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  4. 【コラム】第11回 360度フィードバックへの期待の高まり(3/3)
コラム

360度フィードバックへの期待の高まり(3/3)

360度フィードバックへの期待が高まっている背景に関する3回目として、今回はコンプライアンス方針やバリューの浸透について述べたい。 

J-SOX法の施行に伴い、上場企業をはじめほとんどの企業においてコンプライアンスに関する取り組みがなされ、経営陣の問題意識もここ数年で急速に高まった。しかし一方では、様々な業界において、不正表示や情報漏洩、品質不良等のコンプライアンス上の問題は後を絶たない。問題は、いかにして組織の隅々までコンプライアンス意識を高め、正しい行動を徹底できるかである。コンプライアンス上の難しさは、何割かの人に徹底しても無意味ということだ。ごく少人数であっても、意識の低い社員がいれば問題は起こる可能性はあり、いったん問題が起これば、会社全体に大きなダメージを与えることにもなりかねない。それゆえ、他のどんな取り組みにも増して、組織の隅々にまでの浸透が必要である。 

この難題にどう対処するか。管理職に十分な教育をし、部下の人たちを指導してもらうというような人頼みの対処法では徹底は難しい。これまで企業がやってきたことといえば、コンプライアンスに関するeラーニングを全社員に受講させ、問題が起こった時の言い訳をつくるくらいのことであった。本気で組織の隅々にまで浸透させようとした場合、どのような手立てが考えられるであろうか。 

 一つの有効策として、360度フィードバックによる行動の定着化がある。定着化させたいコンプライアンス行動をアセスメント項目としてセットし、周囲からの観察に基づくフィードバックをおこなうことで、強力な意識付けをし、実践・反復を促すのである。全社員を対象にしておこなう場合もあるが、一定層を対象におこなう場合でも、巻き込み効果による周囲への浸透も期待できる。こうした取り組みは一定期間継続的に行なうことが望まれる。そうすることで、各職場における相互監視体制ができる。一定期間、常に監視され続ける状態が続く一種の強制であるが、これまで身に付いていなかった行動を習慣化しようとする場合、一定期間意識し続けるということなしには難しい。

 経営理念や共通の価値観など、バリューの浸透への取り組みについても同様である。昨今は、グローバルマネジメント体制の整備への第一歩として、バリュー浸透への取り組みが盛んだ。グローバルで統一性のとれたマネジメントをおこなっていくことで、経営体質を強化していくことが狙いである。この場合も手段が難しい。ポスターやカードにして目に付き易くしたうえで、研修やワークショップなどをおこない、浸透度合いを意識調査等で把握するというような取り組みが比較的多く見られる。しかし、それで十分に浸透したという例はあまり聞かない。キャンペーンをおこなっている一期間のみ意識はするもものの、数ヶ月もすればすっかり冷めてしまうということが多い。

バリューに基づいた考え方や行動が日常的になされるようにすることがこの取り組みのゴールであり、そうならなければ何の意味もなさない。仮に、それらをすっかり記憶してそらんじることができたとしても、それ自体は何の意味も持たない。必要な場面で行動として発揮されなければ、意図しているような経営体質の強化にはつながらない。 

どのようにしてそういう状態まで持っていくか。やはり手段は限られる。こうしたケースでも、コンプライアンス行動の浸透と同様に、一人ひとりが行動として習慣化する必要があり、360度フィードバックを活用した同様の取り組みが有効である。しかし、年一回程度の頻度ではやはり効果は限定的である。実際に、マネジャー層の評価の中に360度フィードバックによるバリュー評価を組み込んでいる、ある外資系企業の人事マネジャーから話を聞いたことがあるが、評価の時期が近づいてくるとマネジャーの人たちがバリューの中にある言葉を盛んに使うようになるという。そういう機会が年一回でもないよりはよいが、年間の中で2,3週間だけバリューを思い起こしても、浸透というには程遠いことは間違いない。こうした機会が、年に4回~6回あればだいぶ違うであろう。やはりある程度頻度高くおこなう必要がある。それは毎年である必要は必ずしもない。一度習慣化した行動は容易に薄れることはないので、まずは習慣化のために一定期間頻度高くおこなうことが重要である。それ以降は年に2回ほどリマインドしていくことで保たれるはずである。 

以上のように、組織の中の一部の人たちだけに浸透していても意味のないこと、行動としての定着がなければ浸透したことにはならないことについては、手段は自ずと限られる。「全員に対して」という点において、対象を限定した巻き込みのない取り組みでは効果は見込めず、「行動としての定着化」という点において、継続性が確保できない手段は除外されることとなる。もちろん、一つの手段ですべてをカバーする必要はなく、いくつかの手段の組合せにより条件が満たされればよいわけである。上記二つの条件を共に満たす手段として、巻き込み型の手段である360度フィードバックの継続的実施という方法があるが、これは一つの仕掛けであり、これをきっかけに職場で話し合いを持つなどの取り組みが併用されることが、早期定着化のためにはより望ましい。

プロフィール

元マーサージャパン株式会社 代表取締役副社長。マーサー社ではコンピテンシーに基づく人材の評価、選抜、育成および組織開発に関わるプロジェクト、日系企業海外現地法人の現地化推進等のコンサルティングのほか、コンサルティングノウハウのITプロダクト化、提携戦略等による新規事業開発に従事。現在は、継続性と実効性を確保できるマネジメント手法の開発および普及に力を注ぐ。著書に、『会社人生は評判で決まる』(日本経済新聞社)、『コンピテンシー活用の実際』(日本経済新聞社)、『チームを活性化し人材を育てる360度フィードバック』(共著、日本経済新聞社)、『図解戦略人材マネジメント』(共著、東洋経済新報社)ほか。日本人材マネジメント協会(JSHRM)幹事等を歴任。

写真:南雲 道朋(なぐも・みちとも)
株式会社HRアドバンテージ代表取締役社長
相原 孝夫(あいはら・たかお)

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