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  4. 【コラム】第28回 「社内世論」というもの(3/3)
コラム

「社内世論」というもの(3/3)

「世論」とは、公共の問題について、多くの人々が共有している意見、もしくは大多数の賛同が得られている意見のことを指す。「社内世論」という場合には、企業内において従業員共通の問題について、従業員の多くが共有している意見、もしくは従業員の大多数の賛同が得られている意見ということになる。

経営者が戦略を実行しようとする場合や、人事部門などスタッフ部門が何らかの施策を導入しようとする場合など、それらに対する従業員の賛同が得られていれば非常に実施しやすいことになる。一致団結し、一枚岩になって実施することができる。それゆえ、どのような社内世論を形成するかが、戦略の実行や施策の導入にあたってカギになることはいうまでもない。いかにして前向きな社内世論を形成するか、その点が企画立案以上に重要性が高いと言っても過言ではない。実行力の高い会社というのは例外なく優れた社内世論が形成されている会社である。

アナウンス効果により短期的に世論へ影響を与えるように、企業内でも根回し等によりいわばにわか仕立てに社内世論を形成することもありうる。しかし、その場合でもベースとしての組織の性格というものが望ましいものでなければ、全体的な拡がりにはなりづらい。個々の人材でも、チャレンジングな課題を与えたり重責を担わせたりすると、嬉々として取り組む者もいれば、いろいろと理由をつけてはできるだけ避けようとする者もいる。社内世論の優れた会社というのは、何か新しい取り組みやチャレンジングな取り組みをしようとした時に、まずは前向きな反応を皆が返してくれるような会社である。

何がそうした違いをつくるのであろうか。人の性格もそうだが、組織の性格というものも環境や経験によって形成される。多くある話として、危機に陥ってはじめて社内世論がまとまり、組織の性格が形成されるということがある。なんとかその難局を乗り越えなければ会社は潰れるという状況となり、共通の認識がいやおう無しに芽生える。そのことの是非を問うているような場合ではなく、理屈をこねている余裕もなく、皆で力を合わせて即時対策を打たないことにはどうにもならないという状況である。

最近では、コンプライアンス上の問題でこうした状況を招くことも多いが、より平常時においても、たとえば社外の敵を強く意識することで社内をまとめるということもある。外食店や小売店など、近くに競合店ができると一致団結して競争に立ち向かう必要性に迫られ、それまであった店内メンバー間の諸々の軋轢などはどこかへ雲散霧消するというようなこともある。国と国とが戦争状態にある場合を想像すると分かりやすい。戦争状態でなくとも、仮想敵国をつくって国内世論をまとめるということもある。

しかし、できれば危機に陥らず、敵もつくらずに社内世論をまとめたいものである。危機に陥るという体験の逆の体験は何かといえば、成功体験ということになろう。成功体験を語り継ぐことでも組織の性格は醸成されうる。他者の体験、過去の体験であったとしても、語り継がれることによって成功体験を組織として共有することができる。良い会社の一つの特徴として、多くの伝説的なストーリーが語り継がれているということがある。それらの組織の記憶といったものは、望ましい社内世論を形成するうえでのベースとして極めて重要性が高い。

一例を挙げるならば、3M社のポストイット開発のストーリーなどはつとに有名である。住友スリーエム社のホームページ内にも〈製品開発物語〉の一つとして掲載されている。ごく簡単にいえば以下のようなストーリーである。接着力の強い接着剤の開発過程で、失敗作として粘着力の弱い(よくつくけれど、簡単に剥がれてしまう)接着剤ができてしまう。普通は失敗作として即廃棄されてしまうであろうが、開発者は「何かに有効に使えるに違いない」との直感が働き、のちに協力者が現われ、幾多の困難に打ち勝って製品化に漕ぎ付くことができ、爆発的に売れたというストーリーである。
http://www.mmm.co.jp/develop/story2-1.html

このストーリーの中に、製品開発上きわめて重要な要素がいくつか含まれているので、3M社ではこのストーリーを大切に語り継いでいるわけだ。ヒューレットパッカード社が、創業当時のガレージを復元し、保存してまで創業の物語を語り継いでいるのも、その中に忘れてはならない発明の精神が含まれているからである。同様に、危機に陥った時にどのように生き延びたかを語り継いでいる企業は多い。
http://h50146.www5.hp.com/info/feature/coverstory/06_garage.html

これらのストーリーが組織の記憶となって組織の性格を形成する。そして後々の社内世論に大きく影響を与える。成功体験を共有している組織は強いと言われるのはこれゆえである。「愚者は経験から学ぶ、賢者は歴史から学ぶ」と言われるが、まさしく個々人の経験を超え、会社の歴史から学ぶという状態ができていることになる。はたして、重要なストーリーを綿々と語り継ぐことができる会社というのはどのような会社か。キーワードを挙げるなら、対話、語り部、理念への共鳴ということになるであろうか。

 

プロフィール

元マーサージャパン株式会社 代表取締役副社長。マーサー社ではコンピテンシーに基づく人材の評価、選抜、育成および組織開発に関わるプロジェクト、日系企業海外現地法人の現地化推進等のコンサルティングのほか、コンサルティングノウハウのITプロダクト化、提携戦略等による新規事業開発に従事。現在は、継続性と実効性を確保できるマネジメント手法の開発および普及に力を注ぐ。著書に、『会社人生は評判で決まる』(日本経済新聞社)、『コンピテンシー活用の実際』(日本経済新聞社)、『チームを活性化し人材を育てる360度フィードバック』(共著、日本経済新聞社)、『図解戦略人材マネジメント』(共著、東洋経済新報社)ほか。日本人材マネジメント協会(JSHRM)幹事等を歴任。

写真:南雲 道朋(なぐも・みちとも)
株式会社HRアドバンテージ代表取締役社長
相原 孝夫(あいはら・たかお)

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