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コラム

“強い人”待望論はそろそろやめよう

ここ10年の人材マネジメントを見るに、個人の側面をクローズアップするもの、特に “強い人”を際立たせるような方向性が強まってきたように思われる。そしてその傾向は弱まるどころか、逆にエスカレートしてきているようにさえ感じられる。(ちなみに、“強い人”という言い方は、田尾雅夫「会社人間はどこへいく」‐1998年中公新書‐に拠っている) 

企業が求める人材像を見ても、「事業家型人材」といったような、過剰期待が強くなってきたように思われる。「競争優位をめざす人材戦略に関する経営者アンケート‐2002年」(日本能率協会)によれば、人材に求める資質として、票数の圧倒的多数を占めた上位二つは、「創造力、新しい発想・アイデア、独創性、価値創造」と「実業変革・再構築力」である。あたかも経営者自身の役割ではなかろうかと思えるような内容が並んでいる。もしそんなことができる人材であれば、とうに会社を辞めて自分の会社をつくっているであろう。

自律的なキャリア開発を促す風潮もここ10年で強まってきたが、自律的にキャリアを築けるような“強い人”ばかりであろうはずがない。“普通の人”がそんなことを強要されれば、少しでも条件の良い転職先を探すくらいのことしかできないに違いない。企業内における人材育成も、プロフェッショナル人材や経営幹部候補人材などのトーンが強まってきた。処遇における成果主義なども、こうした側面を際立たせることにつながっていることは否めない。 

事業が成熟期に入ってくると、経営者も「個人力」に頼りたくなる気持ちもわからなくはないが、それによって多くの“普通の人”たちがそっぽを向いてしまえば、企業経営上、かえって危機を招きはしないだろうか。田尾氏も前掲書の中で、「強い人依存という組織論は、それ自体衰退期の予兆を秘めた組織論である」とし、次のように続けている。「経営管理とはスターの意欲を引き出すよりも、準スターの意欲をマネジメントすることである。」

では、こうした“強い人”依存の方向へ向った場合、特に何がまずいのかといえば、企業内格差ができることにより、職場力が衰退してしまうことである。組織がごくわずかな上澄みとそれ以外の多数とに分かれてしまった場合、どうなるか。“強い人”には当然しわ寄せが来る。一方、大多数の“普通の人”は疎外感を感じ、やる気を失う。そうなれば、“強い人”とて一人でできることには限界がある。さらには、“強い人”たちも、“普通の人”たちも、職場に安らぎを感じることはできなくなるであろう。職場の一体感は薄れ、コミットメントは低下し、職場力は衰退へ向うであろう。そして、いったんそちらの方向へ向ってしまえば、元に戻すのは短期的には困難である。

組織というものは、“普通の人”たちがそれぞれに力を発揮してこそ、大きな仕事が成し遂げられるものである。結局、“普通の人”という言葉を使ってはいるが、人の能力差などは微々たるものではないか。何の差が大きいかといえば、志や使命感、情熱などである。能力とは比較にならないくらいに大きな差となる。であるから、能力的に多少は劣っている場合でも、その人の本気が出れば、能力差など簡単にひっくり返すことができるということが多く起こる。適した役割を与えて、適切な動機付けをすれば、誰しもハイパフォーマーとなるというのは真実であろう。

オライリーとフェファーは、「隠れた人材価値」‐2002翔泳社‐の中で次のように述べている。「『企業は人なり』という表現には、字面以上の深い真実が隠されている。その真実とは、『社員の内に秘められている真価をどれだけ引き出すことができるかによって、会社の命運が決まる』というものである。」

したがって今後、人材マネジメントを正しい方向へ軌道修正していくうえでは、“普通の人”に焦点を当てた施策が必要となるであろう。“普通の人”たちが無理なく自然に働ける環境をつくることである。そのためには、職場への貢献や他者への啓発等、直接的な成果以外の側面にもスポットを当てた評価、処遇が必要であろう。人材育成においても、能力を向上させるという以前に、持っている能力を引き出すことに焦点を当てるべきであろう。そして何よりも、スーパーマン求む!的な人材像ではなく、もっと手の届く、全員への期待が伝わる人材像を示すことである。

プロフィール

元マーサージャパン株式会社 代表取締役副社長。マーサー社ではコンピテンシーに基づく人材の評価、選抜、育成および組織開発に関わるプロジェクト、日系企業海外現地法人の現地化推進等のコンサルティングのほか、コンサルティングノウハウのITプロダクト化、提携戦略等による新規事業開発に従事。現在は、継続性と実効性を確保できるマネジメント手法の開発および普及に力を注ぐ。著書に、『会社人生は評判で決まる』(日本経済新聞社)、『コンピテンシー活用の実際』(日本経済新聞社)、『チームを活性化し人材を育てる360度フィードバック』(共著、日本経済新聞社)、『図解戦略人材マネジメント』(共著、東洋経済新報社)ほか。日本人材マネジメント協会(JSHRM)幹事等を歴任。

写真:南雲 道朋(なぐも・みちとも)
株式会社HRアドバンテージ代表取締役社長
相原 孝夫(あいはら・たかお)

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