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  4. 【コラム】第46回 「キャリア」から「プロフェッショナル」へ
コラム

「キャリア」から「プロフェッショナル」へ

昨年は200数十社の人事の方々とお会いしたが、たいへん多くお聞きした課題の一つは、「中高年のモチベーション」であった。これは、前テーマの「閉塞感」とも深く関係している。この点に関しては、業種問わず耳にすることが非常に多かった。人員構成上、当然発生する課題ともいえる。ポストにありつけない、あるいはいったん就いたポストを離れなければならない。そうしたことがモチベーションダウンの要因となっている。裏を返せば、ポスト、役職が与えるモチベーションが大きかったということである。

企業の中にあっては、役職が上がっていくことが出世であり、給料もそれに伴って上昇することが多いため、昇進が自己目的化してきたのは当然かもしれない。しかし、組織は自ずとピラミッド型を形成するため、規模が急拡大する状況でもなければ、上に行けば行くほど必要人数は少なくなる。よって、ポストにありつけない人の数が多くなるのは必然だ。複線型等でのごまかしは効かないということは、すでに多くの会社で経験済みである。

意識のシフトがない限り、根本的な解決はないと思われる。特に重要なのは、キャリアからプロフェッショナルへの意識の転換であろう。キャリアとは本来の意味は多様だが、組織の中にあっては、組織の階層を上がっていくことを強くイメージさせる。キャリアアップが昇進昇格と密接に重なっている状況においては、キャリアへの意識を高め過ぎることは望ましいこととは言えない。仕事そのものへの意識が薄れることにもなりかねないからだ。

組織内のキャリアアップではなく、一つの仕事を極めるということに、モチベーションを求めるべきであろう。過去のコラムでも述べたとおり、モチベーションの源泉は本来プロセスにあるわけなので、仕事そのものに意識を向けていくということが、あるべき姿なのであろう。どんな仕事でも、深めていこうとすればとことん深めていくことはできるものだ。キャリアアップに意識が向かい過ぎれば、こうした本来のモチベーションを削ぐことにもなりかねない。

かつて見たNHKのドキュメンタリー番組の中で、フランスであったかと思うが、ある老舗の高級レストランでウェイターをしている青年が紹介されていた。そのレストランの同じテーブルを親子三代で守り続けているということだった。その番組の主テーマは別にあり、それはほんの短い時間紹介されただけであったが、筆者自身はその場面にたいへんに大きな衝撃を受けたため、主テーマは忘れてもその場面だけはいつまでも脳裏に焼き付いている。

ウェイターの仕事をしている人には甚だ失礼ではあるが、学生がアルバイトでやっていることも多い職業である。やること自体、大きな変化のあることでもなく、想像的な仕事でもないように一見される。その仕事をその青年は生涯やり通す。そればかりか、彼の父も祖父も同じレストランで同じ仕事を生涯してきたという。その青年の誇りに満ちた眼差しが忘れられない。「天職」という言葉が自ずと浮かぶ。

ウェイターの中でも主任等の格の差は設けているかもしれない。しかし、ウェイターという立場自体は生涯変わらない。もちろん給料が年々増えていくなんていうことはない。基本的には何十年もの間、日々の仕事は同じである。ただし、客との関係一つとっても、深めていこうと思えばどこまでも深められるものであろう。詳細までは憶えていないが、多くの馴染み客がおり、客と程よい距離感を保ちつつ、本当に心地よい空間をつくり出していたように記憶している。この青年には、キャリアアップという考え方は微塵もないであろう。あるのは、その仕事への誇りであり、客へのホスピタリティーの気持ちであろう。

この例は少々極端な例だが、いずれの仕事においても、自分の仕事に誇りを持ち、その仕事を極めていこうという真っ当な執着を持つのであれば、組織内の立場に関わらず、モチベーションを維持し続けることはできるに違いない。そうすることこそが、仕事の質と生産性を高め、また、適正な職業的倫理観を保つことにもつながるであろう。ただし、「キャリア」から「プロフェッショナル」へ、考え方をシフトしやすくするうえでは、役割・権限の調整や処遇の在り方についての工夫は必要と思われる。

プロフィール

元マーサージャパン株式会社 代表取締役副社長。マーサー社ではコンピテンシーに基づく人材の評価、選抜、育成および組織開発に関わるプロジェクト、日系企業海外現地法人の現地化推進等のコンサルティングのほか、コンサルティングノウハウのITプロダクト化、提携戦略等による新規事業開発に従事。現在は、継続性と実効性を確保できるマネジメント手法の開発および普及に力を注ぐ。著書に、『会社人生は評判で決まる』(日本経済新聞社)、『コンピテンシー活用の実際』(日本経済新聞社)、『チームを活性化し人材を育てる360度フィードバック』(共著、日本経済新聞社)、『図解戦略人材マネジメント』(共著、東洋経済新報社)ほか。日本人材マネジメント協会(JSHRM)幹事等を歴任。

写真:南雲 道朋(なぐも・みちとも)
株式会社HRアドバンテージ代表取締役社長
相原 孝夫(あいはら・たかお)

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