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  4. 【コラム】第17回 〈番外編〉 書籍の「まえがき」より
コラム

〈番外編〉 書籍の「まえがき」より

今回は、今月の25日に発刊予定の書籍「チームを活性化し人材を育てる360度フィードバック」の「まえがき」部分に書いた内容に、字数の制約により書けなかった点などを加筆したものを掲載させていただきます。主旨としては、「混沌とした世の中に確固たる手法を」というようなことです。

世の中が混沌とした不安定な状況になると、何かしら拠り所となる確固たる軸というものが求められてくる傾向にあります。流されないための、物事の判断基準や自分なりの価値観や信条など。それは地震や嵐が来たときに自らを安定させようとする本能に近いものかもしれません。今回の書籍で取り上げる「360度フィードバック」というマネジメント手法についても、近年の普及の背景にはこれと似通った事情があるように思います。「360度フィードバック」は手法として誠にはっきりしているというのが特徴です。何をどうしてどうなるのかが分かりやすく、多くのマネジメント手法につきものの、いったいどういう効果が出るのか分からないというような曖昧さがありません。企業も余裕がなくなってくるにつれ、確実な方法で確実な効果を求めるようになるのはいわば当然のことといえます。

社会全体がそうであるように、昨今は企業の中でも状況は一般に芳しくありません。右肩上がりで勢いのある時には、人事・組織施策などだいたい何をやっても奏功する、あるいは少なくともそのように見えるものです。しかし状況が悪化に転じると、今度は何をやっても奏功しないという状況に陥る傾向にあります。それまで隠れていた問題点も、途端に露見してくるようにもなります。これは組織が循環構造であるからというのが一つの答えであろうと思います。車輪と同じように、いったんある方向へ回り始めてしまうと、反対方向へ回そうとしても容易にはいきません。大勢で力を合わせて反対方向に力を掛け続けなければなりません。

現在は、悪い方向へ導く強い力が働いています。四半期決算等による短期的な数字のプレッシャーは言うに及ばず、雇用形態の多様化によるマネジメントの複雑化、IT化の進捗によるコミュニケーションの希薄化等々です。放置しておけば、自ずと悪循環を起こしてしまいます。こうした状況に対し、企業の中では良い方向へ導くための具体策が少ないというのが実情です。多くの取り組みはその効果も曖昧であり、継続性も保てないため、好循環をつくり出すまでには至らず、悪循環に歯止めが掛かることはありません。

このようなことを繰り返していても、悪循環からは逃れられず、結果、人材は育たない、モチベーションは向上しない、組織は活性化しないという状況が一般化してしまうことになります。このような状況を見るに、いったい効果の上がる人事・組織施策というものは本当にあるのだろうか、単にある好ましい環境があったから効果が上がっているように見えただけなのではないか、との思いが頭をもたげてきます。それゆえ、現在のような環境下では特に、毒にも薬にもならないような気休め程度の手法では用はなさず、より力強い、はっきりとした効果の見込める手法をとることの重要性がより高まってきます。つまり、順風の中ではちょっと帆を広げるくらいのことでも前に進みますが、逆風がブンブン吹いている中では強力なモーターで推進力をつけていかなければならないのです。

「360度フィードバック」は単なる一つの手法ではありますが、梃子の支点のように力強く支えるブレない手法であり、これを梃子として組織に好循環をつくっていくことが可能です。一般には人材開発ツールとして位置付けられていますが、周囲巻き込み型の手法であるため、書籍のタイトルにも「チームを活性化し」とつけているとおり、影響範囲は組織全体に及びます。

このように「360度フィードバック」は、今の時代に特に求められている数少ない有効策の一つですが、日本企業では欧米企業における高い普及率と比較すると、まだまだ活用は進んでいない状況にあります。欧米企業の多くは、人種すら単一ではないので、「言わなければ分からない、理解されない」という中で、職場で互いに率直なフィードバックをし合うというのは、ごく当たり前のことです。一方の日本においては、「察してあげる」というようなことが文化となっている面もあり、それゆえ、こうした手法による施策的フィードバックには何かしらの抵抗感もあるようです。

昨今は若者の間ですら、「空気を読め」などということが流行っているような状況です。気持ちを敏感に察知するということが重要な場面ももちろんありますが、それだけに頼っていては前に進まないことも多くあります。現在はまさしくそうしたことが機能し難くなっている状況にあるのではないでしょうか。ビジネスパーソンはITに強くなった反面、人に対して弱くなったという面が確かにあります。他人に積極的に関わっていくことが少なくなり、またそうした余裕もなくなってきています。同僚に対して無関心であったり、ただ単に傍観していたり、そうしたことが組織の悪循環に拍車を掛けていることは間違いありません。また、「空気を読め」では無難な行動しかとれなくなり、チャレンジングな行動は減退し、人材は育たなくなってしまいます。

日本企業がこうした閉塞的な状況の中で、「360度フィードバック」という力強い手法をより積極的に活用し、活力を取り戻してもらうことを願って、当書籍は執筆しています。はっきりした手法であるだけに、使い方次第では毒にも薬にもなるともいえます。それゆえ当書籍では、毒にならないような使い方をするための注意点や、薬として効き目を高めるためのポイントについて詳述しています。また、すでに十分活用している先進企業数社に情報を提供していただき、運用の実態も紹介しています。

実際のところ、上に挙げたような背景もあり、日本企業においてこれまで「360度フィードバック」は、きちんと理解される以前に何かネガティブな印象とともに葬り去られてきた感があります。しかし、今後の人事・組織マネジメントを考えるうえでは、欠かすことのできない重要な選択肢の一つとなるはずです。これはたとえば米国におけるフォーチュン500社のほとんどの企業が積極的に活用していることなどからも自明であろうと思われます。ゆえに、近々に活用の予定のあるなし関わらず情報武装の一環として、人事部門・人材開発部門の方々はもとより経営者の方々にも、まずはこの手法のコンセプトや用途についてきちんと理解しておいていただきたいと強く願う次第です。

プロフィール

元マーサージャパン株式会社 代表取締役副社長。マーサー社ではコンピテンシーに基づく人材の評価、選抜、育成および組織開発に関わるプロジェクト、日系企業海外現地法人の現地化推進等のコンサルティングのほか、コンサルティングノウハウのITプロダクト化、提携戦略等による新規事業開発に従事。現在は、継続性と実効性を確保できるマネジメント手法の開発および普及に力を注ぐ。著書に、『会社人生は評判で決まる』(日本経済新聞社)、『コンピテンシー活用の実際』(日本経済新聞社)、『チームを活性化し人材を育てる360度フィードバック』(共著、日本経済新聞社)、『図解戦略人材マネジメント』(共著、東洋経済新報社)ほか。日本人材マネジメント協会(JSHRM)幹事等を歴任。

写真:南雲 道朋(なぐも・みちとも)
株式会社HRアドバンテージ代表取締役社長
相原 孝夫(あいはら・たかお)

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