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マネージャーはなぜ経営方針を自分の言葉で語る必要があるのか

「自分の言葉で語る」

マネージャーは、経営方針や部門方針を「自分の言葉で語る」ことが重要だ、とよく言われます。経営のグローバル化の中で、これまでは暗黙知的に共有・伝達されてきた「経営理念」を明文化し、意識的に浸透することが課題となる中で、マネージャーが「自分の言葉で語る」ことの重要性は、益々増しているように思います。

では、何故自分の言葉で語る必要があるのでしょうか?上から下りてきた方針を単にそのまま語るだけではだめなのでしょうか?・・・ということを考えてみましょう。

そのことを通じて、マネージャーに求められる能力とはどのような能力なのか、ということをより深く理解するとともに、マネージャーの評価、育成、登用に向けてのヒントを得ることができます。


第一に、感情や熱意は伝染する

「自分の言葉で語る」ことが重要な理由は、第一に、「感情」や「熱意」というものは人から人へと文字通り「伝染」するものだからです。このことは、「ミラーニューロン」の働きとして、最近広く知られるようになっています。人間の脳には、「人を見ている時、相手の感情によって発火しているニューロンと同じ部位のニューロンが発火する」働きがあり、人は言葉を介する前に、相手の動きや感情をそのままコピーしてしまう・・・頭での理解の前にまず真似ることで物事をつかみとってゆく・・・そのような能力が理解や学習の基になっているというのです。

従って、人にある概念をわからせ、それに対して確信や信念を持たせようと思ったら、まず自分自身がその確信や信念を持ち、そのように振る舞うことが必要になる、というわけです。そのためには、自分自身にとって最も腑に落ちるように経営方針や部門方針を理解し、自分自身に確信を持たせ、自分自身を鼓舞し、語り、振る舞うことが必要になるでしょう。自分自身の腑に落ちていないのならば、それは目に見える動作としても現れ、それが、相手の理解や納得を妨げてしまうでしょう。

体から体へと伝達される、サブリミナルな働きとさえ言えるものがコミュニケーションや学習の根底を成している、ということを正面から認めることは、マネージャーの能力の理解や、その開発方法についても新たな地平を開くものであると言えるかもしれません。例えば、パントマイムで伝達能力を鍛える、といった能力開発手法につながるかもしれません。

第二に、人によってモチベーション源泉は異なる

第二に、人によってモチベーションの源泉は異なるため、メッセージは相手に合わせて、相手に響くロジックや言葉に翻訳する必要があるからです。方針は伝えるだけでなく、それによって「やろう」という気を起こさせなければなりません。しかし、何に「やる気」を感じるか、ということは人それぞれ異なります。よって相手がやる気を感じるような内容に、方針の内容を翻訳して示さなければなりません。

一つ例をあげてみましょう。産業の大きな方向性として「モジュール化」というものがあります。標準化されたコンポーネントを組み合わせて多様な製品を効果的に産み出そうというアプローチ・戦略・方針です。最近ではとりわけ、自動車産業が進むべき方向性を示すキーワードとして知られています。「モジュール化の考え方を仕事の全てに浸透させるように」というメッセージは、職種を問わず全社に伝えるべき合理的な経営メッセージとして十分に成り立ちます。しかし、「モジュール化」が一人一人にアピールする仕方は様々です。次のように、職種によって、モジュール化がアピールする内容は異なってきます。

【設計者やエンジニアへのアピール】 製品全体をどのようなモジュールに切り分けたら最大の効果が出るのか、ということを考えることで、製品システムの本質に切り込もうよ!
【マネージャーへのアピール】 モジュール化戦略を推進するために必要になる、全社や業界も巻き込んだ標準化に向けての調整や交渉活動を仕切ることで、自分の力を発揮しようよ!
【営業・サービス担当者へのアピール】 モジュール化を通じて製品のバリエーションを増やし、カタログを充実させることによって、当社製品への間口を広げて、多くの顧客に提案する機会を増やそうよ!
【起業・独立志向者へのアピール】 モジュール化を通じて、独立した事業として切り出されるモジュールやプロセスが出て来ることを見越して、独立の機会を伺おうよ!
【一般社員へのアピール】 モジュール化を通じて、これまでは細かな調整・摺り合わせのために避けられなかった無理な仕事を減らすことで、時短やコスト削減、ひいてはワーク&ライフバランスにつながることを期待しようよ!

