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最新人材マネジメント情報

目指すのはEU型会社かアジア型会社か

国際経済論で用いられるトリレンマ論の応用として、「地域/事業間でのリソースの自由な移動」「社員の平等な処遇」「地域会社/事業会社の経営の独立」の3つのうち、3つとも選ぶことはできず、2つを選んだならば残る1つは犠牲にされざるをえない、という論を前に紹介しました。ここでさらに踏み込んで、我々はどの一つを犠牲にするのか、ということを考えてみたいと思います。

この問題は、つまるところ、自分達の会社が、(通貨が統合され価値観も比較的均一な)EU型会社を目指すのか、(あっちの国とこっちの国では通貨も言語も大きく違えば政治体制も社会も文化も違う)アジア型会社を目指すのか、ということと同じであると言えるかもしれません。もっと極端に言えば、アメリカのような「平等な、しかし格差の大きい社会」を作り上げるのか、江戸時代のような「不平等(=士農工商)な、しかし実質的には格差の少ない社会」を作り上げるのか、ということであるとも言えるかもしれません。


【設計とサービスと製造と金融の部門連携方法】

「開発・設計部門」「サービス部門」「製造部門」「金融(財務)部門」があった時に、

●部門間で活発に人材交流・異動を行う
●社員を(共通の尺度で)平等に処遇する
●独立した部門経営を確保する

・・・という3つの要請の3つとも実現できないとすれば、どの1つを捨て、どの2つを取るか、ということを考えてみましょう。

●【独立した部門経営は捨てる】 その代わり、「人材交流・異動」「(共通の尺度での)平等な処遇」を採る。つまり、採算はあくまでも全社で見る。部門の赤字は補填する。 ・・・ これは、自由に人が行き来するようになり、同じ通貨で賃金が支払われるようになり、結果、政府の独立性が制限され、「地方(ギリシャ)の財政赤字を中央(ドイツ)が補填する」ような仕組みになりつつある、EU型と言えます。

●【社員の平等な処遇は捨てる】 その代わり、「人材交流・異動」「独立した部門経営」を採る。つまり部門が変われば、報酬の基準や水準も大幅に変わる。製造部門に来るのならば製造部門の流儀に従ってもらう。 ・・・ これは、人が盛んに行き来しつつ、通貨も生活水準も文化も違い、しかしその多様性が活かされ、日本とシンガポールと中国とラオスの間の役割分担のように国と国の間で役割分担が行われている、アジア型と言えます。

●【人材交流・異動は捨てる】 その代わり、「(共通の尺度での)平等な処遇」「独立した部門経営」を採る。つまり、部門の責任で要員数やその生産性を管理するものとし、人の出し入れは行わない。 ・・・ これは、各国の生活水準が比較的均一、また政府も独立していて、物や情報や人材の行き来も少なかった、前近代型と言えるかもしれません。全社全体としての成長は見込みにくく、これが目指されることはあまりないと言えそうです。

【発揮されるアジア的多様性の強み】

EU諸国が通貨も言語も文化も比較的均質であることは、「アジアの混沌」と対比させて、うらやましくも思えたりしますが、しかし、アジアの多様性は大変な強みになっているということは、今日の工業製品が、原材料から素材、部品、完成品に至るまでの間に、最も適した国が選ばれてその国で付加価値がつけられる現実を通じて、日々感じられる通りです。

日本は道州制を目指すべきという議論も、日本の国内にあらためてアジア的な多様性の強みを作り出すことを目指してなされていると言うことができるかもしれません。もし北海道が独自の通貨「北海道円」を用いるようになったとしたら、北海道では通貨価値が切り下がり、北海道の農産物は輸出競争力を高めるとともに、海外観光客にとっての魅力も高まり、北海道の強みが発揮できるのではないか、ということはよく指摘される通りです。

堀場製作所最高顧問の堀場雅夫氏は、最近、次のように語っています。「僕が訴えたいのは地域主権。地域主権とは、たとえば北海道は農業が強いから日本にある農業の全知能を北海道に集めるという具合に、産業の拠点を地域それぞれに作ることだ。・・・対策を講じて欲しいのがそれぞれの地域にある国立大学を専門校にすることだ。・・・」(日経ビジネス2014.02.24号)


【低成長社会における知恵】

あえて価値基準を多元化する、ということは、これからの低成長社会における知恵である、と言えるかもしれません。江戸時代の「天下泰平」の源は、「農民」と「商人」の関係に端的に見られるような、「社会的諸価値の分散と相互の抑制均衡」にあることが指摘されています。すなわち、農民の倫理的価値が持ち上げられる一方、経済的地位が相対的に高い商人は貶められ、そのようにして、一箇所に権力、名誉、財産価値を集中しないようにすることで、ルサンチマン(強者に対する弱者の憎悪、怨恨)を抑制するとともに、格差の際限のない拡大も抑制されるわけです。(参照:丸山眞男講義録[第六冊])

「士・農・工・商」に倣って、「設計・サービス・製造・金融」ということを考えてみます。設計部門の人の関心は「概念」に、サービス部門の人の関心は「人や地域」に、製造部門の人の関心は「モノ」に、金融(財務)部門の人の関心は「カネ」にあります。であれば、報酬の内容も(=昇格なのかカネなのか)、水準も、それを決める基準も、次のように、異なって良い筈です。ユーロのように通貨を統一しなくて良い筈です。

●【士】設計部門: 腕一本のプロフェッショナル性、名誉
●【農】サービス部門: 地域密着、人とのつながり、地縁性
●【工】製造部門: ものづくりのグローバルな普遍性、報酬水準さえ問わなければどこへ行っても仕事ができること
●【商】金融(財務)部門: 金銭的報酬

これからの低成長時代においては、価値基準=通貨をあえて一元化せず、「格差」を「違い」として捉えるための知恵が、人間のプライドと経済とを均衡させる道である気がしてなりません。そして、それこそがアジア的な知恵になるのかもしれません。


プロフィール

写真:南雲 道朋(なぐも・みちとも)
株式会社HRアドバンテージ取締役
南雲 道朋(なぐも・みちとも)

株式会社HRアドバンテージ取締役。富士通でシステム開発企画、マーサージャパン等の外資系コンサルティング会社で業務改革/マネジメント改革/組織改革/人材開発を横断するプロジェクトの企画・推進を行ってきた。分野を横断するシステム思考の実践を基本姿勢とし、近年は人と組織のデータ活用の仕事に注力している。著書に、『多元的ネットワーク社会の組織と人事』(ファーストプレス)、『チームを活性化し人材を育てる360度フィードバック』(共著、日本経済新聞社)、『図解戦略人材マネジメント』、『実践Q&A戦略人材マネジメント』(以上共著、東洋経済新報社)がある。

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