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最新人材マネジメント情報

人事制度への二律背反の要請を解決する王道

二律背反に直面していかに舵を切るか

最近の人事制度見直しの大テーマは「二律背反の要請をいかに解決するか」ということにある、と感じています。

人事の一つ一つの課題、たとえば、

●いかに社員の能力をグローバル競争ができるレベルに高めるか
●いかに人件費を抑えるか
●いかに次世代経営リーダーを早期選抜・育成するか
●いかに職場を活性化するか

・・・といった課題一つ一つについての解決法についてはメニューも出揃い、定番の方法もほぼ固まってきています。 

よって、次の課題は、

●いかに社員の能力をグローバル競争ができるレベルに高めつつ、かつ、人件費を抑えるか
●いかに次世代経営リーダーを早期選抜・育成しつつ、かつ、チームワークを活性化するか

・・・等、二律背反する要請を一つの会社の一つの制度体系の中でいかに成り立たせるか、という課題になるわけです。

なお、普通に考えれば、言うまでもなく、

●社員の能力をグローバル競争ができるレベルに高めようと思えば、優秀人材を採用し、引き留めなければならず、人件費も上がります。
●次世代経営リーダーを早くから選抜・育成しようと思えば、差をつける人事を目指すことになり、職場の一体感、そしてチームワークは犠牲になります。

長年に亘って思い切った人事施策が打てないとすれば、それはそのような二律背反に直面するからで、そのような場合、どのように舵を切ったらよいか、ということが問題になるわけです。


二律背反を成り立たせるためには社員を分ける

二律背反する要素の両方を「同時に」追うことはしない、というのは一つの優れた見識です。当面の方向性をどちらかに決めたらブレないことにするのです。つまり、先の4つの課題があるとしたら、矛盾しないものどうしでまとめ、「当面の方針」を、次のAかBかいずれかに絞るのです。

(A) 社員の能力をグローバル競争ができるレベルに高めつつ、しかもその中から、次世代リーダー候補を早期選抜・育成する。
(B) 人件費を抑えつつ、若年層やパートの方も積極的に巻き込んでチームワークを高め、お互いの能力をチーム力で補完する。

矛盾のない、はっきりした方向感を持った方針は、わかりやすい人事の基礎であり、人事に対する社員の納得感に直結します。そのような方針を示せる会社は、良い会社であることは確かでしょう。

しかし、現実のほとんどの大企業は、先の4つの課題全てを喫緊の課題として抱えています。課題解決の担当者を違えるにせよ、AもBも実現しなければならないのが現実です。しかし、AとBの両方が推進されていると、会社としてどのような姿になりたいのか、わからなくなってしまいます。

そのような場合にはどうしたらよいのでしょうか?どのような方法がありうるのでしょうか?

論理的にはっきりしていることは、「社員を最初から分けて扱うことにすれば二律背反は解消する」ということです。たとえば、グローバル社員とローカル社員とに分けて、採用もキャリアパスも違うものとして、そして、上記Aはグローバル社員の課題とし、Bはローカル社員の課題とすれば、上記AもBもどちらも成り立たせることができます。

社員を分けてしまう・・・少し抵抗がありますね。他の道はないのか・・・時間軸を利用できることにすれば、次の方法もありえます。

●社員全員を、特段の能力を持たないレベルから、グローバル競争力があるレベルにまで育て上げ、その中のトップの者をリーダーとする。

例えば、トヨタの哲学などはこのようなアプローチを貫こうとする哲学なのかもしれません。しかしほとんどの企業においては、現実的には社員を分けるアプローチをとらざるをえないでしょう。社員を分けて扱う、ということについて腹をくくるとともに、どのように分けるのかを決める、ということが、これからの人事方針の大きな部分となると思われます。


