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  4. 【コラム】第7回 モチベーションはプロセスに宿る(補論)
コラム
 

モチベーションはプロセスに宿る(補論)

書き始めてみると当初の予定よりだいぶ長くなり、モチベーション編は全5回を数えたが、何か言い足りなさを感じ、くどいようだが、補論として多少独断と偏見に満ちた私論を付け加えたいと思う。一つの極論としてみていただければ幸いである。

モチベーションについて話をしたり、書いたりする際に常に付きまとう違和感というか、どうも本音と違った、多少格好のよいことを並べ立てている感があり、一種のフラストレーションを感じるのである。というのも、モチベーション云々を問題にするというのは、甚だ贅沢な話ではないか、という思いが本音の部分であるからだ。結局、食うに困らない状況にあるから、モチベーションなどということを考えるわけで、ストレスという言葉同様、モチベーションなんていう言葉がなければ、モチベーションダウンもないのではないか、などとすら思ったりもするわけである。モチベーション云々が議論されている現代という時代がいかに恵まれた時代であるかを確認する意味で、過去の労働状況を概観してみたい。

まずは、明治、大正期の労働の情景である。以下は小作人の過酷な労働状況を著したものである。「朝はまだ残月のあるうちから、晩は手もとが見えるまでは野良でからだの骨々がへし折れそうに働いてきて、夜は二里ほどもある停車場へた糞尿(ため)ひきにいくおれだ」(安田常雄『出会いの思想史 渋谷定輔論』勁草書房1981年)。これを書いた1905年生まれの渋谷定輔は貧しい小作人の家に生まれ、自家の農作業を手伝うために学校にも十分には通えないまま、一日二十時間の労働と四時間の寝食が、彼の生活のすべてとなっていた。野良作業だけでなく、肥料とするための糞尿の引き取りのために牛車を引いて夕刻から夜半にかけて往復十五キロの道を歩くのが日課だった。「これがおれのこのごろの生存だ。生活じゃない、生存だ」(渋谷定輔『農民哀史から六十年』岩波新書1986年) かつては農業人口が圧倒的に多く、しかも庄屋などの大地主はごく一握りであったわけなので、ここに挙げたような状況は決して特殊なものとはいえないであろう。

次に、多少時代を新しくして、戦後の労働者の情景を見てみたい。間宏氏の研究による、戦争経験者たちの職業観と人生観である。いくつかのタイプに分類されるということだが、中でも多い三つのタイプは以下のようになっている。「献身型」:「身を捨てて国のために働くのが当然と考えた」(戦前、戦中の教育の中で徹底的に教え込まれた道徳の現われであり、「滅私奉公」として、戦後の労働観のなかに受け継がれていった)。余命型:「二十五歳まで生きるとは思わなかった。後の人生はオマケみたいなもの」「自分は一度死んだ」、「人生の片道切符から、往復切符を手に入れたようなもの」(当然死ぬと思っていた者が、思いがけず生き残ったという実感であり、どうせ一度死んだ人生だから、死ぬことをいとわないという、ものごとを遂行する際の命懸けの思想につながっていった)。罪責型:「死んだ戦友にすまないという気持ち」(死んだ戦友に代わって、祖国の再建のために努力しようという方向へ向かい、高度成長期の労働エートスを大きく特徴づけていた)。(間宏『経済大国を作り上げた思想』文眞堂1996年) こうした価値観による仕事に対する命懸けの姿勢から、この時代のサラリーマンは「企業戦士」と名付けられた。

時代が違うといえばそれまでだが、同じ人間が、時代が異なるだけでこれだけの環境の違いがあり、現代に生きる我々は、多少経済状況がどうのこうのということがあるにせよ、上に挙げたような時代とは比較にならないほど恵まれた環境にあることは間違いない。多くの人たちは週休二日あり、朝も9時頃というほとんど昼近い時刻からようやく仕事を始めるわけであって、しかもモチベーション云々を言いたがるホワイトカラーは肉体を酷使するような仕事であるはずはなく、それでいてモチベーションがどうのと言うようでは、あまりにもひ弱であり、日本社会をつくり上げてきた先人たちに見せる顔はないのではないだろうか。現代の社会思想が社会人の軟弱化に拍車を掛けているということもあるであろう。モチベーションを企業経営上の課題とすること自体、本来問題があるのかもしれない。そうすることによってかえって、従業員の甘えを増長してしまっている可能性もある。
これまで5回に渡って縷々述べて来た後に、今更こんなことを言うのもどうかと思うが、モチベーションというテーマは、会社が取り扱うにしても限度が必要と思われる。特に、外発的報酬等によるあまりにも過保護的な関与は控えるべきであろう。下手をすれば、従業員を単にハッピーにすることに一生懸命になり過ぎるあまり、生産性が低下するなんてことにもなりかねない。「ハッピーワーカー=プロダクティブワーカーではない」と言われるとおり、会社は目的を持った営利団体であるから、従業員をハッピーにすることにお金を使うのではなく、生産性高く働けるようにするためにお金を使うべきという点を忘れてはならないであろう。従業員をハッピーにしたところで、持続的なモチベーションは生まれ得ない。生産性高く働くことで、好循環が生まれ、業績が上がることによりはじめて、会社という場における持続的なモチベーションは可能となるのである。

プロフィール

元マーサージャパン株式会社 代表取締役副社長。マーサー社ではコンピテンシーに基づく人材の評価、選抜、育成および組織開発に関わるプロジェクト、日系企業海外現地法人の現地化推進等のコンサルティングのほか、コンサルティングノウハウのITプロダクト化、提携戦略等による新規事業開発に従事。現在は、継続性と実効性を確保できるマネジメント手法の開発および普及に力を注ぐ。著書に、『会社人生は評判で決まる』(日本経済新聞社)、『コンピテンシー活用の実際』(日本経済新聞社)、『チームを活性化し人材を育てる360度フィードバック』(共著、日本経済新聞社)、『図解戦略人材マネジメント』(共著、東洋経済新報社)ほか。日本人材マネジメント協会(JSHRM)幹事等を歴任。

写真:南雲 道朋(なぐも・みちとも)
株式会社HRアドバンテージ代表取締役社長
相原 孝夫(あいはら・たかお)

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