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女性活躍推進のヒントをシンガポールに求めて(番外編)

日本で女性活用が進んでこなかった事実

日本の女性活用レベルは、先進国の中でも特に低いと指摘されて久しく、それは各種統計にも表れている。国連開発計画(UNDP)によるジェンダー不平等指数では日本は148カ国中21位、世界経済フォーラムによる男女平等指数では135カ国中101位(2012年)と低く、しかも後者は2011年の98位から順位を落とすなど、改善は進んでいない。

その中で、春に政府が「女性活用の推進」を掲げて以来、女性活用の推進にこれまでにないほど注目が集まり、「保育所の待機児童ゼロ」「3年間の育児休業」「役員の1人は女性に」といった政策目標に合わせ、女性管理職比率といった数値目標を発表する企業も増えている。一方で、「育児休暇3年取得は現実的でない」「女性管理職登用の強制的な数値目標は逆差別にもつながる」など、施策のあり方への批判も多く、現場はまだ混乱しているというところではないだろうか。

「女性活用の進んでいる企業の業績はそうでない企業より高い」といったことはいくつかの実証研究で既に裏打ちされており、多くの人は「その方が良さそうだ」と頭ではわかっているが、何故日本では女性活用が進まないのだろうか?そのヒントを得るために、女性が働きやすい国としてよく挙げられる、筆者(西)が滞在するシンガポールの女性就業をめぐる状況を、日本の状況と比較しながら見ていきたい。

先に結論を述べると、シンガポールは国家目標である経済成長に向けて能力主義を推し進めてきた結果、女性活用は進み、男性と女性の格差も少ないが、一方では、別の側面から社会の分業化と階層化が進行してきた。日本で女性活用を考える上でも、これまで性別によってなされてきた社会機能の役割分担が今後どのように変貌してゆくのか、ということとセットで考えないと、あるべき姿は描けないだろう。

7月の当コーナーにて弊社の南雲は、女性の活躍推進は進みながらも「軍人」と「看護婦」の役割分担は残るのではないか、という見方を示したが(『女性の活躍推進の2つの異なるアプローチ』)、筆者は、役割分担の着地点を描くこともさることながら、「男性の家事・育児分担」を初め、女性と男性の両方が可能性やあるべき姿を探ってゆくことが重要だと考えている。


シンガポールに就業率のM字カーブは見られないが、年齢とともに漸減

年齢別女性就業率のカーブが出産・子育て世代である30歳代に下がり、40歳以降に再び高まる、所謂M字カーブに、日本の女性の働き方は現れていると言われる。M字カーブの底は、1975年をボトムにして徐々に底上げしてはいるが、女性の大きな退職理由が結婚・出産である事は相変わらずである。

このM字カーブはシンガポールには見られない。シンガポールの女性就業率は57.7 %で、日本の46.2%より10%以上高い(2012年)。年齢別に見ると、25〜39歳層、いわゆる出産・育児にあたる年齢層の就業率は、いずれも13%以上、シンガポールが日本を大きく上回っている。一方、日本では40歳以上の層、つまり育児終了後の年齢層で就業率が増加に転じるのに対し、シンガポールでは25~29歳層の73.3%を最高に、年齢と共に徐々に就業率が下がっている。シンガポールでは、結婚・出産自体は退職理由になりにくい反面、小学校で繰り広げられる厳しい教育競争を支えるために退職する母親が多いと指摘されている。また、労働市場の能力主義が徹底している上に、日本企業のような終身雇用の慣行もないため、男女を問わず中年になると職を失いやすくなり、40歳以上の労働力率が低下していく側面もあるようだ。

ちなみに、女性就業率にM字カーブがないことで知られるスウェーデンでは、25~55歳の女性就業率はいずれも80%以上でほとんど変化がない。


シンガポールでは正社員の男女間賃金格差は少ない

次に男女間の賃金格差を見てみよう。フルタイムワーカーのみに焦点を当てると、男性100に対して女性90.1(2011年)となっている。これは日本における、いわゆる「総合職」と「一般職」の賃金格差と比べて、明らかに少ない。少くてもホワイトカラー職種のフルタイムワーカーにおいては、シンガポールにおける性別による賃金格差は、小さい。