社員をどう分けるか

ではどう分けるのか。

(X) グローバル社員とローカル社員に分ける。

これは一つのわかりやすい方向性です。しかしこの場合、経営・企画と現場とが分断されてしまい、現場力を経営の中に取り込むことが難しくなるのではないか、「アメリカの製造業」のようになってしまうのではないか、という懸念が避けられません。

もう一つの分け方があります。ビジネスをレイヤー別に「水平分業」する発想から出てくる分け方です。従来の人事に馴染む用語としては、職能分野別という言葉が近いかと思います。

(Y) 次のようにレイヤー/職能分野別に分ける。
-顧客に個別の商品提案をする人 (営業・マーケティング)
-基本的なサービスを提供する人 (サービス・コールセンター)
-サービス提供のシステムを構築・維持する人 (業務・アプリケーション)
-部品・要素技術を開発したり、調達したりする人 (研究開発)
-IT基盤や設備などのインフラを構築・維持する人 (インフラ)
-必要な資金を調達する人 (財務)
-上の全ての「レイヤー」を束ねる経営をする人 (経営)

各レイヤー/職能分野は、異なる専門知識・行動特性・価値観によって特徴づけられ、各レイヤーは固有の価値観を持っており、その価値観は他のレイヤーの価値観とバッティングします。例えば、「顧客に提案する人」はできるだけ個々の顧客の個々の要求に合わせようとしますが、「システムを構築する人」は顧客の要求をそのまま受け止めず、抽象化・一般化して全体の効率を高めようとします。それが、各レイヤー/職能分野を人材プールとして分ける理由となります。そして、レイヤー/職能分野ごとに固有の人材市場がグローバルに出来上がり、人材マネジメントも各レイヤー/職能分野ごとに行われるようになることが予想されるのです。

単一のレイヤー/職能分野の中だけで見れば、その職能の最大限の発揮ということを目的/物差しとして、「グローバル競争」「リーダー早期抜擢」「人件費抑制」「チームワーク」が同時に成り立ちえます。

例えば、サービス提供のためのシステムをウェブの上で実現しようとする時、「ウェブアプリケーション開発界」では、優秀なエンジニアが世界的に熾烈な競争を繰り広げています。ウェブアプリケーション開発を目的として、ウェブアプリケーション開発界で人材リソースを調達し、ウェブアプリケーション開発者の中だけで組織化を行うならば、「グローバル競争」「リーダー早期抜擢」「人件費抑制」「チームワーク」の4つの要素に同時に手が届きやすくなることは明らかです。(それを、自社の人事秩序の中で「営業部門や管理部門と並ぶシステム部門配属者」として人材を調達し、マネジメントしようとする場合と比べてみてください。)

そしてレイヤー/職能分野によっては、例えば、要素技術開発やインフラのレイヤー/職能分野などは、まるごと外部にアウトソースしてしまう発想に至る可能性も高いでしょう。グループ企業であれば、事業会社別に個々に設けられていたサービス部門やコールセンターを一つの法人に集める、という発想になる可能性が高いでしょう。


水平分業はあらゆる業界に

レイヤー/職能分野毎に異なった人材市場ができ、異なった人材マネジメントが行われるようになる、という考え方は、インフラのレイヤーがクラウドに移行しつつあるIT業界や、EMS(受託製造サービス)の進展で製造レイヤーが切り離されつつある製造業に馴染む考え方のように思われますが、あらゆる業界で進行しつつあると言ってよいと思われます。

例えば航空業界では、次のようなレイヤーすなわち職能分野別に、水平分業とグローバルな集約が進み、アウトソーシングも進み、そのことが数多くのLCC(格安航空会社)誕生の背景となっていることは衆知の通りです。

-マーケティング
-オペレーション
-機体整備
-乗務員教育
-機材調達

あるいは規制の中で日本企業の伝統的な体質が残りがちな金融分野でも、これまでの保険・証券・預金といった金融商品分野別の垣根の代わりに、次のようなレイヤー/職能分野別の水平分業の考え方で企業が再編されていくべきことが、「金融アンバンドリング戦略」として提案されています。(『金融アンバンドリング戦略』大垣尚司(著)日本経済新聞社)

