1. トップページ
  2. インフォメーション
  3. コラム
  4. 【コラム】第12回 〈やや番外編〉 360度フィードバックによる気づき-バーチャルストーリー(1/2)-
コラム

〈やや番外編〉 360度フィードバックによる気づき
-バーチャルストーリー(1/2)-

前回までに続き、執筆中の本の草稿からの抜粋だが、内容がやや柔らかいので、やや番外編とした。私は本の原稿などを書いた際、たいていは人事以外の仕事をしている友人何人かに頼んで読んでもらい、感想を聞いている。人事以外の仕事をしているビジネスマン・ビジネスウーマンの方々にも容易に理解される内容かどうかを確認するためだ。たいていは酷評されるが、たまには参考にもなる。

今回もわざと出張がちな友人を選び、新幹線の中で読め、飛行機の中で読め、と無理やり送りつけた。そしたら、飛行機からメールで返答をくれた者がおり、その者曰く「唯一面白く読めた」という箇所をここに抜粋することとする。文才のないことを承知のうえで無理してストーリー仕立てで書いた部分である。バーチャルストーリーではあるが、まるっきり想像上のものというわけではなく、多少の脚色はしたが実際に聞いた話をいくつか組み合わせて書いたものなので、元ネタはすべて事実である

〈ヘッドハンティングで入社した賀川部長の開眼(1/2)〉

大手一般消費財メーカーでブランドマネジャーとして活躍していた賀川氏は、ヘッドハンティングにより、中堅メーカーのマーケティング部長に転進した。商品力があるにも関わらず、マーケティング力が弱く、シェア上位の商品がわずか2つしかない現状に業を煮やし、社長自身がヘッドハンターに依頼し、大手メーカーでトップブランドを担当していた敏腕マーケッターの賀川氏をマーケティング部長として招聘した。それゆえ、賀川氏は上司にあたる営業・マーケティング担当常務の意向を聞くことすらせず、入社以来、独自のやり方を通していた。

入社して数ヶ月経ったある日、人事部が部課長全員に対して、人材育成目的で「360度フィードバック」を実施すると発表した。賀川氏は前の会社で経験済みだったので、それがどんなものかはよく知っていたが、上司ですら自分の方が実力は上だと思っているくらいなので、同僚や部下からの評価など、自分には必要ないと瞬間的に思った。「希望者だけにやればいいではないか」という意見を説明会でも出した。しかし結局、全社的な取り組みということで巻き込まれることになった。

実施の時期となり、賀川氏は部下たちに、「そんなものは時間をかけずに適当にやっておけばよい」と言った。次の週に実施されたフィードバック説明会にはもちろん参加しなかったが、フィードバックシートは人事部より届けられた。賀川氏はそれを捨てはしなかったが、見もせずに引き出しの奥深くにしまった。人事部からは、そのシートを上司と共有し、話し合う機会を持つようにとの通達が来ていたがそれも無視した。上司である常務も忙しいのか、ハイパフォーマーである自分に気を遣っているのか、幸い何も言ってこなかった。

そうこうするうちに、景気が悪化し、消費者の低価格志向の高まりや、原材料費の高騰、流通業によるプライベートブランドの導入など経営環境が大きく変わり、またこのタイミングで競合の大手外資系メーカーが新商品を立て続けに投入してきた。これまで確実に伸び続けていた担当商品のシェアも徐々に落ちていくようになった。「こういう中堅企業では人材レベルが低いから、いくら私が的確な指示を出しても、それを部下たちが十分に遂行できないんだからしょうがない」というようなことを経営陣に対しては言っていた。しかし、実際のところは、ここまで大きな環境変化に直面し、自分のこれまでのやり方はもはや通用しないのではないかとの危惧を抱いてもいた。

そんなある時、前職時代の同期会があり、同業他社への転職であったにも関わらず声を掛けてもらい、かつての仲間たちと会食をした。新入社員時代から苦労を共にした気心の知れた仲間であり、マーケティング部門で働く者たちは、現在は同じ境遇で苦しんでいたので話が合った。ビジネス環境が厳しいという話が多く出る中、強気の賀川氏もつい、「自分のこれまでのやり方ではどうもダメらしい」と弱音を吐いた。するとかつて一緒に働いていた友人の一人が、「だったら、頑固で人の言うことを聞かないが仕事上頼りにはなる、お前みたいな部下を育てたらいいんじゃないか」と投げやりなアドバイスをくれた。「そうだ、そうだ、そしたらお前の出番じゃなくなるよ、きっと」と他の者も相槌を打った。半分笑い話でからかって言ったに違いないが、賀川氏自身ははたと思った。笑顔で受け流すと思っていたのが、あまり真顔でいたので、怒ったのかと気遣った友人が、「人の言うことを聞かないということは、それだけ自信があるということだから悪いことじゃないよな」と勝手にフォローしてくれた。

賀川氏は考えていた。「これまで自分は部下を育てようとか、部下の実力を発揮させようなどという意識がどれほどあったのか」、ほとんどなかったことに今更ながら気づいた。自分は実力を見込まれて引き抜かれたわけなので、数字を挙げることが使命であって、チームとして数字を挙げるためには戦略を練り、その戦略を遂行していくための役割分担を考え、細かな指示を与えていくことが重要との考えのもとに入社以来ずっとやってきた。その結果、方針に賛同できずに辞めていった者もいた。辞めずにいる者たちのモチベーションも決して高い状況にあるようには見えなかった。しかし、自分が着任する前の状況を知っているわけではないので、これがこの会社の社風だというくらいにしか思っていなかった。

そのように思いをめぐらす中で、今は自分に何か言ってくれる人など一人もいないことに気づいた。それどころか、「自分になど誰も関心すら持っていないのではないか」、そうに違いないと思った時、さすがにぞっとするほどの孤独感を感じた。そういう自分も部下や上司に対して関心を持っていたと言えるのだろうか。関心を持って見ていたのは彼らが挙げる業績だけではなかったか。自らも居心地の悪さを感じる職場をつくり出している元凶はまさしく自分自身であるということを強く意識せざるを得なかった。次の日、いつもよりも一時間早く出社して、一年近く机の奥底に押し込めてあった、あのフィードバックシートを取り出して見てみた。フリーコメント欄も含めて30分以上も身じろぎもせず凝視していた。出社時間近くになり、出社してくる部下たちに対して、入社以来はじめて自分から、「おはよう」と声を掛けた。(つづく)

プロフィール

元マーサージャパン株式会社 代表取締役副社長。マーサー社ではコンピテンシーに基づく人材の評価、選抜、育成および組織開発に関わるプロジェクト、日系企業海外現地法人の現地化推進等のコンサルティングのほか、コンサルティングノウハウのITプロダクト化、提携戦略等による新規事業開発に従事。現在は、継続性と実効性を確保できるマネジメント手法の開発および普及に力を注ぐ。著書に、『会社人生は評判で決まる』(日本経済新聞社)、『コンピテンシー活用の実際』(日本経済新聞社)、『チームを活性化し人材を育てる360度フィードバック』(共著、日本経済新聞社)、『図解戦略人材マネジメント』(共著、東洋経済新報社)ほか。日本人材マネジメント協会(JSHRM)幹事等を歴任。

写真:南雲 道朋(なぐも・みちとも)
株式会社HRアドバンテージ代表取締役社長
相原 孝夫(あいはら・たかお)

サービスに関するお問い合わせ・ご相談はこちらまで

お問い合わせ

人事に関する情報が満載メールマガジン配信中

メールマガジン登録