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  4. 【コラム】第51回 「インタラクションビオトープ」としての職場
コラム

「インタラクションビオトープ」としての職場

私共の研究の主たる対象は組織であるが、組織とはいわく言い難く、深遠なものである。一人と二人、三人以上とでは、個人の考えも行動もまったく異なる。ドイツの社会学者ジンメルは、「二者関係」と「三者関係」とでは、その関係の質がまったく異なってくるという。二者が三者になると、「あの人」と「私たち」、「私」と「あの人たち」という関係が生じる。これをジンメルは「分離による結合」といい、大都市の日常生活にも見られるという。皆が一定の無関心(分離)を維持する限りにおいては、むしろ他人との結合が可能となるという。

職場の中ではどうであろうか。ほとんどの場合、自分と相性の良い特定の相手とは親密な関係を築く一方で、そうでない多くの人とは表面的な関係を維持するということで成り立っている。職場とは共通の目的のもとに組織化された、限定された数の集団であるから、大都市の場合のような相互無関心では成立し得ない。ところが、職場においても似たような状況、つまり「分離」が進みつつある状況が多く発生しているようだ。

このような状況になってくると、様々な問題が連鎖的に噴出してくる。人が育たない、新しいものが生まれない、モチベーションが高まらない、離職が増える、メンタル疾患が生じる等々。組織上の問題のほとんどは同根といってよい。すべては職場の弱体化が招くものだ。ゆえに、職場が健全でありさえすれば、すべての問題を根絶やしにすることができる。

職場の弱体化とは何を意味するのか?端的に言えば、ジンメルがいうところの「分離」ということになる。個と個の結びつきが希薄になること。周囲の他者との関わり合いが少なくなること。もっと言えば、他者に関心を持たなくなる現象といえる。ではなぜ、このような状況が多く起こるようになったのであろうか。よく言えば、IT化の進展のおかげで、単独でおこなえる仕事が増えたということになる。他者を介さなくても必要な情報を得ることができ、直接対話せずともネット上でリアルタイムでの意見交換もできる。

一方、他者に積極的に関わる行為とは、いわばフィードバックである。気づいた点、気になった点を伝える。最近では新入社員ですら、メンターなどの教育係に任せ切りで他の人たちは無関心という状況も多いようだが、それでも、新入社員のうちはいろいろなフィードバックを受ける機会には恵まれる。口うるさい上司はある意味ありがたい存在である。入社して数年が経ち、ある業務の担当にでもなれば、得られるフィードバックはぐんと少なくなる。ましてや、マネジャーにもなれば、よほどお節介な同僚でもいないかぎり、誰もフィードバックなど得られなくなる。このような状況になってくると、事前にミスが発見されることもなくなり、新しいことが生まれることもなくなる。 

スポーツの世界を見てみると、フィードバックはごく当たり前であり、日々普通におこなわれている。コーチが選手一人ひとりの動きを見て、その場で必要なアドバイスをする。それを何度も何度も繰り返す。なぜ、このように当たり前なのか?まず、それぞれの役割や責任がはっきりしているという点が挙げられる。選手はもちろん結果がすべてであり、処遇に直結する。コーチも、プレーヤーに結果を出してもらわなければ早晩用無しになる。互いに真剣勝負なのだ。また、フィードバックのしやすさもあるであろう。体の動きは直に見て取ることができ、それゆえ具体的なアドバイスが可能となる。その結果も比較的短期的に表われる。

ビジネスの現場では、プレイングなしでコーチ役に専念できるマネジャーは少ないであろうが、全体の時間の1割や2割という時間を区切ってのコーチ専念は可能なはずだ。多くの企業において、部下の成長が思わしくなくても、取り立てて上司の責任が問われたりするわけではないのは疑問である。思わしい成長が見られなければ、育成責任のある上司の処遇にも関わるのは当然ではないだろうか。部下を育てられる上司が厚く評価され、昇進していくということは極めて真っ当なことである。そうすることによって組織力は強化されていくことになる。こうした、いわば徳の側面よりも、功(業績)を重視した人事が繰り返されることによって組織は弱体化するのである。

ビジネスの現場では、改善課題がスポーツのように分かりやすくは把握されない。また、行動改善の結果も短期的には表われづらい。しかし、部下の一人ひとりをつぶさに観察し、対話すれば、課題は把握できるであろう。その結果もすぐには出なくとも、注意深く見守れば、何らかの小さな変化は必ず見て取れるはずだ。フィードバックとは気づいた点を伝えることであるから、まずは気づかなければならない。その感度を高めることが、フィードバックの第一歩といえる。

フィードバック文化を根付かせる鍵はまさにこうした点にある。部下の一人ひとりに十分な関心を持ってつぶさに観察し、フィードバックする。そしてまた小さな変化を見つけてフィードバックする。カッコいいアドバイスは必要ない。コーチングスキルなどもなくてもいい。しっかり観察し、見て取ったことをフィードバックするだけでいい。これを継続していけば必ず互いの成長につながり、またこうした行動特性が職場全体へ広がれば、気づいた点を率直にフィードバックし合う環境ができ、組織の文化が形成される。

職場の中で互いに啓発し合い、対話し、意見をぶつけ合い、共に成長する。そうした中で、より良いやり方をみつけ、生産性を高め、新しいものも生み出す。職場の中での交流が活発化することによって、個々のレベルが高まるとともに、職場全体のレベルも高まる。もちろん、こうした状況に近づけば、諸々の組織上の問題はすっかり鳴りを潜めることになる。職場とは本来こうした環境を皆が一丸となって維持、保全すべき場である。交流生息域とでもいおうか、「インタラクションビオトープ」としての職場を目指したいものである。

プロフィール

元マーサージャパン株式会社 代表取締役副社長。マーサー社ではコンピテンシーに基づく人材の評価、選抜、育成および組織開発に関わるプロジェクト、日系企業海外現地法人の現地化推進等のコンサルティングのほか、コンサルティングノウハウのITプロダクト化、提携戦略等による新規事業開発に従事。現在は、継続性と実効性を確保できるマネジメント手法の開発および普及に力を注ぐ。著書に、『会社人生は評判で決まる』(日本経済新聞社)、『コンピテンシー活用の実際』(日本経済新聞社)、『チームを活性化し人材を育てる360度フィードバック』(共著、日本経済新聞社)、『図解戦略人材マネジメント』(共著、東洋経済新報社)ほか。日本人材マネジメント協会(JSHRM)幹事等を歴任。

写真:南雲 道朋(なぐも・みちとも)
株式会社HRアドバンテージ代表取締役社長
相原 孝夫(あいはら・たかお)

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