なお、この職種別のアピールは、人それぞれが持つモチベーション源泉、すなわちキャリア形成にあたって譲れない、拘りの能力や価値観(キャリアアンカー)の違いにも対応します。

【設計者やエンジニアへのアピール】 ⇒ 【専門能力発揮アンカーへのアピール】
【マネージャーへのアピール】 ⇒ 【管理能力発揮アンカーへのアピール】
【営業・サービス担当者へのアピール】 ⇒ 【サービス・社会貢献アンカーへのアピール】
【起業・独立志向者へのアピール】 ⇒ 【自律・独立アンカーや起業家的創造性アンカーへのアピール】
【一般社員へのアピール】 ⇒ 【ライフスタイルアンカーや安全・安定アンカーへのアピール】

すなわち、職種に応じて異なる「モジュール化」の意味を示すとともに、さらに進んで、人それぞれのモチベーション源泉の違いを見極めてメッセージの内容を調整してゆかなければならない、ということになります。


相手の価値観に寄り添いながら自分の想いを伝えるスキル

そして、第一の理由と第二の理由を組み合わせると、マネージャーの高度な「技能」とは何か、ということが見えてきます。というのは、ここまででお気づきとは思いますが、上記第一の理由と第二の理由との間には、矛盾する側面があるからです。

第一の理由では、まず何よりも、マネージャーA氏は、経営方針をA氏自らのモチベーション源泉に合うように翻訳して、自らのモチベーションを掻き立て、そしてその想いを周囲に伝染させてゆかなければなりません。

一方、第二の理由では、マネージャーA氏自らのモチベーション源泉というよりも、部下一人一人のモチベーション源泉を見極め、それに合った語りかけをしてゆかなければなりません。マネージャーA氏自らのモチベーション源泉と、部下達のモチベーション源泉とが合致していればそれは自動的にうまくいき、理想でしょう。長年同じ釜の飯を食ってきたチームであれば、それこそミラーニューロンの働きを通じてお互いを理解しあい、モチベーション源泉も合致している確率も高くなりますが、チームが複数の世代にまたがるケースなど、同じ仕事上のゴールに向かっていてもモチベーション源泉が合致するとは限りません。

では、第一の理由と第二の理由を共に成り立たせるプロセスとはどのようなプロセスなのか・・・それは、相手への共感状態を保ちながら、こちらの想いをもそっとそこに乗せて、うまく共振を起こしていくようなプロセスということになるでしょう。

例えば、「ワークライフバランスを充実させたい」「専門性を極めたい」「より自律・独立したい」・・・こういった相手の価値観に寄り添い、共感関係を確立しつつ、会社方針に対する自分の熱い想いも保持し、会社のことについて語る・・・その中で、相手にも受け入れ体制ができてくる筈です。

頭ではまだわからないながらも自然に受け入れ、自然にやってみようと思う・・・協同作業はそこから始まります。恋愛やペアワークなど、人がたった二人で何かしようとするだけでも、そのようなプロセスの重要さと困難さが感じられますが、組織で物事を行うとなると、さらに多様なメンバーの中でまずは共感関係を作り、一つの方向性を作り上げていくプロセスになるわけで、それは実は大変なプロセスなのだ、ということに気づきます。

マネージャーを、人のマネージャーである「ピープルマネージャー」と、仕事のマネージャーである「タスクマネージャー」とに分けることはよく行われます。ピープルマネージャーの方が高く処遇されがちな現実がありますが、しかしその割に、マネージャーの対人的な能力は専門的能力とは見なされず、その能力の深みについては安直に語られがちです。そして、人のマネジメントというのは、組織運営上避けられないコスト、すなわち組織運営の負の側面としてとらえられがちです。しかし、そのために必要となる能力は、様々な人材への理解力、概念化能力、言語化能力、演技力を組み合わせた、非常に高度な技能であると言えるのかもしれません。

以上のように、コミュニケーションに関わる脳の働きの最新の知見(=ミラーニューロン)、また、人々のモチベーション源泉やキャリア形成の拘りについての理論(=キャリアアンカー)を通じて、マネージャーの職能について、新たな気づきが得られるように思います。



プロフィール

写真:南雲 道朋(なぐも・みちとも)
株式会社HRアドバンテージ取締役
南雲 道朋(なぐも・みちとも)

株式会社HRアドバンテージ取締役。富士通でシステム開発企画、マーサージャパン等の外資系コンサルティング会社で業務改革/マネジメント改革/組織改革/人材開発を横断するプロジェクトの企画・推進を行ってきた。分野を横断するシステム思考の実践を基本姿勢とし、近年は人と組織のデータ活用の仕事に注力している。著書に、『多元的ネットワーク社会の組織と人事』(ファーストプレス)、『チームを活性化し人材を育てる360度フィードバック』(共著、日本経済新聞社)、『図解戦略人材マネジメント』、『実践Q&A戦略人材マネジメント』(以上共著、東洋経済新報社)がある。

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