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国際経済論を使ってグローバル/グループ人事を方向づける

近年、国際経済、とりわけグローバリゼーションを語る時に、しばしば引用される重要な理論として、「トリレンマ」(Trilemma またはImpossible Trinity)論というのがあります。グローバリゼーションの中にあって、3つの重要なことを3つとも成り立たせることはどうしてもできず、「グローバル化」「各国政府の自立」「為替レート安定」のどれか1つを犠牲にせざるをえない、というものです。

この議論はそのまま、企業のグローバル経営やグループ経営推進にあたり、人事の方針をどうするか、ということを考える際に役立てることができます。つまり、国際経済と同様、私達の属する企業グループ経営においても、「グローバル化/グループ一体経営」「各国/各事業法人の自立」「社員の平等な処遇」のいずれかを諦めなければならないという決断が迫られていることに気付かされるのです。


■国際金融のトリレンマ

まず、トリレンマ論で基本となるものは、「国際金融のトリレンマ」と呼ばれるもので、「資本の自由な移動」「各国独立した金融政策」「固定為替レート」の3つのうち、3つとも実現することはできず、どれか2つしか同時に実現することはできない、というものです。

<国際金融のトリレンマ>


日本やアメリカがそうであるように1と2を維持すると3(固定為替レート)を維持することはできません。ユーロ圏内では通貨を統合して1と3の両方を実現したために2(各国独立した金融政策)ができなくなった結果、各国で景気調節ができなくなり、今後は財政も統合に向かうしかありません。中国のように2と3を維持しようと思ったら1(資本移動)を制限するしかありません。・・・というように使われます。


■国際政治のトリレンマ

このバリエーションとして、「国際政治のトリレンマ」というものがあります。

<国際政治のトリレンマ>


1と2が保証されると3(経済的な下支えを含めた個人の平等)は保証されない。1と3を進めるには2(国家主権)に制限を加えるしかない。2と3を維持するためには1(グローバリゼーション)にブレーキをかけるしかない。・・・というもので、ハーバード大学のダニ・ロドリック教授が提唱し、グローバリゼーションへの取り組みを冷静に評価するための概念的枠組みとして使われています。


■グローバル/グループ人事のトリレンマ

こうなると当然、バリエーションとして、「グローバル人事のトリレンマ」または「グループ人事のトリレンマ」というものを考えることができる筈です。

<グローバル/グループ人事のトリレンマ>


すなわち、1と2を保証すると3(社員の平等な処遇)は保証できなくなります(平等に処遇すると地域/事業会社がつぶれたり人がいなくなったりします)。1と3を保証するためには2(各地域/事業会社の自立)に制限を加えるしかありません。2と3を保証するためには1(地域/事業間の自由なリソース移転)にブレーキをかけるしかありません。・・・ということになります。

つまり、「1.グローバル/グループ全体最適」と「2.各会社の経営の独立」と「3.社員の平等な処遇」の3つとも成り立たせることはできないとしたら、どれを犠牲にするか、ということで、グローバル経営/グループ経営のあり方が定まることになります。

1.「地域間/事業間での自由なリソース移転」を犠牲にすることで、「社員の平等な処遇」を保ち、「各地域会社/事業会社の経営の独立性」も維持する。(結果として、長期的にはグループ全体で衰退してしまうかもしれない。) → 言葉の制約が大きく、また事業の選択と集中をあまり行わない多くの日系企業グループがとっている方向性

2.「各地域会社/事業会社の経営の独立性」を犠牲にすることで、「社員の平等な処遇」の保証をしながら、「地域間/事業間での自由なリソース移転」を行っていく。(結果として、グローバル標準賃金に近づく等、日本人社員の処遇水準は低下する可能性が高い。) → 多くの多国籍企業グループが目指している方向性(日系企業は多国籍グループの中央集権コントロールが難しいためこの方向をとれない場合が多い)

3.「社員の平等な処遇」を犠牲にすることで、「地域/事業間での自由なリソース移転」を支援しながら、「各地域会社/事業会社が自立」してのびのびと業績を追求する。(結果として、特定の地域会社や事業会社の社員、特定の職種の社員にとっては、厳しい結果が待ち受けるかもしれない。)各地域会社/事業会社のトップに思い切った裁量を与えつつ、社員一人一人には、「どこにでも飛んでいけるようにならないと雇用や処遇が保証されない」という強烈な危機感が与えられる。 → 一部の日系企業グループが目指している方向性(言葉の方向性もあってグローバル化は分権を推し進めるものにならざるをえない)

■2項のディレンマを3項のトリレンマととらえることで問題を解決する

2つの重要なことがあって、あちらが立てばこちらが立たず、両方を成り立たせることができない、というのは、ディレンマと呼ばれます。トリレンマは、ディレンマを含んでいます。ディレンマを語る方がわかりやすくはあります。「資本の自由な移動と固定為替レートとは両立しない」「グローバリゼーションと国家主権(国家の自立)とは両立しない」「事業間の自由なリソース移転と社員の平等な処遇とは両立しない」「事業間の自由なリソース移転と事業会社の経営の独立とは両立しない」・・・等。

しかし、問題をディレンマとしてでなく、トリレンマとしてとらえることには、積極的な意味があります。ディレンマの解決法は通常、「両方とも成り立たせることはできないので、バランスをとりながら何とかやっていこう」ということにしかなりませんが、トリレンマの解決法は、「どれか1つを犠牲にすることによって重要な2つを実現しよう」という積極的な問題解決法になるからです。一見ディレンマに見える重要な2つのファクターは、「もう一つのファクター」を入れることで、両立できる・・・その「もう一つのファクター」を見出さなければならない・・・ディレンマをあえてトリレンマとして捉え直すことは、有力な問題解決法であると言えるかもしれません。

トリレンマ論の他にも、グローバル経済の議論で、グローバル人事を考えるにあたってそのまま適用できるものは多いと思われますので、引き続き紹介してゆきたいと思います。


プロフィール

写真:南雲 道朋(なぐも・みちとも)
株式会社HRアドバンテージ取締役
南雲 道朋(なぐも・みちとも)

株式会社HRアドバンテージ取締役。富士通でシステム開発企画、マーサージャパン等の外資系コンサルティング会社で業務改革/マネジメント改革/組織改革/人材開発を横断するプロジェクトの企画・推進を行ってきた。分野を横断するシステム思考の実践を基本姿勢とし、近年は人と組織のデータ活用の仕事に注力している。著書に、『多元的ネットワーク社会の組織と人事』(ファーストプレス)、『チームを活性化し人材を育てる360度フィードバック』(共著、日本経済新聞社)、『図解戦略人材マネジメント』、『実践Q&A戦略人材マネジメント』(以上共著、東洋経済新報社)がある。

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