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  4. 【コラム】第53回 若者の出世欲は本当に減退したのか?
コラム

若者の出世欲は本当に減退したのか?

「最近の若者は出世欲がない」とよく言われる。この言説の一つの根拠となっているのはどうやら、数年前のある調査結果の報道にあるようだ。「高校生意欲調査『出世意欲』、日本は断トツ最下位」(2007年4月24日 毎日新聞)などだ。これは、財団法人日本青少年研究所による「高校生の意欲に関する調査―日米中韓の比較」の調査結果に基づくものだが、「偉くなりたいか」という問いに対して、「強くそう思う」と答えた高校生の割合が、中国34.4%、韓国22.9%、米国22.3%に対して、日本は8.0%であったことを受けてのものだ。

しかし、これをもって出世欲がないと断定して果たしてよいものだろうか。上のような質問に対して、「強くそう思う」と答えるのは、日本人の中では稀ではないかと思われるからだ。個人の意見を明確に表明する傾向の強いアメリカ人や中国人ですら、20数%~30数%という数字だ。日本人の場合は、出世欲を持ってはいても、敢えて誇示しないというのが通例であろう。また、「偉くなりたいか」と問われた場合、どういう人を偉いとイメージするかにも拠るであろうし、偉くなるという明確なイメージがない場合なども、「強くそう思う」とは答えづらいのではないだろうかと思われる。

筆者は大手企業の若手社員と接する機会は多いが、出世したくないと思っている人はほとんど例外的であるように思う。むしろ、同期の中でもできるだけ早く昇進したいと思っていて普通だ。それは組織人として極めて自然なことに違いない。そうでないならば、そもそも大きな組織に就職するということ自体とも矛盾する。中には趣味に生きるうえで、仕事は最低限との割り切りのある人もいるかもしれない。個展を開くくらいの腕前の画家で、でもそれだけでは生計が立たないのでサラリーマンをやりながら絵を描いているという人に会ったこともある。しかし、いずれにしてもごく少数派だ。

他の調査結果を見ると、決して若者の出世欲は低くはない。産業能率大学が毎年新入社員を対象に実施している調査では、将来の進路として、「管理職として指揮を執る」が過去最高を更新した。昨年度にはじめて、“管理職志向”が“専門職志向”を上回り、今年度は“管理職志向”がさらに強まり48.1%となった。専門職か管理職かという選択肢においても、半数近くの新入社員が管理職を望んでいるという結果となったわけだ。(「2011年度新入社員の会社生活調査」産能大学より)

また別の調査結果を見ても、同様の意識が反映されていた。一般企業に就職が決まった大学・大学院卒業予定者に対して、理想と自信を聞いた調査では、「仕事をするからには、少しでも上のポジションに昇進・出世する」に対して、理想との回答が63.0%、自信については38.5%であった。現実にどうかとなると大きく比率は落ちるが、希望としては過半数を大きく超えている。同様に、「同期のなかで誰よりも早く管理職に就く」については、理想44.0%、自信30.5%との結果であった。(「新入社員の理想と自信」ヤフーバリューインサイトより)

上の調査ではいずれも、「自信」については30%台と低い数字になっているが、ではいったい、どのような人が出世するのであろうか。米AT & T社が行った有名な数十年に及ぶ追跡調査がある。入社した社員の能力や価値観、行動特性等をありとあらゆる方法で測定し、その人がその後どのようなキャリアをたどったかを見たものだ。この調査の結果、非常に面白いことがわかった。社内で出世した人は、出世したいという気持ちが強かった人だった。能力や行動特性等々、様々な側面を測定したが、最も関係していた要素は、その人がどうなりたいと思っていたかという点だったのだ。

こういう点からすると、冒頭で紹介した日本青少年研究所が行なった調査のうち、最新(2011年)の調査結果の中で、ある項目がむしろ心配になる。自己肯定感に関する項目だ。「私は価値のある人間だと思う」に対して、「全くそうだ」と答えた比率が、米国57.2%、中国42.2%、韓国20.2%、日本7.5%。次に、「自分を肯定的に評価するほう」に対しては、米国41.2%、中国38.0%、韓国18.9%、日本6.2%。「自分が優秀だと思う」が、米国58.3%、中国25.7%、韓国10.3%、日本4.3%という結果だった。このような自己評価であっては、将来に対して希望を持って生きていくことは困難なのではないかと危惧せざるを得ない。少なくとも、「偉くなりたいか」に対する8.0%よりも、「私は価値のある人間だと思う」の7.5%の方が、はるかに強い危機感を持って受け止めるべき結果ではないだろうか。

プロフィール

元マーサージャパン株式会社 代表取締役副社長。マーサー社ではコンピテンシーに基づく人材の評価、選抜、育成および組織開発に関わるプロジェクト、日系企業海外現地法人の現地化推進等のコンサルティングのほか、コンサルティングノウハウのITプロダクト化、提携戦略等による新規事業開発に従事。現在は、継続性と実効性を確保できるマネジメント手法の開発および普及に力を注ぐ。著書に、『会社人生は評判で決まる』(日本経済新聞社)、『コンピテンシー活用の実際』(日本経済新聞社)、『チームを活性化し人材を育てる360度フィードバック』(共著、日本経済新聞社)、『図解戦略人材マネジメント』(共著、東洋経済新報社)ほか。日本人材マネジメント協会(JSHRM)幹事等を歴任。

写真:南雲 道朋(なぐも・みちとも)
株式会社HRアドバンテージ代表取締役社長
相原 孝夫(あいはら・たかお)

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