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  4. 【コラム】第19回 言葉のチカラ
コラム

言葉のチカラ

今回は、私が所属しているJSHRM(日本人材マネジメント協会)の会員向けメルマガの中で、幹事持ち回りコラムとして書いたものの元原稿を一足お先に掲載させていただくことにします。

新年度がスタートした。入社式での各社トップの訓示には例年注目しているが、今年はとりわけ興味を持って見ていた。現在のように厳しい環境下、相当に強い危機感を持っているに違いないが、とはいえ、入社式のような晴れの舞台ではネガティブなことばかり言うわけにはいかない。いったいどんな訓示となるのか、その点に注目してみた。

新聞や雑誌、各社ホームページに掲載されたものなど約50件ほどに目を通したほか、テレビの報道番組での映像もいくつか目にした。結果、多かったトーンとしては、危機感を述べた後に、「ピンチではなくむしろチャンスと捉え」という類のメッセージであった。中にはより力強く、「イノベーションを起こすチャンスである」、「原点を見つめ直すチャンスである」、「企業体質を一層強くするチャンスである」等、“チャンス”と言い切っている例もいくつか見られた。また、新入社員への励ましとして、「不況時に入社した社員は将来伸びる」、「こういう時期に社会人としてスタートを切るということはたいへん恵まれている」というようなメッセージもあった。

秀逸な言葉もいくつか見られたが、総じて、「言葉の力」の無さを感じてしまう訓示が多かったように思われる。入社式の訓示に限ったことではないが、日本企業トップのスピーチを見聞きするにつれ、どうしてもこうした印象が先立ってしまう。心に響く言葉、記憶に残る言葉というものが少なく、映像を見ていても熱が伝わるようなスピーチは残念ながら少ない。大きな組織のトップであれば、聴衆を感動させるくらいの弁があってもよいと思うのだが。「リーダーにとって重要な資質とは何か」という問いに対してはいろいろな答え方があろうが、言葉の使い方、意思の伝え方がうまいということは重要な要素の一つに違いない。

「語りえないことについては、沈黙するほかない」と言ったのはヴィトゲンシュタインであるが、我々はものごとを言葉で理解し、言葉で考え、言葉で伝える。言語化し得ないものは伝えることはできない。それくらい言葉は重要であるが、特に大きな組織のトップともなれば、多くの多様な人たちへメッセージを届けなければならないのでなおさらである。よってこの点にもっともっとこだわりを持って然るべきである。今年の入社式訓示の中でも、今後新入社員に身につけて欲しいこととして、「コミュニケーション」は盛んに挙げられていた。しかし、それを訴える側のトップの訓示が言葉へのこだわりを感じさせず、熱が伝わらないようなものであっては説得力に欠けてしまう。

とにかく言葉にこだわらなさ過ぎる、印象に残らない、記憶に残らない、心を動かさない、言い古された言葉の羅列があまりにも多過ぎる。たとえば、例として挙げて申し訳ないが、ある通信系企業トップの結びの言葉は次のようなものであった。「ベンチャー精神を失わず、アグレッシブにチャレンジしてほしい。」 こうした具体性のない言葉の羅列自体、ベンチャー精神を失っているように私には思える。最初から最後までそういう言葉が続いていたりすると、他人事ながら怒りすら覚える。この氷河期の中、激戦を戦い抜いてようやく就職を決め、期待に胸膨らませて初日を迎える新入社員を迎え入れるにあたって、もっと真剣に言葉にこだわってもらいたいものである。 

海の向こうでは、卓越した言葉の使い手が大統領になった。あの圧倒的なスピーチ力がなかったら、きっとオバマ氏は大統領にはなっていなかったであろう。マケイン候補に比べ経験も少なく強みの少ないオバマ氏は、「完璧(かんぺき)な大統領にはなれないが、国民に正直であることを約束する」と語った。この「Not Perfect, But Honest」のメッセージはアメリカ国民の心を掴んだ。また、言葉そのものもさることながら、自信に満ち溢れた表情、テンポのよい言葉で聴衆の感動を呼び起こすその様は、日本でも多く報道された。鮮烈な印象を持った人も多いのではないだろうか。CD演説集が、日本でも40万部を超す爆発的な売れ行きをみせているという。