-販売・オリジネーション (営業)
-サービシング (サービス)
-マニュファクチャリング (商品開発)
-リスク管理・資金調達 (バックオフィス)

変化をもたらすきっかけは何か

このようなレイヤー/職能分野別に人材市場ができ、人材マネジメントがなされる社会は、一種の職能ギルド社会のイメージです。最終的に、企業の垣根を超えて、グローバルにつながった職能ギルドが個人のアイデンティティの源になる、というイメージです。

筆者も2007年にそのような人事の全体像を描こうとしたのですが(『多元的ネットワーク社会の組織と人事』)、なかなかこの方向に、伝統的な日本企業の人事は向かっていきません。それは何故なのでしょうか。次のような理由が考えられます。

●経済が拡大しない中で、外部人材市場が発達しないままであること。
●言語の壁があるためグローバルに同業者とつながりにくいこと。
●ジェネラリストとして企業の出世階段を登る道が最もリスクが少なくリターンが高い職業人生であると認識されており、企業の側も従業員のそのような認識を、自社の求心力を高めるために活用していること。
●企業別組合を初めとして、企業別社会が社会の単位として根付いており、職能分野別の社会は、これまでの企業単位での同質集団としてのまとまりや、日本社会のまとまりを大きく打ち崩すことになることが予感されていること。
●職能ギルド的な社会においては、レイヤー(職能分野)毎に報酬水準が定まり、しかもレイヤー間の格差は拡大することが想定されること。

しかし、個別企業の枠の中では、二律背反の要請の板挟みの中で、人材能力の思い切った活用ができず、個人としてもキャリアが見えず、日本企業社会の閉塞感は増していくように感じられます。腰を据えてトヨタを目指すならば別かもしれませんが・・・

何が変化をもたらすきっかけになりそうでしょうか?

私は変化のきっかけになるのは、経営職を専門職化してしまうことではないかと考えています。専門職化して、20代から経営職の育成を始めるのです。経営者適性を持つ人材は、早い段階で「経営職コース」に乗せてしまうのです。もちろん経営職コースへの参入戦に敗者復活はあってかまいませんが、いずれにしても、早い段階で、経営人材を選抜してしまうのです。キャリアの後期まで選抜時期を引っ張り、期待を持たせるということはしません。そうなると、経営職コースを選ばなかった、あるいは選ばれなかった人は、専門性に基づくプロフェッショナルとしてキャリア設計をするようになるのではないでしょうか。

その端緒となる事例はないか・・・ありました。村田製作所では、「経営陣から権限委譲を受け、意思決定する専門の人材」を100人以上、早期育成し、各現場に配置しているそうです(日経ビジネス2014/07/07号)。意思決定権限を委譲された専門人材は、「20代後半から30代後半までの主任や係長といった非管理職」とのことですが、経営を専門職化する事例として捉えることができるように思います。

いかがでしょう?このようなことから日本の企業社会は変わっていくと思われませんか?



プロフィール

写真:南雲 道朋(なぐも・みちとも)
株式会社HRアドバンテージ取締役
南雲 道朋(なぐも・みちとも)

株式会社HRアドバンテージ取締役。富士通でシステム開発企画、マーサージャパン等の外資系コンサルティング会社で業務改革/マネジメント改革/組織改革/人材開発を横断するプロジェクトの企画・推進を行ってきた。分野を横断するシステム思考の実践を基本姿勢とし、近年は人と組織のデータ活用の仕事に注力している。著書に、『多元的ネットワーク社会の組織と人事』(ファーストプレス)、『チームを活性化し人材を育てる360度フィードバック』(共著、日本経済新聞社)、『図解戦略人材マネジメント』、『実践Q&A戦略人材マネジメント』(以上共著、東洋経済新報社)がある。

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