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  4. 【コラム】第2回 モチベーションはプロセスに宿る(1)
コラム
 

モチベーションはプロセスに宿る(1)

相変わらずモチベーション流行りである。とは言っても、企業人事の世界だけのことであり、普通一般にはそれほど多く耳にする言葉ではない。人事の世界以外では、スポーツの世界くらいであろうか。ではなぜ企業では、それほどモチベーションを声高に、しかも昨今特に顕著に言われるようになったのか。それはおそらく、モチベーションが上がりづらい状況にあるとの認識が企業側にあるからであろう。 

そもそもモチベーションが問題になる行為とは、それを行なうことにネガティブな感情が伴う行為である。仕方なく行なう行為やプレッシャーの掛かる中で行なわなければならない行為に対して使うものである。競馬好きが競馬をやる場合やパチンコ好きがパチンコをやる場合には決して使わない。確かに企業は、あえてモチベーションが上がりづらくなる状況をつくっていると言えなくもない。最たるものは短期間の結果主義である。四半期決算や株主重視経営がこの方向に拍車を掛けている。しかし、こうしたプレッシャーは、本来経営者が一身に担うものであって、従業員に同様なプレッシャーを掛けてしまうようでは、経営の役割を果たしていることにはならないのではないか。

結果に目が向いてしまえば、自ずとモチベーションは下がる。なぜなら、日常はプロセスであり、モチベーションとは日常のことであるからだ。イチロー選手は、あるインタビューに答えて次のように語っている。「打率は、割り算の結果だからどうこうできない。しかし、何本ヒットを打つかは目標が立てられる」 長い経験の中から、プロセスに集中しなければ、シーズンを通してモチベーションを維持できないということをよく分かっているのであろう。その結果として、高い打率を残すことになるのだが、結果とはそういうものである。

そもそも子供が遊ぶのは、誰かに頼まれて遊んでいるわけではなく、また、遊んだら何かもらえるとか、いいことがあるから遊ぶわけでもない。それでも没頭して一心不乱に遊ぶわけである。そのことだけを考えてみても、モチベーションはプロセスそのものにあるということが分かる。もちろんプロセスに没頭するのはなにも子供ばかりではない。料理も食べるのは一瞬であって、作っている最中が一番楽しいと言われる。陶芸や模型作りなどの創作活動もそのプロセスが楽しいのであって、出来上がってしまえば、すぐに興味は冷めてしまい、また次のプロセスを求めるものだ。

陸上の為末選手はコーチをつけないことで有名だが、なぜコーチをつけないのか、と問われて、「どうすればもっと記録が伸ばせるのかを考えるのが一番面白いところであって、そこはどうしても自分でやりたい」と、プロセスの楽しさを指摘している。ガリバー旅行記の中で、不死の国というのが出てくるが、そこでは不死に疲れて死にたがっている人々が描かれている。幸福は手に入れたとたんに失われる。幸福とは状態ではなく、それに向っているプロセスのことである。

「フロー」の研究で知られる心理学者のチクセントミハイは、あるロッククライマーのインタビューで次のようなことを聞き出している。「自分の身のまわりに起こっていること、つまり岩や、手掛かりや、体の正しい位置を探り出す動きに浸りきってしまいます。・・・すっかり夢中になっているために、自分が自分であるという意識がなくなり、岩の中に溶け込んでしまうのです。・・・ある意味ではほとんど自我のない状態になって、どういうものか、考えることなしに、また全く何もしていないのに、正しくことが運ばれる、とにかくそうなってしまうのです」。 M.チクセントミハイ「フロー体験 喜びの現象学」‐1996年世界思想社‐

こうした状態が、氏の言う「フロー」の状態である。人間がその時していることに、完全に浸り、精力的に集中している感覚に特徴づけられ、完全にのめり込んでいて、その過程が活発さにおいて成功しているような活動における、精神的な状態である。仕事もそのようにやりたいものだと、誰もが強く願っているに違いない。それを会社があの手この手で妨げている状況といえるのかもしれない。チクセントミハイも、「いまの社会では“内発的報酬”がほとんど無視されていることが問題だ」、「人間は外発的報酬による妨害がなくなったとき、はじめて内発的報酬により容易に反応できる」と述べている。

経済学の世界では、アマルティア・センが「合理的な愚か者」と表現したように、人々が合理的に「外発的報酬」を追い求めるという前提のもとに、すべての理論が構築されている。当然、企業活動の中でもそうした前提でシステムができており、外発的報酬のみに焦点が置かれがちである。結果、従業員のモチベーションは低空飛行を続ける、という当然の結果を招いている。こうした状況をどう転換すればよいのだろうか。なぜプロセスに目を向けることは難しいのであろうか。(次回へ続く)

プロフィール

元マーサージャパン株式会社 代表取締役副社長。マーサー社ではコンピテンシーに基づく人材の評価、選抜、育成および組織開発に関わるプロジェクト、日系企業海外現地法人の現地化推進等のコンサルティングのほか、コンサルティングノウハウのITプロダクト化、提携戦略等による新規事業開発に従事。現在は、継続性と実効性を確保できるマネジメント手法の開発および普及に力を注ぐ。著書に、『会社人生は評判で決まる』(日本経済新聞社)、『コンピテンシー活用の実際』(日本経済新聞社)、『チームを活性化し人材を育てる360度フィードバック』(共著、日本経済新聞社)、『図解戦略人材マネジメント』(共著、東洋経済新報社)ほか。日本人材マネジメント協会(JSHRM)幹事等を歴任。

写真:南雲 道朋(なぐも・みちとも)
株式会社HRアドバンテージ代表取締役社長
相原 孝夫(あいはら・たかお)

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