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  4. 【コラム】第43回 「閉塞感」の正体
コラム

「閉塞感」の正体

企業の人事部を訪問して多く耳にする言葉の一つが、「閉塞感」である。頻出語のトップ3には確実に入るであろう。もう10年以上も前からよく聞かれた言葉だが、ここ2,3年さらに増えている感がある。「どんなことが課題になっていますか?」、「職場はどんな状況ですか?」、「数年前と比べて特徴的な変化は何ですか?」等の問いに対して、返って来ることが圧倒的に多いのが「閉塞感」という言葉である。

「閉塞感」は、「将来に希望が持てない」というような言い方で置き換えられることが多い。たしかに、社会経済全体、先々明るい感じはあまりしない。かつて高度成長期には、年々会社も大きくなり、各人の組織内での立場も上がり、それに伴って給料も上がるという状況もあった。しかし、それはもう20年以上も前の話であり、現在の20歳代、30歳代の人たちは、そんな状況を経験したことはなく、入社して以来ずっと今とあまり代わり映えしないような状況の中にいる。

ということは、中高年層社員の感じている「閉塞感」と、若年層社員の感じているそれとは異なるものである可能性が高い。若年層社員の場合、組織の発展拡大の記憶はないが、現状において、上が詰まっているという状況は確かにある。それゆえ、なかなか役割責任が拡がらず、それが「閉塞感」を生んでいるということはあるに違いない。労働市場の流動性についても、リーマンショック以降は流動性が各段に低くなっており、転職という選択肢はごく小さなものとなっている。したがって、若年層社員にとっての「閉塞感」とは、「キャリア閉塞感」と言えるであろう。

中高年の人たちの記憶の中にある、“今日よりも豊かな明日が約束されていた”高度成長期の記憶は、多くの人に共有されていたという意味で、いわば「大きな物語」と言える。一方現在は、そのように共有できる物語はなく、一人ひとりが「小さな物語」を紡ぐことが必要な時代になっている。これはもちろん容易なことではなく、一つの困難な方向へのブレークスルーを求めたものが、「自己実現」願望であり、その一つの手段となったのが「パーソナル・ブランディング」であったと言えるかもしれない。

近い将来において、高度成長期のような経済状況は起こり得ないであろうことは皆、百も承知であるし、そもそも、物質的な豊かさではもはや満たされないということも、諸々の調査結果からもはっきりしている。ということは、「小さな物語」の中身は、かつての「大きな物語」のような物質的な発展の物語ではなく、精神的な充足の物語ということになる。これを描くことはやはり容易なことではない。それゆえ、それが描けないことから「閉塞感」が生まれているということが事の本質ではないだろうか。

それでは、精神的な充足として求めている中身とはどのようなものであろうか。「国民性調査」(統計数理研究所)の中で、ここ5年間で20歳代から40歳代のデータが急上昇している関連項目がある。「自分の好きなことかどうかはともかく、人のためになることをしたい」という項目だ。20歳代では、98年に36%であったものが08年には43%となり、30歳代では、同39%から52%となり、いずれも過去最高値となっている。これは、「役に立っている」という感覚が現状では得られづらいということの裏返しと考えられるであろう。 

「役立ち感」を得るにあたって、現在の会社や仕事とは違った、新たな展開を企図することも選択肢としてはあり得る。しかし、現在置かれた状況の中での実現を考える方がはるかに現実的であろう。一人ひとりの「小さな物語」も、かつての「大きな物語」同様に、実現可能な、手の届く物語であることが重要だ。描いたところで手の届きそうにない物語であっては、かえって「閉塞感」を深めてしまうことにもなりかねない。 

したがって、会社の中で、職場の中で、「役立ち感」が得られるということが重要となる。そのためには、やったことがきちんと認められること、尊重されることがまず重要だ。社会心理学者のランドルフ・ネッセは次のように述べている。「希望(hope)は、努力が報われると感じたときに生じ、努力が空しいと思えば絶望(despair)を感じる。」つまり、「頑張った者が報われる組織」であることが、何よりも重要である。頑張った者が報われない組織となっていることこそが、「閉塞感」の元凶と考えられる。この点が解決されない限り、「小さな物語」は完結せず、「閉塞感」が払拭されることは決してないであろう。

プロフィール

元マーサージャパン株式会社 代表取締役副社長。マーサー社ではコンピテンシーに基づく人材の評価、選抜、育成および組織開発に関わるプロジェクト、日系企業海外現地法人の現地化推進等のコンサルティングのほか、コンサルティングノウハウのITプロダクト化、提携戦略等による新規事業開発に従事。現在は、継続性と実効性を確保できるマネジメント手法の開発および普及に力を注ぐ。著書に、『会社人生は評判で決まる』(日本経済新聞社)、『コンピテンシー活用の実際』(日本経済新聞社)、『チームを活性化し人材を育てる360度フィードバック』(共著、日本経済新聞社)、『図解戦略人材マネジメント』(共著、東洋経済新報社)ほか。日本人材マネジメント協会(JSHRM)幹事等を歴任。

写真:南雲 道朋(なぐも・みちとも)
株式会社HRアドバンテージ代表取締役社長
相原 孝夫(あいはら・たかお)

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