オバマ氏の演説に感心する一方で、日本の政治家はなぜこうも違うのだろうかと情けない気持ちになった人も多かったのではないだろうか。あまりにも無表情かつ棒読み調の語り口が多く、何かを伝えようという気持ちが伝わってこない。こうした点では、日本の政治家としてむしろ異色なのは小泉元首相であろう。衆愚政治を招いたとの批判もある小泉氏だが、言葉へのこだわりは格別であった。小泉氏は議員会館でもスポーツ新聞ばかり読んでいたそうである。それについて当人は、「キャッチコピー」の勉強をしていると周囲に語っていたという。単に話すだけではなく、聞いている側の心を動かそうとしていた点など、政治家にとって重要な資質の一つには確かに秀でていたといえるであろう。

「言葉の力」の弱さは、学校教育にも問題がある。アメリカ人の子供に質問をすると、とうとうと意見を述べる光景を不思議に思う日本人は多いのではないだろうか。アメリカでは小学校から自分の考えを持つこと、それを表現すること、それについてディスカッションすることが訓練される。一方日本では、学校で読み書きは習っても、話す力は教育されてこなかった。遅ればせながら、2008年に文部科学省が告示した新学習指導要領において、「生きる力」の基盤としての「言葉の力」を育成することが明確に示された。不評であった「ゆとり教育」に「言葉の力」が取って代わった格好だ。この取り組みによって、日本社会にどんな変化が現れるか、20年後、30年後に期待したい。

最後に、各社入社式訓示の中から、締めの言葉のいくつかを列挙させていただく。以下の各社社長の言葉だが、社名のところは「当社」に変えてあること、また多少中略させていただいている部分があることをお断りしておきたい。(YKK 吉田社長、出光興産 天坊社長、全日空 山元社長、三菱化学 小林社長、NTTデータ 山下社長、日産 ゴーン社長、ホンダ 福井社長、商船三井 芦田社長、ローソン 松波社長)

皆さんにはこの嵐のまっただ中、大変な状況の中で仕事をスタートすることを幸せなことだと受け止めていただきながら、入社3年で一人前を目指し、「1日1日が本番」という意識をもって、思い切り頑張ってください。

これから社会人として長い人生を過ごす上で、人の信頼を得ることが一番大切なことであり、また、自分を信頼してくれる人が最大の財産になると思います。

チームとして一致団結して、「現在窮乏、将来有望」を信じて、今年を明るく前向きに歯を食いしばって乗り切っていきましょう。

宿命に耐え、運命と戯れ、使命に生きる。例え現在は少しばかり暗くても、私達の未来は明るいのです。是非一緒に頑張りましょう。

今日からは、みなさん一人ひとりが当社の顔であり、当社の「変える力」です。みなさんの新しい力に大いに期待しています。

苦しい時こそ人間としても社会人としても成長できるチャンスと考え、当社とともに長くやりがいのあるキャリアを築いてほしい。 

自分自身が主役になって何かをしなければ、当社はよくならないという心構えで、高い目標にチャレンジしていってほしい。

皆さんのエネルギーで、当社が今後も世界で輝き続けられるように、力を貸していただきたい。

多様性によってわくわくするような新しい発想を生み出していきましょう。お互いが助け合いながら視野を広げ、会社とともに進化していきましょう。

プロフィール

元マーサージャパン株式会社 代表取締役副社長。マーサー社ではコンピテンシーに基づく人材の評価、選抜、育成および組織開発に関わるプロジェクト、日系企業海外現地法人の現地化推進等のコンサルティングのほか、コンサルティングノウハウのITプロダクト化、提携戦略等による新規事業開発に従事。現在は、継続性と実効性を確保できるマネジメント手法の開発および普及に力を注ぐ。著書に、『会社人生は評判で決まる』(日本経済新聞社)、『コンピテンシー活用の実際』(日本経済新聞社)、『チームを活性化し人材を育てる360度フィードバック』(共著、日本経済新聞社)、『図解戦略人材マネジメント』(共著、東洋経済新報社)ほか。日本人材マネジメント協会(JSHRM)幹事等を歴任。

写真:南雲 道朋(なぐも・みちとも)
株式会社HRアドバンテージ代表取締役社長
相原 孝夫(あいはら・たかお)

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