー選手は、前の監督の時には、これまでの定石に合わないバッティングフォームであるというだけで否定されていた。もし仰木監督に替わっていなければ、世界のイチローは生まれなかったであろう。これまでの定石にこだわらず、良い点に目を向けることができたからこそ、イチロー選手を開花させることができたのである。

ポジティブフィーリングは、職場など密な関係の場において、長期に渡って良好な関係を維持するという点においても重要な役割を果たすと考えられる。密な関係にあっては、心理学用語で言うところの「近親憎悪」の状況がどうしても起こりやすい。他者の中に自分がコンプレックスを持っている点を見出してしまい、嫌悪感を抱くことだ。当初は関係が良くても、ある時から急に関係が悪化するというような場合、これが影響していることが多い。ポジティブフィーリングを保ち、他者の良い面に目が向かうような場合には、こうしたことは起こりづらくなる。なぜなら、他者の良い面を見ようとする場合、自分にはない面を捉える傾向が強いからだ。

小惑星探査機「はやぶさ」の奇跡的な成功に、映画化の話が殺到し、3本もの映画がこの同じ題材で製作されることになったと聞く。地球重力圏外にある天体に着陸してのサンプルを採取して持ち帰ったのは、世界初という快挙だった。プロジェクトリーダーの川口淳一郎教授は一躍時の人となったが、川口教授のインタビュー記事などを読んでいて最も印象深いのはその楽観性である。秋元康氏との対談(「文藝春秋」2011年10月)で、「トラブルの場面では普通、もっとパニックになりませんか?」と聞かれて、「まず前提として我々は幸福なんです。確かにトラブルはたくさんあるけれども、世界初の試みにおいてトラブルを抱えられる立場にいられるのがすごいこと。」と答えている。

著書「はやぶさ、そうまでして君は」(宝島社)の中でも、「ギリギリのミッションでも、洒落を忘れない宇宙研の文化」という節において、職場のポジティブな空気について以下のように記している。「『はやぶさ』から送られてきた小惑星イトカワの写真がラッコに似ていたので、それ以降、スタッフはイトカワのことをラッコと呼んでいた。管制室の前の壁に、イトカワの写真にラッコの目、ヒゲ、貝殻を描いた作品が張り出されたりもした。紙粘土細工のコンテストも開いた。(中略)愛称をつけたことで、現場の会話がスムーズになった。(中略)『ラッコの左わき腹のあたり』とか、『ラッコのお尻あたり』とか、イトカワの場所を伝えやすくなった。」

このプロジェクトは予期せぬトラブルの連続であったわけだが、中でも、通信が途絶し、3億キロ彼方の宇宙で「はやぶさ」が行方不明になるという絶体絶命の事態があった。この時の思いを川口教授は以下のように述べている。「『行方不明のときは夜も寝られなかったのではないか』、『ストレスで体調を壊さなかったか』と聞かれますが、それはありませんでした。毎日、よく寝ていたし、ストレスを感じることも、とくになかったと思います。開き直っていたわけではありません。(中略)いわばどん底の状態にいました。ということは、もうそれ以上悪くなることはないのです。だから、あれこれ悩み、恐れ、悶々としていても意味がない。最悪ということは、次に変化があるとしたら、間違いなくプラスの変化。どんなに冬が厳しくても、その先には必ず春が待っている。」 このようなポジティブフィーリングがあったからこそ、奇跡を呼び込むことができ、トラブルの連続を、奇跡の連続に変えることができたのであろう。

プロフィール

元マーサージャパン株式会社 代表取締役副社長。マーサー社ではコンピテンシーに基づく人材の評価、選抜、育成および組織開発に関わるプロジェクト、日系企業海外現地法人の現地化推進等のコンサルティングのほか、コンサルティングノウハウのITプロダクト化、提携戦略等による新規事業開発に従事。現在は、継続性と実効性を確保できるマネジメント手法の開発および普及に力を注ぐ。著書に、『会社人生は評判で決まる』(日本経済新聞社)、『コンピテンシー活用の実際』(日本経済新聞社)、『チームを活性化し人材を育てる360度フィードバック』(共著、日本経済新聞社)、『図解戦略人材マネジメント』(共著、東洋経済新報社)ほか。日本人材マネジメント協会(JSHRM)幹事等を歴任。

写真:南雲 道朋(なぐも・みちとも)
株式会社HRアドバンテージ代表取締役社長
相原 孝夫(あいはら・たかお)

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