これは、シンガポールの歴史から考えればむしろ当然の結果とも言える。シンガポールは多民族国家であるが故に、同じ労働市場の中では、民族・宗教・性別などの属性に関わらず、同じ仕事には同じ報酬が与えられるというルールを意識的に確立してきた歴史がある。しかも、移民国家であるシンガポールでは積極的な外国人移民奨励政策が取られてきたが、高度な業務を担ったり専門能力を有する層と、特別な技能・知識が必要とされない単純労働を担う層とは、入国段階で明確に分けられ、それぞれ別の労働市場に入ってきた。それぞれの労働市場の中で流動性は高くても、両者の枠を超えた労働者の移動はほとんどなかった。労働市場の違いはむしろ階級の違いに近いもので、一旦入ってしまうと変えることは難しく、属する労働市場によって、賃金水準はある程度固定していたと考えられる。


エリート選抜教育との連動

「能力の高い人材こそが国の資源」と位置付けるシンガポールでは、幼少期からのエリート選抜教育が人材育成の根幹を成している。エリートになれば、性別などの属性は関係なく、同じ待遇で仕事ができる。(なお、早くから層別化されるものの、学力下層にも職業訓練など希望が持てるようになっており、いじめ、不登校、校内暴力などもない、ということも指摘される。)

そんな中、こんな現象も起きている。人生最大の分かれ道である小学校卒業時試験に向け、小学校2年生頃には最初の能力別選抜クラス分けがされるが、その年頃の男子はワンパク盛りで勉強に興味がなく、成績上位クラスに入れない男子も多い。途中でのコース変更が容易でないため、エリートコースの女子比率が高くなり、結果的に大学進学者についても女子比率が高まる傾向にあるとのこと。更に、男子には18歳から2年間の兵役義務(National Service)もあり、優秀な女性はより早く社会に出て就業経験を積む事になる。(男子の大学進学者は卒業時まで兵役を延期できるが、免除されることはない。)

こうなると、教育に多大な投資をし、注力してきた側としては、何としても彼女らに最大限の能力を発揮してもらう必要が出てくる。政府は女性が結婚・出産後も働き続けられるよう、働く母親への補助金の充実やチャイルドケアセンターの更なる増設を公約にし、シングルマザーの雇用を支援するなど、女性が働き続けるための施策を強化してきた。

幼稚園(チャイルドケア)は2歳以上の子供を早朝から夕方まで預かってくれる、家事・育児を任せられるヘルパーさんも低料金で雇える、安くて美味しい外食利用が当たり前といった社会環境が整った背景には、こうした政府の方針も影響を与えていると言えよう。国が本気で経済発展を目指した結果、女性にも全力の能力発揮を求める事になり、それを支えるための環境整備がなされてきた好例とも言えよう。


おばあちゃん世代の伝統的価値観とはバッティング

経済成長を最大の国家目標として、個人の属性に関わらず、優秀で能力の高い人材を重要な仕事やポストにつける完全能力主義の政策を強力に推進してきたことは、アジア最高の一人あたりGDPの達成に繋がるとともに、「就労」そのものについては、仕事の内容や性別を問わず、国の経済発展に繋がる非常に価値ある行為として社会的に認識されることに繋がった。

そのことは、従来の文化・価値観を大きく変えてきた可能性も否定できない。伝統的に受け継がれてきた「家庭を守る女性」を理想とする価値観は、こうした政府主導の経済発展優先政策と能力主義の徹底の下で徐々に崩され、女性も家事労働は安価な外国人労働者に任せ、仕事を通して社会に貢献することが強く求められてきた、という側面もある。

ある程度年齢の高い女性に話を聞くと、「母親は家事をしっかりこなして、その上で働くのが正しい姿だ」という価値観が言葉の端々に感じられる。また、貧しい時代を知る彼女らの「もったいない」という経済観念は、外食や惣菜のテイクアウト、ヘルパーの安易な利用を許しがたいようだ。

対して、急速な成長を享受してきた若い層では、そうしたサービスへの意識はかなり異なる。厳しい競争に耐え、仕事を得た彼女たちは、当然のようにサービスを活用し、社会の中で最大限の能力発揮を目指していく。

