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  4. 【コラム】第20回 行動心理-認知的不協和
コラム

行動心理-認知的不協和

連休の最終日になぜか、このような大変ややこしい事についての夢を見てしまったので、何かのお告げかとも思い、今回はこれについて書くこととしたい。おそらくは、前の晩に視たあるテレビ番組の中で、90年代半ばに起きたオウム真理教事件が取り上げられていたために、「認知的不協和」などという、まったく愉快ではない夢を見たに違いないと思われる。

「認知的不協和」とは、「人がある認知と矛盾した認知に遭遇した時に感じる不協和を解決しようとする心理状態」をいい、アメリカの心理学者フェスティンガーによって提唱されたものである。人はこういう緊張状態には耐えられず、認知に修正を加えて不協和を解消しようとする心理が強く働くという。そして認知の修正にあたっては、当然ながら変えやすい方を変えることになる。一般に、イソップ寓話の「すっぱい葡萄」の物語に象徴的に説明される。高いところに実っているおいしそうな葡萄を見つけたキツネが、食べようとして跳び上がるが、何度跳躍してもついに届かず、キツネは怒りと悔しさで、「どうせこんな葡萄は、すっぱくてまずいに違いない」と捨て台詞を残して去ってゆくという物語である。不協和の解消のために、「おいしそうな葡萄」という方を修正したわけである。

日常的にも結構頻繁にこうした状態には陥るわけだが、最近の筆者自身の経験としては次のようなことがあった。ある本を購入して3分の1ほど読み進めてみたところ、論旨がたいへんに良く、その段階である人にその本を薦めてしまった。ところが、最後まで読んでみると、結論らしき結論もなく、論理も一貫性を欠くものであった。ここで認知的不協和が発生することとなり、なにか妙に落ち着かない心地になるわけである。もし薦めた人から「どこがいい本なのか」と聞かれた場合(まずそういうことはないのだが)、どう答えようかなどとつい考えてしまう。「結論は読者自らが考えよということなんだ」とか、「一貫性は欠けるものの、読む側で十分な問題意識を持って読めばヒントになる情報がいくつも拾える」等々。そういう言い訳を考えてみて、ようやく心の安寧を得るのである。

悪しき新興宗教にのめり込む信者の心理もこれで説明される。入信した後に、教祖の予言が外れたり、何かちょっと異常ではないかと思った場合、信じる気持ちと何かおかしいと思う気持ちとの間に認知的不協和が生じる。軽い気持ちで入信したばかりの人は脱会するであろう。しかし、財産をすべて寄付し、会社を辞め、家族を捨て(または家族も一緒に)入信してしまったような場合、もはや入信したという自らの意思決定の方を修正するわけにはいかず、狂信的にのめり込むことによって、もう一方のおかしいと思う気持ちの方を否定し、なんとか不協和を低下させようとする。そうなると、誰かに自分の行為を否定されればされるほど、さらに強くのめり込むという方向に向かってしまう。

もちろんネガティブなことばかりではない。不協和を解消しようとする行動は、成長する力にもなる。たとえば、企業内における目標達成の行動を説明することもできる。他者から与えられた目標である場合、その達成が難しいと思えば、目標の妥当性を問題視するなど目標の方を修正しようという方向へ向かうことになる。フェスティンガーも不協和が発生しやすい状況の一つとして、「強制的承諾」を挙げている。それゆえ、目標は自分自身で設定するか、与えられたものであっても強く受容する必要がある。そうなれば、達成が難しい場合でも、目標の方を安易に修正せずに、達成行動の方を改善しようとする。一般的に、行動の改善はハードルが高いので、もう一方の目標修正のハードルの方をより高くする必要があり、そうした状態が目標にコミットしているという状態となる。

コミットが逆に作用してしまうようなケースも考えられる。たとえば、新しく導入された人事施策に対して、何らかネガティブなことを同僚や後輩に言ってしまったような場合、その後にやはりそれは必要不可欠であると理解した場合にも、今度はそれを肯定する行動には認知的不協和が生じてしまうため、自分のネガティブな発言の方を修正しづらい場合には、もう一方を修正するべく、ひたすらその人事施策の欠点や弊害等を見つけるなどし、何とか不協和を低下させようとすることになる。それゆえ、新しい施策の導入時などには、好ましい社内世論を形成するうえで、導入当初に何らかそれに対する肯定的なアクションをとらせるということが重要であるということがわかる。

ここまで書いてきて思い当たったのであるが、オウム事件の映像を見て「認知的不協和」の夢を見たと思っていたが、もしかするとそうではなく、「今日で連休も終わりか、明日から仕事か、やれやれ」と思った自分の気持ちと、「自分にとってはどんな遊びよりも仕事の方が楽しい」などと日頃からよく口にしていることの間に不協和が生じたためにそんな夢になったのかもしれない。もう周囲に言ってしまっていることは変えづらいので、もう一方を変えるしかない。仕事があるから余暇も楽しいのだとか、毎日が余暇だったら気が狂ってしまうとか、今後いっさい仕事もボランティアもできないとしたら、いったい自分自身の存在価値をどこに見出せばよいのだろうか、などということをつらつら考えることで不協和を低下させることになる。

プロフィール

元マーサージャパン株式会社 代表取締役副社長。マーサー社ではコンピテンシーに基づく人材の評価、選抜、育成および組織開発に関わるプロジェクト、日系企業海外現地法人の現地化推進等のコンサルティングのほか、コンサルティングノウハウのITプロダクト化、提携戦略等による新規事業開発に従事。現在は、継続性と実効性を確保できるマネジメント手法の開発および普及に力を注ぐ。著書に、『会社人生は評判で決まる』(日本経済新聞社)、『コンピテンシー活用の実際』(日本経済新聞社)、『チームを活性化し人材を育てる360度フィードバック』(共著、日本経済新聞社)、『図解戦略人材マネジメント』(共著、東洋経済新報社)ほか。日本人材マネジメント協会(JSHRM)幹事等を歴任。

写真:南雲 道朋(なぐも・みちとも)
株式会社HRアドバンテージ代表取締役社長
相原 孝夫(あいはら・たかお)

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