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  4. 【コラム】第52回 心の時代の「三種の神器」
コラム

心の時代の「三種の神器」

かつて高度成長期の頃には、「白黒テレビ、洗濯機、冷蔵庫」の3つの電化製品を指して、「三種の神器」と称された。1950年代後半のことである。その後、1960年代のいざなぎ景気の時代には、「新・三種の神器」というものも生まれた。「カラーテレビ、クーラー、自動車」の3つで、3Cと言われた。

これらはいずれも、新しい消費習慣を表わすマスコミ主導のキャッチコピーであったが、その時代の物質的欲求にぴったりとフィットしたためであろう、言葉としてたいへんに普及し、浸透した。これらはほとんど例外なく、誰もが求め、そして手に入れていったと言ってもよいであろう。「三種の神器」と命名されずとも、時代と共に普及した製品であったに違いないが、「三種の神器」ともてはやされたことによって、横並び意識も煽り、先を競い合うようにして、より早くに普及したということはあるであろう。

今の時代は、このような物質的欲求のない時代なので、上記のようなものは残念ながら存在しない。少し前に、小泉純一郎元首相が施政方針演説の中で、「食器洗い乾燥機・薄型テレビ・カメラ付携帯電話」を「新三種の神器」と命名し、「欲しいものがないといわれる現在でも、新しい時代をとらえた商品の売れ行きは伸びている」と述べたが、まったく定着はしなかった。決して必需品ではないし、欲しい人もいれば欲しくない人もいるという物であり、人々の感覚と合致しなかったためであろう。

欲しい物がないどころか、ロハス的な生き方を志向する人も増えているくらいなので、そうした分かりやすいキャッチコピーで消費を煽るのはもはや無理なのであろう。ただ、かつての「三種の神器」は豊かさや憧れの象徴でもあり、それらを手に入れることで幸福感も感じられたことから考えると、今の時代はそうした身近な夢がなくなったともいえる。なんとなく寂寞感を感じなくもない。目指したい憧れがなく、分かりやすい幸福感は得られづらい時代となったといえるかもしれない。

今の時代は、バブル期あたりまでの「物の時代」との対比でいえば、「心の時代」ということになるであろう。物質的にはもはや満足感は得られず、精神的な満足の重要性が増している時代だ。何かを手に入れた時の満足感のような、分かりやすいものではない。むしろ、ライフスタイルなどのプロセスに宿る満足感といえるであろう。なかなか捉えづらく、言語化がしづらい。それゆえ、そういう状態を目指そうという風には、なかなかなりづらい。今の時代はとかく先が見えづらく混沌としており、人々の笑顔が少なくなっているように思えるのも、そうした事情と関連があるのかもしれない。

鮮明にイメージできないものは目指すことができない。目指そうと思うためには、その状態をイメージできることが必要であり、イメージするためには言葉で表わすことが先決だ。ゆえに、少々無理を承知で、敢えて「心の時代」の「三種の神器」というものを考えてみたい。まず、「物の時代」ではないから、掲げる3つのものは「物」ではない。達成されるべき状態や感覚ということになる。次に、かつての「三種の神器」の共通項から、その条件を見出してみると、以下のようなことが言えそうである。
・普通の人が普通に努力すれば手が届く
・日々の生活に大きな影響を及ぼす(手に入れることによって日々の生活が豊かになる)
・家族と夢を共有できる(身近な人を喜ばせることができる)

こうした条件が揃ってはじめて、頑張ってそこを目指そうと思えるということであろう。まず最も重要と考えられるのが一点目だ。達成できると思わないものにはモチベーションは湧かない。ほんの一握りの才能に恵まれた人だけが達成できるようなものであっては、多くの人が目指そうとは思わない。同様に、尋常ならざる努力を続けなければ手が届かないものであっては、やはり意欲は湧かない。大多数の人が普通に努力すれば届く、ということが最初の条件となる。

物質的な豊かさは基本的にプライベートでのこととなるが、精神的な豊かさは普段身を置く場において感じるものとなる。一度手に入れれば終わりではなく、継続的に続くものだ。日々の生活の中で主として身を置く場は、社会人であれば「職場」と「家庭」である。その他、趣味や交友関係の場があったとしても、それらはあくまでも付加的なものであり、主たる場が充実しなければ、精神的な豊かさは得られようがない。

職場において精神的な豊かさを感じるためには、まず「人間関係」の良好さは必須だが、それだけでは充実感までは得られない。組織に属している以上、その組織に貢献する責務がある。組織の役に立つことができるという自信、いわば「自己効力感」を感じられることが重要となる。達成感がなくても生きていけるが、役立ち感がなければ生きていけない、と言うのは言い過ぎだろうか。

以上のような観点から、「心の時代」の「三種の神器」を捉えてみるならば、
・職場での良好な人間関係
・仕事における自己効力感
・家族との良好な関係
と定義づけられそうである。
ただし、誰もが家庭を持ち、会社組織に属すという生き方を選択するわけではない。それぞれ独自の生き方が増加傾向にあるように、価値観の多様化が進む中にあっては、共通性を括ろうとすること自体が間違いなのかもしれない、という思いも付け加えておかなければならない。

プロフィール

元マーサージャパン株式会社 代表取締役副社長。マーサー社ではコンピテンシーに基づく人材の評価、選抜、育成および組織開発に関わるプロジェクト、日系企業海外現地法人の現地化推進等のコンサルティングのほか、コンサルティングノウハウのITプロダクト化、提携戦略等による新規事業開発に従事。現在は、継続性と実効性を確保できるマネジメント手法の開発および普及に力を注ぐ。著書に、『会社人生は評判で決まる』(日本経済新聞社)、『コンピテンシー活用の実際』(日本経済新聞社)、『チームを活性化し人材を育てる360度フィードバック』(共著、日本経済新聞社)、『図解戦略人材マネジメント』(共著、東洋経済新報社)ほか。日本人材マネジメント協会(JSHRM)幹事等を歴任。

写真:南雲 道朋(なぐも・みちとも)
株式会社HRアドバンテージ代表取締役社長
相原 孝夫(あいはら・たかお)

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