このような価値観の違いに基づく世代間論争を抑えているのが、国家目標である経済発展実現への貢献・協力の意識と言えるかもしれない。育児休暇制度のないシンガポールでは、生まれたばかりの赤ちゃんを世話するおじいちゃん、おばあちゃんの姿が非常に目に付く。彼らは労働市場からは引退したかもしれないが、家庭で育児を担当し、赤ん坊の両親が安心して働き続けられるように支援する事で、国の経済成長に貢献している。社会や価値観の急激な変化を驚きながら、退職後の生活を支えてくれる子供たちと日々豊かになっていく社会に対して、彼らは強く意見しづらいように見える。


少子化対策が現在の課題

ここで、女性の社会進出とセットで語られる事の多い少子化について確認しておきたい。従来、欧米諸国では女性就業率が上がると出生率も上がる傾向が認められてきたが、シンガポールではその逆の傾向が明らかになっている。女性就業率の上昇に伴い、出生率は低下の一途を辿って世界最低水準となっている。この理由として、教育費用の高さ(アジア特有の理由)や小学校での激しい競争に備えた退職(シンガポール特有の理由)などが挙げられているが、少子化が深刻な社会問題となった今、有効な対応策が模索されている。

男女問わずパートタイム勤務が少なく、出産後の復職時もフルタイム勤務が基本のシンガポールでは、子供が小学校に入学し試験の時期を迎えると、キャリアか育児かの二者択一の選択が迫られる。経済発展第一、エリート教育重視の価値観で育ってきた若い世代が、それまでのキャリアを捨てることは容易でないようにも思われる。

しかし一方で、家事はヘルパーさんに、出産直後の育児は両親かナニーさんに任せられ、父親の育児参加が当然とされる風土のシンガポールでは、受験勉強に情熱を注ぐ必要のあるその時期さえ退職せずに乗り切れれば、育児へのハードルは低くなるように思われる。欧米でも有効性が認められている柔軟な働き方(フレックスタイム制、在宅勤務など)がその時期のみでも許されれば、状況は大きく変わるようにも思われる。また、外国人労働者を積極的に受け入れる土壌のあるシンガポールでは、少子化の危機と経済発展の重要性を天秤にかけた際の人口調整の方法についても、選択肢が複数あるように思われる。

発展著しいシンガポールには、国の進むべき方向をしっかり支えるために、性別、人種、言語などの多様性や多少の意見の違いはあろうと、国が必要な環境整備を強力に推進する勢いがある。その勢いには、従来の価値観をも変えてきたという実績があるため、少子化という難題を抱えても、強いリーダーシップの下、合理的な解決策が打たれるだろうと期待させる力がある。


日本において、社会的な役割分担を一人一人が考える必要性

日本は、高度成長期に企業の論理として男女の役割分担を完全に分けてしまった後遺症で、「男女を問わず、皆で働く」という価値観を国全体で作れないばかりか、社会と経済の成熟化に伴って、年代間、男女間で仕事の取り合いのような事態さえ起きている。こうした状況では、勢いのあるシンガポールの施策をまねしても、社会全体が変わることは期待できないだろう。「共通の価値観」を作ることは難しいだろうが、日本のように成熟した社会だからこそ可能な、様々な役割分担が認められる風土を作っていけないだろうか。

たとえば、少子化を食い止めるための出産・育児をしやすい環境作りが、あくまで女性のみを対象に考えられていることは問題ではないだろうか。「家事、育児、介護といった家事労働は女性のみが負担するもの」という、高度成長期に刷り込まれた価値観から抜け出せないままに、女性がこれまで以上に働きつつ、出産・育児もこなし、将来的には介護も担えるようにいくら対策を立てても、実効性は薄いように思われる。あまりに女性の負担が大きいのではないだろうか。また、女性のみを対象にした施策は、一方で、「ぶらさがり社員」問題が指摘されているように、「産休・育休が取れるうちに出産して、できるだけ長く休もう」と安易に考える女性社員を増やす可能性も含んでいる。

