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  4. 【コラム】第38回 「報酬」と「インセンティブ」について(2/2)
コラム

「報酬」と「インセンティブ」について(2/2)

前回の最後で、日本と西洋での労働観の違いについて触れ、西洋ではより労働の対価が重要となるということを述べた。しかし、そのような西洋であっても、金銭的報酬を否定する指摘もある。

米国の心理学者、アルフィ・コーン氏は、著書『報酬主義をこえて』の中で次のように述べ、「金銭的インセンティブ(外的報酬)は、内なるモチベーションを下げる」という点を指摘している。「競争や報酬による動機づけは、その人の関心を競争や動機のほうに向けてしまい、仕事そのものがおろそかになって質が低くなる傾向がある。これは特に創造的な仕事で顕著に見られる。質の高い創造的な作業は、作業そのもののおもしろさに動機づけられたものだ。」 一つの例として、子どもに読書の習慣をつけさせる例を紹介している。本を読んだ子どもに、褒美としてお菓子を与える子と、本を読んでも何も与えない子に分ける。褒美につられて読書する子は、最初はよく読むが、やがて褒美の魅力が低下すると、何も与えない子よりも本をよく読まなくなるという。

金銭的報酬は弊害も大きい。そのインセンティブに慣れてしまえば、あたかもそのために働いているかのような錯覚に陥ってしまう。しかも、金銭的報酬の特徴として、そのインセンティブ効果は急速に薄れていくということがある。とすればどうなるか。仕事そのものの報酬は見えなくなったまま、金銭的報酬の魅力もどんどん低下していくとすれば、不満を抱えながら惰性で働き続けるしかない。読書する子どもの例でも、お菓子の魅力が低下しても、本を読み続けなければならないとしたら、やらされ感でいっぱいになってしまうであろう。金銭的インセンティブを前面に出した誤った成果主義がもたらした一番の弊害は何かといえば、仕事本来の報酬を見えなくした点ではないだろうか。

日産のカルロス・ゴーン氏はかつて、販売奨励金が少ないと嘆く販社社長に対して、「子供に小遣いをやるから勉強しろと言う親はいい親ですか。子供を健全に育てるのは小遣いじゃない。」と言い放ったという(日経ビジネス2003年)。奨励金、報奨金、ボーナス、インセンティブ、褒美、表彰、考えてみれば世の中は報酬だらけである。

労働の健全性を取り戻すことは、会社の責任であるとともに個人の責任でもある。道筋としては、「結果」から「プロセス」に意識を転じることがまず不可欠と考えられる。放っておけば、結果にばかり意識が向かいがちである。そういうプレッシャーが日々働いているからだ。目標も結果目標のみを掲げ、それに意識を集中させることを強いられる。報酬も結果のみに報いる報酬となることが多い。では、どうすれば「プロセス」に目を向けることが可能となるであろうか?自己の役割に意識を向ける、能力の伸長に意識を向ける、他者との関係性に意識を向けるなど、自分にとって大切な価値観を意識することが重要となる。エドガー・H・シャイン氏よって提唱された「キャリア・アンカー」が一つの視点を提供してくれる。「キャリア・アンカー」とは、ある人物が自らのキャリアを選択する際に最も大切な(どうしても犠牲にしたくない)価値観や欲求を分類したものである。

・管理能力:組織の中で責任ある役割を担うこと
・専門的・技術的能力:自分の専門性や技術が高まること
・安全性:安定的に1つの組織に属すること
・創造性:クリエイティブに新しいことを生み出すこと
・自律と独立:自分で独立すること

自分自身の長期的な職業生活における拠り所となるアンカー(錨)を見定め、意識することで、結果としての報酬ではなく、「プロセス」そのものに目を向けやすくなるに違いない。一人ひとりのそうした意識が、金銭的報酬に釣られた、やらされ感いっぱいの労働から脱却し、労働の健全性を取り戻す縁(よすが)となることを願いたい。

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プロフィール

元マーサージャパン株式会社 代表取締役副社長。マーサー社ではコンピテンシーに基づく人材の評価、選抜、育成および組織開発に関わるプロジェクト、日系企業海外現地法人の現地化推進等のコンサルティングのほか、コンサルティングノウハウのITプロダクト化、提携戦略等による新規事業開発に従事。現在は、継続性と実効性を確保できるマネジメント手法の開発および普及に力を注ぐ。著書に、『会社人生は評判で決まる』(日本経済新聞社)、『コンピテンシー活用の実際』(日本経済新聞社)、『チームを活性化し人材を育てる360度フィードバック』(共著、日本経済新聞社)、『図解戦略人材マネジメント』(共著、東洋経済新報社)ほか。日本人材マネジメント協会(JSHRM)幹事等を歴任。

写真:南雲 道朋(なぐも・みちとも)
株式会社HRアドバンテージ代表取締役社長
相原 孝夫(あいはら・たかお)

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