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最新人材マネジメント情報

ビッグデータ vs. スモールデータ

ビッグデータを人・組織のパフォーマンス向上に活かす

ビッグデータという言葉が出てくる何年も前から、それに着目し、身に付けるセンサーを開発して、瞬時瞬時の身体運動、人との接触や位置を記録し、人や組織のパフォーマンスとの関係を研究されてきた(以前このコーナーでもご紹介した)矢野和男博士が、人・組織のパフォーマンス向上のためにビッグデータを活用する全容を明らかにする本を出されました(『データの見えざる手』矢野和男、草思社)。それは、次のような壮大なビジョンを提示する、圧倒的な内容でした。

1.人間の活動の本質に、(活動量の)ビッグデータで迫ることができる。
2.人間社会の本質に、(人と人の関係の)ビッグデータで迫ることができる。
3.多くの対象の間の関係を自動で見つけ出す学習するマシンを開発した。
4.それによって、人間が思い及ばない法則をコンピュータは見つけ出す。
5.それによって、生活の質の向上を、コンピュータは支援する。
6.それによって、社会のあらゆる問題の解決を、コンピュータは支援する。
7.かくして、経済性と人間性とが相反せず、自己の利益を追及すればするほど社会に豊かさが生み出される、そのような問題解決基盤ができつつある。

コンピュータとは「計算機」のことであった時代から、インターネットの時代になり、情報化社会の質が大きく違うものになった、ということは私達が日々感じ続けているところですが、さらにそれがビッグデータの時代になり、人・モノの状況が刻一刻と記録され、関連づけられるようになったことで、人の知性が拡大し、新しい局面が開けてきていることを感じさせます。


小さなデータではだめなのか

一方、次のような疑問が呼び起こされることも事実です。我々は人材活用や組織運営において、「小さなデータ」すら十分活用していません。それなのに、コストをかけて膨大な「ビッグデータ」に取り組む意味があるのでしょうか?あるいは逆に、人材活用や組織運営といった複雑な対象に取り組むには、「ビッグデータ」である必要があるのでしょうか?

人材活用や組織運営において、「小さなデータ」を活用する、とは、次のようなことを指します。人が1000人いて、人の属性(年齢、性別、業績、スキル、人件費・・・)が数十項目あれば、1000件☓数十項目=数万のデータということになりますが、EXCELで十分扱うことができるデータです。そのようなデータを活用するだけで、いろいろなことがわかるわけですが、それすらまだほとんど行われていない状況があります。

例えば、社員一人一人の能力を把握するためにコンピテンシーの体系を作ったりしますが、コンピテンシーの体系は、コンサルティング会社の知恵を借りつつ「対人系能力、思考系能力・・・」といった大分類から始まって人材の強み・弱みを網羅的に、しかしできるだけわかりやすく把握できるよう、何となく整備されるにすぎず、その分類としての妥当性や、業績との相関関係がデータで裏付けられることはめったにありませんでした。

しかし、多面評価等を通じて少しデータをとってみれば、強み弱みの特徴をより適確に把握できる「キレ」のある能力分類方法、業績への鍵となる最も重要な能力要素、等が見えてくるわけです。このような検証・改善プロセスを入れることは、10年前と比べて、コンピテンシーモデルの作成法として、大きく進化した点です。

例えば、営業組織の能力・スキル管理の例をあげてみます。営業担当者のスキルや能力項目を50項目で管理していたとします。1000人分の多面観察結果を、業績データとともに多変量解析の手法を用いて分析することで、この会社のこの事業においては、能力要素は次の10項目に分けるのが最も合理的であり、かつ「営業業績」に本当に直接影響があるのは、「購入可能性見極め」である、ということが見えてきます。

<営業のコンピテンシー例>


すなわち、「思い切ってテストクロージングをかけてみる(=これで決めましょう、と迫ってみる)」「購入の見込みがないと判断したら素早く次の顧客に移る」ということを日々実践できるかどうかが、業績への鍵になる、ということがわかるのです。これにより、営業教育のあり方が変わってきます。営業担当者の日々の努力の焦点が全く変わってきます。「勉強したり人間関係を作るのも良いが、お客さんと勝負する瞬間を早く作れ!」と。


ビッグデータで見えること

私達は日頃そのような、人の数だけの件数の小さなデータ、すなわち数百件から数千件ですむデータの収集と活用をお勧めさせていただいているわけですが、これが、数千万件とか数億件とかいうデータになると、見える世界が異なってくるのでしょうか?人と組織のパフォーマンスを高めるにあたって、これまで見えなかった全く新しいヒントが見えてくるものでしょうか?

