1. トップページ
  2. インフォメーション
  3. コラム
  4. 【コラム】第27回 「社内世論」というもの(2/3)
コラム

「社内世論」というもの(2/3)

前回、勝ち馬に乗ろうとする行動傾向である「バンドワゴン効果」などについて述べたが、総選挙が終わり、まさしくそうした効果が存分に発揮され、小選挙区制の特徴も手伝い、極めて明確な形での政権交代が実現された。いよいよ民主党の真価が問われる時が来たわけだが、くれぐれも古い自民党の復活とならないことを祈るばかりだ。

さて、「アナウンス効果」の話の続きだが、国政選挙などではなく、より小さな集団の中においてはこれらの効果はさらに強く発生しうる。たとえば、「重要な局面での実力者の一言が流れを決定付ける」というようなことはよくあることだが、これは「バンドワゴン効果」と極めて似た効果である。企業など特定の組織内においても、こういうことは度々おこなわれる。

もちろん現代に限らず、歴史上も、このようなことは数限りなくなされてきている。共和制ローマにおける元老院などの合議制の場では頻繁にあったに違いない。日本の歴史上も語り伝えられているだけでも数多い。NHK大河ドラマ「天地人」の時代でいうならば、関ヶ原の戦いの直前になされた小山評定での福島正則の一言などは典型例の一つといえよう。

1600年、会津の上杉景勝討伐に向かった徳川家康は、その途上の小山で石田三成挙兵の報を受け、軍議を開いた。福島正則ら豊臣恩顧の諸将たちも多く従軍しており、同じ豊臣家臣である三成らと家康との間で苦しい選択を迫られていた。その中で、家康側からあらかじめ懐柔されていた正則が三成挙兵に動揺する諸大名の機先を制して、「内府殿(家康)にお味方つかまつる」と、いち早く家康の味方につくことを誓約した。この一言で評定は決し、反転して西上する方針が決定した。歴史を決定付けた一言といえるであろう。

ある組織や集団の中での投票行動の場合、誰に投票したかが分かるケースでは、勝者による論功行賞への期待や報復への恐れがあるため「バンドワゴン効果」は強く働くとされているが、この小山評定においても、福島正則の一言があった後は、各大名がどれだけ家康に自分の忠義心をみせつけられるかの競争となったという。

さて先日、ある企業を訪問した際に聞いた話だが、数年前に360度評価を入れる時に、従業員から結構多くの反対意見が出されたという。この時に人事部がとった対応とは、敢えて10回くらいに分けて説明会を実施し、できるだけ多くの意見を出してもらうということだった。それにあたり、事業部長クラスには事前に根回しをして協力を取り付けておき、説明会の中で前向きな発言をしてもらったという。

関係者から意見を出してもらう機会を設け、そのうえで組織上重要な位置を占める有力者からの肯定的な意見で流れを決定付けるというプロセス。こうしたやり方に嫌悪感を抱かれる向きもあるかもしれない。悪く言えば予定調和的な出来レースといえなくもない。しかし人事マンなど、全社を対象として、しかも従業員に直接的に影響する施策を打っていく立場にある者にとっては必須の資質に違いない。 

なぜなら、会社にとって必要なものであっても、人事的な新たな取り組みなどはとかく、従業員からの反発を招きがちなものである。そうした際に上記のプロセスなしに唐突に導入を進めてしまえば、導入した後に抵抗にあうことは必至である。「事前に聞かされていなかった」、「十分な説明を受けていなかった」という不満も相俟って、抵抗は相当強いものになるはずだ。頓挫するか、頓挫しないまでも急速に形骸化へ向かうこととなるであろう。

組織上は特にこの「事前に聞かされていなかった」が大問題へ発展することが多い。これはポジションが上になればなるほど、そうした感情を強く抱く傾向にある。自分が軽んじられたということで、自尊心が傷つけられるためである。「十分に尊重されている」という思いがモチベーション上最も重要であることからも分かるとおり、この逆となった場合の不満は極めて大きなものとなる。事前に話しておけばどうということのない内容であったとしても、「聞いてなかった」というだけで容易に全面反対に回ることとなる。

こうした事態を回避することは、組織内で生きる者にとっては必須の要件だが、根回しというプロセスを軽く見て失敗するケースもまま見受けられる。伝統的な日本企業では、根回しの方法などもOJTの中で受け継がれているようだが、外資系企業やベンチャー企業ではそうではない。マネジャー経験のない人が中途でマネジャーとして入社したケースなど、根回しに労を割かないことで猛反発にあうことも多いようだ。「正論だから通るはず」とか、「論理的に明快に説明がつくから大丈夫」などの捉え違いがあるようだ。

「根回し」というこの言葉が誤解を招きがちということはあるかもしれない。いかにも裏でこそこそやるイメージを伴ってしまうせいか、こうしたプロセスを肯定的に受け止めづらいということが災いしている可能性はある。言葉の印象は重要である。英語で言うように「Consensus Building」と言えば、多少は前向きに十分な労力を割こうという感じになるであろうか。少なくとも、「Shake hands under the table」ではない。(つづく)

プロフィール

元マーサージャパン株式会社 代表取締役副社長。マーサー社ではコンピテンシーに基づく人材の評価、選抜、育成および組織開発に関わるプロジェクト、日系企業海外現地法人の現地化推進等のコンサルティングのほか、コンサルティングノウハウのITプロダクト化、提携戦略等による新規事業開発に従事。現在は、継続性と実効性を確保できるマネジメント手法の開発および普及に力を注ぐ。著書に、『会社人生は評判で決まる』(日本経済新聞社)、『コンピテンシー活用の実際』(日本経済新聞社)、『チームを活性化し人材を育てる360度フィードバック』(共著、日本経済新聞社)、『図解戦略人材マネジメント』(共著、東洋経済新報社)ほか。日本人材マネジメント協会(JSHRM)幹事等を歴任。

写真:南雲 道朋(なぐも・みちとも)
株式会社HRアドバンテージ代表取締役社長
相原 孝夫(あいはら・たかお)

サービスに関するお問い合わせ・ご相談はこちらまで

お問い合わせ

人事に関する情報が満載メールマガジン配信中

メールマガジン登録