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  4. 【コラム】第49回 評判のいい人(補論)
コラム

評判のいい人(補論)

前回の最後に、「評判とは、ある人が別の人に対して下した判断あるいは評価そのものではない。それらが、それ以外の第三者に伝えられてはじめて評判となる。それゆえ、その人物について他者に伝えたいという誘因が湧かなければ評判は形成されないという特徴がある」と述べた。今回、この点に関する若干の補足を述べて、当テーマを終ることとしたい。

「評判」には上記のような特性があるため、良い評判よりも悪い評判の方が伝わりやすいということになるのであろう。「陰口」というのは、当人がいない所でその悪口を言うことだが、これは日常茶飯事どこにでもあることだ。一方、当人がいない所でその優れた点について話されるということは、残念ながらそう多くあることではない。人は誰しも自尊心を持っている。他人を下に見た方が自尊心は満たされる。よって、話す方も、それを聞く方も、前者の場合の方が欲求が満たされることになる。こうした、本能的インセンティブとでも言えばよいのだろうか、これが後者の場合には働かない。むしろそれに反することになる。よって、悪い評判はすぐにできても、良い評判をつくるのはなかなか難しい。

では、頼まれなくても、ある人に対する良い点を口にするのは、どのような場合であろうか。一つには、その人に人徳があり、人間性に感服せざるを得ない場合だが、これは立場が近い関係においてはそう多くあるケースではないであろう。より多くあり得るケースとしては、その存在がありがたい場合である。過去において何らか助けてもらったとか、現在、その者がいることによって助かっているというような場合だ。助かるといっても、実利的に助かるという場合だけではない。一緒に働いていて“楽しい”というような場合も同様だ。「○○さんって、どう?」と聞かれて、その人のことを思い出すと思わず笑顔になってしまうような、そうした人柄は常に貴重だ。

人柄などが人材の競争力というのも客観性が薄いように感じられるかもしれない。しかし、専門性やスキルよりもむしろ模倣されづらい差別化要因ともいえる。これは、組織において戦略や技術は模倣できても、組織風土は模倣できないことに似ている。キャリア採用をする場合、個人の専門性を期待してという側面は当然あるが、それだけでは採用には至らない。必要条件でしかないからだ。かつての経済成長期のように企業に余裕がある状況の中では、一つの強みがあるというだけでも、その面での貢献を期待して雇用するということはあったかもしれないが、余裕のない雇用状況の中にあっては、単に強みがあるだけでは採用には至らない。一緒に働きたいと思える人柄があってこそ、採用に辿り着けるのだ。「周囲を動機づける力」があると採用責任者が見た場合には、十分条件が満たされ即採用となる。

こうしたことは、何も採用の時だけの差別化要因ではない。社内においても、こうした点が重要な局面での決定要因となることは多い。たとえば、よくある悪い評判の最たるものとして、「人望がない」というものがある。こうした評判が立ってしまえば、もうその者のリーダー的ポジションへの登用は絶望的になる。こういうことで人事が決まっていく慣行を必ずしも良いとは思わないが、人事考課結果等よりもはるかにパワフルな影響力を持つことが多いのが現実だ。たとえば、抜擢人事を考えているある役員が「A君はどうかね?」と部門長に問うたとし、それに対する返答が「A君はたいへん優秀ですが、残念ながら人望がありません」だったとしたら、それまでだ。「ではB君はどうかね?」に対して、「B君は際立って優秀ではありませんが、周囲の人をやる気にさせることができます」との返答であったなら、これで確実にB君に決まる。なぜなら、リーダー的素養云々以前に、誰もがB君のような人柄に好感を持つからだ。

では、どのようにして良い評判は築かれるのかといえば、日々のおこないの積み重ねでしかない。一つの大きな成果によって評判は形成されるものではない。仮にいくつかの大きな成果を挙げることができたとしても、日々のおこないにおいて非協調的な印象を与えてしまえば、好ましい評判が築かれることはない。どれほど些細な行為であろうと、その一つひとつが評判を形づくる。しかし、いったん良い評判ができてしまえば、それが自ずと強化されていくという側面もある。良い評判の立っている人にはさらに良い評判が集まるという傾向がある。なぜなら、評判の良い人には多くの応援団が付いているようなもので、それに反する主張をした場合には多くの敵をつくるようなものだからだ。

次に、良い評判をつくることができたとし、それを維持することはまた難しい。継続的な努力が必要になる。一つの大きな成果で良い評判はできないが、一つの不誠実な行為だけで良い評判は十分に崩壊し得るからだ。アダムスミスによると、当時の一番の商業国はオランダであり、オランダ人が一番義理堅く約束を守ると観察している。なぜなら、取引の量が多いと、評判に少しでも傷がついたら大きな損失につながることを自覚していたからだ。一人ひとりの評判についても同じことがいえる。不誠実な行為一つでせっかくの良い評判も台無しになるのだ。

以上、なぜ評判ということについて述べてきたかといえば、評判に配慮して仕事をしていくという在り方が望ましいと思うからである。周囲の目を気にし過ぎるのもどうかとは思うが、昨今は周囲への気遣いということがあまりにも欠けがちな風潮にあるように思われるため、こうしたことを各人が強く意識するくらいでちょうどよいのではないかと思われるのだ。以前にも述べたとおり、評判に配慮するということは、周囲へ配慮することにつながり、また、短期的な実績よりも長期的な貢献を志向していくことにつながる。誰もがこうした点を念頭に置いていれば、職場の人間関係は自ずと良くなるはずであり、職場の生産性は高まるに違いない。

プロフィール

元マーサージャパン株式会社 代表取締役副社長。マーサー社ではコンピテンシーに基づく人材の評価、選抜、育成および組織開発に関わるプロジェクト、日系企業海外現地法人の現地化推進等のコンサルティングのほか、コンサルティングノウハウのITプロダクト化、提携戦略等による新規事業開発に従事。現在は、継続性と実効性を確保できるマネジメント手法の開発および普及に力を注ぐ。著書に、『会社人生は評判で決まる』(日本経済新聞社)、『コンピテンシー活用の実際』(日本経済新聞社)、『チームを活性化し人材を育てる360度フィードバック』(共著、日本経済新聞社)、『図解戦略人材マネジメント』(共著、東洋経済新報社)ほか。日本人材マネジメント協会(JSHRM)幹事等を歴任。

写真:南雲 道朋(なぐも・みちとも)
株式会社HRアドバンテージ代表取締役社長
相原 孝夫(あいはら・たかお)

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