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  4. 【コラム】第42回 〈番外編〉「郷中教育」について想う
コラム

「郷中教育」について想う

先日、はじめて子供の剣道の稽古に付いて行った。普段は時間の都合がつかないので、子供が一年前に剣道を始めて以来、今回がはじめてだった。その稽古には、清々しさと共にある種の感動があった。下は5歳から、上は中学生まで、10歳ほども年齢差のある子供たちが20人ほど一緒に稽古をする。

1時間半の稽古時間のうち、最初の15分ほどは先生は入らず、中学生の掛け声のもと、準備体操から数種類の素振りまでを子供たちだけで行う。その後、すり足から、面打ち、小手面打ち、切り返し、掛かり稽古と進んでいく。

こうした年齢差のある子供たちが一同に学ぶ場というものは、現代においてはほとんど見られない。それだけに、非常に新鮮であり、感動的ですらあった。勉強するにも、スポーツをするにも、年齢差があっては学力や技能に差が出るので、自ずと同年齢どうしで行うことになる。一方で、年齢差のある子供たちが一緒に行うことの重要性というものも確実にあるように思われるのだ。

稽古の中で、幼児から小学校の低学年までが一列となり、小学校の高学年から中学生までがその後ろに一列になる。まずは一列目の年少の子供たちがすり足や面打ちなどをしていく、次に年長の子供たちが続く。年少の子供たちは、お兄さんたちの迫力の違う動きをしっかりと見ている。年長の子供たちも、年少の子供たちの稽古を真剣な眼差しで見ている。剣道では、他人の稽古をしっかり見ておくことも稽古のうちとしており、「見取り稽古」という言葉がある。

年少の子供たちは、お兄さんたちの稽古を見て、自分も早くあのようになりたいと思い、真剣に学び取ろうとする。年長の子供たちは、年少の子供たちが見ているので、見本となるようしっかりと行い、また、年少の子供たちの稽古からも何らかを学び取ろうとする。こうした姿勢は、同年齢どうしでの学びの中からは得られない。

1時間半の稽古時間の中で3度ある休憩時間には、中学生が5歳、6歳の子供たちと一緒に仲良く遊んでいる。また、竹刀の握り方や構え方を教えたりしている。小学校低学年の子供たちでさえ、お兄さんたちを見習って、年下の子供たちの面倒をよく見ている。現代の教育が忘れている、何か非常に重要な側面がそこにはあるように思われる。

この稽古を見ながら、薩摩藩の「郷中(ごじゅう)教育」について想った。薩摩藩からは、西郷隆盛や大久保利通をはじめ、五代友厚、寺島宗則、松方正義、森有礼、東郷平八郎、大山巌、山本権兵衛など多くの人材が輩出され、近代日本を築く原動力になったことはよく知られている。彼らは、薩摩藩独特の子弟相互の教育制度である郷中教育を受けて巣立った。

郷中教育は、地域の小単位を郷と称して、そこに住む藩士の子弟のうち、年少者を稚児(ちご、14歳頃まで)、年長者を二才(にせ、24歳頃まで)として、先輩が後輩を厳しく指導する教育制度であった。

その特徴は、「年長者は年少者を指導し、年少者は年長者を敬いながら、団体の中で共に学ぶ」というもので、武道に励み、心身を鍛え、廉恥を重んじ、礼節を大事にする知・徳・体の調和のとれた人格形成にあった。寺子屋が読み・書き・算盤といった実学を主に教えていたのに対し、郷中教育では文武両道・心身の鍛錬を重視し、地域・年齢による緊密な集団の中で教育を行っていた。

イギリスで生まれたボーイスカウトは、イギリスの少年たちの心身を健全に育成するために、ベーデン・パウエル卿が、薩摩藩の郷中教育を研究して1908年に創始したものであると伝えられている。

薩英戦争で薩摩藩がイギリス艦隊に大損害を与えてイギリス国民を驚かせたことや、日露戦争でロシア艦隊を打ち破った日本の連合艦隊司令長官が東郷平八郎元帥であり、また満州軍総司令長官は大山巌元帥と、二人とも薩摩藩の郷中教育で育った者たちであったことなどから、パウエル卿が薩摩藩の郷中教育に関心を持ち研究したと伝えられている。

このような教育を受けた人材は、どのような点が特に異なるのであろうか、と想いを巡らしていたところ、稽古の最後に、5名いる先生のうち最も年輩と思われる方から、「名門道場の剣士としての矜持を持ち、・・」という話があり、最近聞くことが少なくなった「矜持」という言葉にハッとした。一般的には、プライドや自尊心などと言い換えられることが多いが、それらとは明らかに違う。

「矜持」という言葉は、「剣士としての」と先生が言われていたとおり、「・・・としての」という使われ方をする。その立場にある者の誇りであり、あるべき態度であり、そこには責任や節度といったものが伴う。もちろん、小学生以下の子供たちにはそれがどんな意味かは分からないであろうが、その言葉の響きはしっかりと耳に届いたに違いない。

 

プロフィール

元マーサージャパン株式会社 代表取締役副社長。マーサー社ではコンピテンシーに基づく人材の評価、選抜、育成および組織開発に関わるプロジェクト、日系企業海外現地法人の現地化推進等のコンサルティングのほか、コンサルティングノウハウのITプロダクト化、提携戦略等による新規事業開発に従事。現在は、継続性と実効性を確保できるマネジメント手法の開発および普及に力を注ぐ。著書に、『会社人生は評判で決まる』(日本経済新聞社)、『コンピテンシー活用の実際』(日本経済新聞社)、『チームを活性化し人材を育てる360度フィードバック』(共著、日本経済新聞社)、『図解戦略人材マネジメント』(共著、東洋経済新報社)ほか。日本人材マネジメント協会(JSHRM)幹事等を歴任。

写真:南雲 道朋(なぐも・みちとも)
株式会社HRアドバンテージ代表取締役社長
相原 孝夫(あいはら・たかお)

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