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コラム
 

モチベーションはプロセスに宿る(4)

仕事の価値の見出し方として三種類あると先に述べた。前回はそのうちの一つである、「労働そのものが根源的に持っている価値に気づくこと」という点について触れた。今回は二点目の、「いま現在おこなっている仕事に意味を見出すこと」について見ていきたい。これについては、自分にとっての意味と社会にとっての意味とがあるとすでに述べた。

自分にとっての意味とは、仕事を通しての自己開発、自己成長である。たとえどんなにルーティンな仕事であっても、必ず何らか効率性や効果性を高める余地は存在する。そういう点を見出すことができれば、自己開発につながる。また、そもそも自己開発とはどういうことを指すのかと考えてみる。専門スキルが身に付くということばかりではないであろう。最近は「人間力」がある種のブームでもあるようだが、心身の鍛錬ということがより高次の自己開発であるとするならば、単純作業も意味合いは大きく異なってくる。農作業のような繰り返し作業の多い肉体労働が尊い仕事でないはずがない。定まった手順どおりに完璧に遂行するということ、それ自体に精神性があるようにさえ感じられる。

余談になるが、かつて私は尊敬する仕事人がいた。以前に住んでいたマンションの掃除のおじさんである。その人の仕事は、それこそ武道か茶道のごとく形が決まっており、毎朝7時から決められた手順に従い掃除を始める。14階建て70部屋ほどの、そこそこの規模のマンションの共有部分を一人で半日かけて清掃をする。清掃後は、それこそ塵一つなく、清澄さが漂うほどの完璧さであった。そして、マンションの住人が通り掛かると、箒やモップなどの掃除具を右手にまっすぐに立てて持ち、45°のお辞儀をする。ここまでが彼の決まった形のようであった。月曜から土曜まで、朝7時から12時まで仕事をする。土曜日に散歩に出た時など、何度か彼を見かけたことがあった。彼は12時で仕事が終わると、近くの自動販売機へ缶コーヒーを買いに行き、川を眺めながら(隅田川沿いであった)、たいへん満足げな表情でその缶コーヒーを飲むのであった。仕事への打ち込み方といい、迷いの無さといい、定まった形の格好良さといい、まさしく目標とする仕事人であった。

やや話は飛んだが、「現在おこなっている仕事の自分にとっての意味」について、もう一点付け加えておきたい。かつての私の上司は、部下がおこなう仕事のすべてについて自分でもできないと気が済まない人であった。当時私が属していたコンサルティング会社には、プロダクションスタッフというデータ分析や書類作成を専門とするスタッフがいたが、その人たちがおこなう少々細かな業務の一つ一つについてさえも、ひと通り自分でやってみるというほど、それは徹底していた。なぜかといえば、「仕事を依頼する立場の者は、その仕事の難しさや辛さを知っている必要がある」というのが彼の確固たるポリシーであったからだ。確かに、その仕事の経験がなくまったく分からない中で依頼し、管理する場合と、実際に経験している場合とでは大きく異なるであろう。たたき上げの人材が現場での人望が厚いというのは、そういう点に理由があるのであろう。そう考えた場合、ポジションが徐々にステップアップしていくことを前提にするのであれば、その時々の仕事を精一杯おこない、それぞれに精通しておくことは先々重要なこととなる。

さて次に、「いま現在おこなっている仕事の社会にとっての意味」だが、これは仕事を通しての社会への役立ち、社会貢献である。どんな仕事であっても、仕事である以上、必ず社会の役に立っている。ただし、社会への役立ちが見えやすく、役立ち感が感じられやすい仕事もあれば、見えづらいがゆえに役立ち感が感じられづらい仕事もある。たとえば医師などは、日々患者さんと接しており、病気やケガを治すという極めて役立ちが分かりやすい仕事であるので、自分の仕事の社会的意義を認識していない医師はまずいないであろう。一方、役立ち感が感じられづらい仕事の特徴としては、「直接顧客の顔が見えない」、「自己完結型の仕事ではなく、ある特定部分を担当している」、「結果が出るまでに長期間を要する」などがある。

そのような場合は、「所属する組織や会社が社会に対してどんな価値を提供しているのか」が分かりやすく示されていることが、とりわけ重要である。組織や会社を通して、自分が社会に対してどのような貢献をしているかを認識するからである。つまり、会社の存在意義が明確でないと、社員一人ひとりは自分の仕事の社会的意義を見出すことはできない。ただし、存在意義といっても、「○○を作っている」では足りない。同業他社も作っているからである。どのようなユニークさがあり、それゆえどんな風に役立っているのか、逆に言えば、自社がなくなったら何が困るのか。そうした観点を含め示されている必要がある。

ホンダは、「存在を期待される企業」という理念を掲げているが、自社は社会にその存在を期待されているということは、一人ひとりの社員にとっても極めて大きなモチベーションの源となることは言うまでもない。そのうえでホンダの場合、「The Power of Dreams」というスローガンのもと、「ワクワク、ドキドキする商品開発」という事業コンセプトは、社外にも十分に認知されるに至っている。社員の一人ひとりが自分の仕事を社会の中にしっかりと位置付けられるよう、更には、その会社に所属していることを誇りに思えるよう、自社の存在意義の社内外への啓蒙は重要である。昨今は非正規社員の増加という背景もあるので、社内報などを活用した社内向け啓蒙活動の重要性もより一層増しているものと思われる。

次回は、仕事の価値の見出し方の三点目について述べることとする。(つづく)

 

プロフィール

元マーサージャパン株式会社 代表取締役副社長。マーサー社ではコンピテンシーに基づく人材の評価、選抜、育成および組織開発に関わるプロジェクト、日系企業海外現地法人の現地化推進等のコンサルティングのほか、コンサルティングノウハウのITプロダクト化、提携戦略等による新規事業開発に従事。現在は、継続性と実効性を確保できるマネジメント手法の開発および普及に力を注ぐ。著書に、『会社人生は評判で決まる』(日本経済新聞社)、『コンピテンシー活用の実際』(日本経済新聞社)、『チームを活性化し人材を育てる360度フィードバック』(共著、日本経済新聞社)、『図解戦略人材マネジメント』(共著、東洋経済新報社)ほか。日本人材マネジメント協会(JSHRM)幹事等を歴任。

写真:南雲 道朋(なぐも・みちとも)
株式会社HRアドバンテージ代表取締役社長
相原 孝夫(あいはら・たかお)

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