逆に男性から見れば、育児中で短時間勤務をする女性社員の仕事の不始末を独身男性が一方的に被り続け、体調を壊して退職するような状況を放置してはならない。長いサイクルで見て、その男性も結婚して育児を担えるようになり、その時に別の人が仕事のフォローを進んで申し出る仕組みや風土を今から作っていく事が大切なのだ。

大切なのは、「変わる必要があるのは女性のみでない」と社会全体が認識することではないか。「女性の働き方」「女性の育児支援」「女性の介護支援」等など、女性に対する施策のみを変えるのではなく、それをきっかけに、男性も含めた社会の価値観に変化を起こすことが重要なのではなかろうか。

激しい国際競走の中、職場から長く離れることのリスクは、男女を問わず仕事を大切に思う人間ほど強く感じているはずだ。今までのままの画一的な価値観のままでは、今後の国際社会での生き残りが難しいという危機感を持って、これまでと異なる方法や考え方を受け入れるように社会全体が動いていく必要がある。「アベノミクスのおかげで景気も好転してきたし、オリンピック需要も期待できるし、このままのやり方でもきっと何とかなるだろう。」そう思ってはいけないのだと思う。日本においても、まさにシンガポールが独立した時と同じ位の危機感を持って、多くの人が自分の問題として取り組めば、数年後にはきっと風土や価値観にも変化が現れてくるに違いない。

過去の成功体験やこれまでの価値観から抜け出せない人のボリュームは大きく、声も大きい。世代交代も待たなければならないだろう。今できることは、小さな変化の積み重ねが自分の子供達の代には実を結ぶ事を願いつつ、自分ができる地道な努力をまずは続けていくことなのかもしれない。また、せっかく与えられたオリンピック開催という好機を活かして、施設等のハード面のみならず、価値観や風土といったソフト面でも、その頃に少しでも変化を実感できるように、今から自分から動いていけたら素晴らしいと思う。


参考文献:
・厚生労働省「変化する賃金・雇用制度の下における男女間賃金格差に関する研究会 報告書」
・日本労働組合総連合会「連合・賃金レポート2012」2012年(2010年水準データについて、各産業の男性を基準にパーシェ比較(学歴・年齢・勤続を同一条件)を行い、女性の水準を指数化している)
・Ministry of Manpower ”Singapore Yearbook of Manpower Statistics 2012”2013年
・Ministry of Manpower “Labour Force in Singapore 2012” 2013年
・総務省「労働力調査」平成25年
・岩崎育夫「物語 シンガポールの歴史」中央公論新社 2013年
・内閣府「アジア地域(韓国、シンガポール、日本)における少子化社会対策の比較調査研究」2009年
・労働政策研究・研修機構「諸外国における高度人材を中心とした外国人労働者受入れ政策」2013年



西 珠海(にし たまみ)
株式会社HRアドバンテージ シニアコンサルタント

・株式会社三和総合研究所(現:三菱UFJリサーチ&コンサルティング)、アンダーセン・コンサルティング(現:アクセンチュア)、マーサージャパン株式会社、外資系事業会社を経て現職。
・日系企業/外資系企業の組織・人事制度改革、各種制度導入支援、各種データ分析業務の経験多数。
・早稲田大学第一文学部(社会学専修)卒。プリマス大学院 社会調査修士号取得、ロンドン経済大学院(LSE) 労働経済修士号取得。



プロフィール

写真:南雲 道朋(なぐも・みちとも)
株式会社HRアドバンテージ取締役
南雲 道朋(なぐも・みちとも)

株式会社HRアドバンテージ取締役。富士通でシステム開発企画、マーサージャパン等の外資系コンサルティング会社で業務改革/マネジメント改革/組織改革/人材開発を横断するプロジェクトの企画・推進を行ってきた。分野を横断するシステム思考の実践を基本姿勢とし、近年は人と組織のデータ活用の仕事に注力している。著書に、『多元的ネットワーク社会の組織と人事』(ファーストプレス)、『チームを活性化し人材を育てる360度フィードバック』(共著、日本経済新聞社)、『図解戦略人材マネジメント』、『実践Q&A戦略人材マネジメント』(以上共著、東洋経済新報社)がある。

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