先にご紹介した矢野和男氏の本には、人の幸せを高め、企業の業績を高めるために、どのようにビッグデータを活用できるか、ということが、著者がこれまで取り組んできた様々な取り組み事例(=エピソード)を用いて提示されています。それを要約してみながら、同じ問題に、ビッグデータを使わずに対抗することができないか、考えてみることにしました。それによって逆に、ビッグデータを用いなければならないわけが見えてきそうです。

【エピソード1】 一日の中の「活動量の密度」の分布は急激な右肩下がりの指数分布になる。つまり、活発な時間とそうでない時間とに必ず分かれ、メリハリがついてしまう。その法則からは逃れられない。(無理はできない。)
【エピソード2】 人は活発なほど幸福度が高く、生産的であり、創造的である。また、動きの活発さは人から人へ伝染する。
【エピソード3】 人が行動を起こす確率は時間が経過するほど急激に(経過時間の逆数で)減っていく。続けるほど止められなくなる。間をあけるほどおっくうになる。最近会った人とほどまた会う。最近買った人ほどまた買う。
【エピソード4】 ネットワークが密であり、人への到達度が高い人ほど「運がよい」。
【エピソード5】 店舗で売上が上がる要因は思わぬ場所にあることがある。ホットスポットに人がいることで、店員や顧客の行動の活発度が高まり、売上があがる場合がある。

つまり、ビッグデータによれば、人は活発なほど幸福であり、高業績であり、しかも活発さは自分自身にも他人にも伝染する。しかし、一日を通してみると、活発さの度合いに山谷があることは避けられない。だから、自分の活発さのピークの時間帯をどこで何に使うかが重要であり、最も効果的な内容、相手、時間、場所に使うことで、人も社会も幸福になり、業績が上がる、というのです。

そこから導かれる教えは、「顧客や仲間とともに脈拍が高くなるような、すなわち、共に何かを創り、何かを意思決定するようなピークの時間帯を作れ」、ということにならないでしょうか?それは、営業担当者の場合であれば、「顧客に意思決定を迫ってみる、その瞬間を作れ」、「しかも、できるだけ密室ではなく、人に影響が伝染するようなところでその時間を作れ」、ということにならないでしょうか?

その結論は、少々強引かもしれませんが、先ほどの、小さなデータから導いた、「お客さんと勝負する瞬間を早く作れ!」という結論と同じ結論だと言えないでしょうか?


ビッグデータが提示する世界観の重さ

人の活動のビッグデータからは、これまで人間が何となくそうだと思ってきたことを抗えない真理として提示するような、重要な法則が導かれそうです。ビッグデータから導かれたその「法則」を適用することにすれば、もう個別ケースごとのデータは要らないのではないでしょうか?少なくても、組織メンバーで次のような簡易なデータを、チェックリスト方式で1週間とってみるだけで、パフォーマンスを高めるための十分な活動のヒントが得られると言えそうです。

1.一日で最も生産性の高いピーク時間に何を生み出したか(10個の分類の中から選択)?
2.一日の中で何人に対して、相手の考えを引き出す積極的な働きかけをしたか?
3.過去1週間の中で2回以上積極的な対話をした人は何人になるか?

ただし、ビッグデータから導かれる法則を使わせてもらえばよいとしても、ビッグデータが提示する、「人というのは活動の集計単位にすぎない」「人と人の違いというのは活動を積分した結果にすぎない」「人の違いに着目するよりも、どんな人でも逆らうことができない法則に着目することで、人事管理ということを介さずに、人と組織のパフォーマンスを直接的に高める方法に迫ることができる」という世界観は、マネジメントに対して大きな問題提起をしていると言えそうです。



プロフィール

写真:南雲 道朋(なぐも・みちとも)
株式会社HRアドバンテージ取締役
南雲 道朋(なぐも・みちとも)

株式会社HRアドバンテージ取締役。富士通でシステム開発企画、マーサージャパン等の外資系コンサルティング会社で業務改革/マネジメント改革/組織改革/人材開発を横断するプロジェクトの企画・推進を行ってきた。分野を横断するシステム思考の実践を基本姿勢とし、近年は人と組織のデータ活用の仕事に注力している。著書に、『多元的ネットワーク社会の組織と人事』(ファーストプレス)、『チームを活性化し人材を育てる360度フィードバック』(共著、日本経済新聞社)、『図解戦略人材マネジメント』、『実践Q&A戦略人材マネジメント』(以上共著、東洋経済新報社)がある。

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