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  4. 【コラム】第50回 「職を失う」ということ
コラム

「職を失う」ということ

東日本大震災と福島第一原発事故による避難者数が10万人を切ったと警察庁から発表があった(ただし、総務省消防庁がまとめた避難者数は158738人)。県外避難はなお増加傾向にあるという。発生から2ヶ月以上経って、未だこういう数である。当事者たちの憤りはいかほどのものか。

筆者の実家のある栃木県の宇都宮市も、ささやかながら被災した。とはいえ、家の中の物が割れる、壊れる等はどうということなく、塀が崩れる、屋根が崩れる等も、怪我人さえ出なければ大したことはない。家を失い、職を失った人たちでさえ、命を失ったり、家族を失った人たちのことを思い、3ヶ月近くもの長きに渡り、避難所でじっと耐えているのだ。

まずは住まいを確保することであるが、次に職である。同じ土地で職を見つけることは、容易ではないであろう。生活をしていく糧を得る手段として、職を得ることはまず重要だが、それだけではない。精神的な意味においても極めて重要だ。「職を失う」には二つの意味がある。「仕事を失う」ことと、「職場を失う」こと。

仕事はあるのが当たり前の状況に慣れてしまえば、その意味を考えることはなくなってしまいがちである。しかし、仕事を失ったり、仕事ができない状況に遭遇した人たちは皆、口を揃えてその喪失感について語る。他の回でも述べたが、「金銭的にまったく生活に困らない状況であったなら、仕事を辞めますか、それとも続けますか」という質問をセミナー等でした場合の回答のおよそ9割は、「続ける」という答えであった。その主な理由は、自分の存在意義の確認、社会との接点の確保、成長、達成感・充実感などである。

自分の存在意義の確認というのは、「役に立ちたい」という思いとつながる。人は誰しも、誰かの役に立ちたいという思いとともに、誰かに認められたい存在でもある。こうしたことは、仕事の場をおいて他にはなかなか得られるものではない。世のため人のためという生き方は、自分の精神的な健康にとっても望ましいことであると、「夜と霧」などの著作をもつ心理学者のヴィクトール・フランクルをはじめ、幾人かの心理学者は指摘している。

社会に貢献したい、誰かのために役に立ちたいといっても、一人では大したことはできないのは皆同じだ。どんな生産物でも、たくさんの人たちがいてはじめて、生産され、運搬され、販売され、消費者の手に渡る。どんなに高度な専門家であっても、組織に属さなければその専門性を発揮することすらできないことがほとんどだ。組織があってはじめて自分の強みが活かされ、社会に貢献できる。

同時に、職場は一つの重要な居場所であり、コミュニティーでもある。いくつかの役割があって初めて、人間らしい生活が可能となる。つまり、単なる生物学的個人ではなく「社会的」個人として、存在することができる。家族の中での役割、地域社会での役割、職場での役割。会社勤めの場合には、良くも悪くも職場で過ごす時間が圧倒的に多く、そこにおける役割を中心に生きてきたはずだ。

それがある日突然になくなる。定年退職の場合など、十分な時間と心理的な準備があってもなお、喪失感を覚えるくらいだから、何の準備もなく突然訪れたら、言い尽くせぬ感覚に苛まれるに違いない。当面は、被災地の各自治体における期間限定での復興関連の仕事が中心となるであろう。しかし、復興予算は10兆円を超えるはずだから、この多くが被災地に落ち、被災者の雇用を全面的に後押しすることを願うばかりだ。

先に引用したヴィクトール・フランクルは、「私は人生になにを期待できるか」を問うのではなく、「人生は私になにを期待しているのか」を問うべきだという。私たちは人生に問われている存在なのである、と。

プロフィール

元マーサージャパン株式会社 代表取締役副社長。マーサー社ではコンピテンシーに基づく人材の評価、選抜、育成および組織開発に関わるプロジェクト、日系企業海外現地法人の現地化推進等のコンサルティングのほか、コンサルティングノウハウのITプロダクト化、提携戦略等による新規事業開発に従事。現在は、継続性と実効性を確保できるマネジメント手法の開発および普及に力を注ぐ。著書に、『会社人生は評判で決まる』(日本経済新聞社)、『コンピテンシー活用の実際』(日本経済新聞社)、『チームを活性化し人材を育てる360度フィードバック』(共著、日本経済新聞社)、『図解戦略人材マネジメント』(共著、東洋経済新報社)ほか。日本人材マネジメント協会(JSHRM)幹事等を歴任。

写真:南雲 道朋(なぐも・みちとも)
株式会社HRアドバンテージ代表取締役社長
相原 孝夫(あいはら・たかお)

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