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最新人材マネジメント情報

話題の統計学は人事にどう役立つか

統計学とビジネス

「統計学」が脚光を浴びています。その統計学が人事においてはどのように有効に機能するのか、整理してみたいと思います。

「統計学」は、ビッグデータという言葉とともに脚光を浴びています。ではビッグデータとは何か?インターネット、そしてさらにスマホの普及とともに、経済活動およびその周辺の活動、たとえば移動やWEB閲覧等のあらゆる活動が記録として残るようになり、しかもそれが、「クラウド」の中に蓄積されるようになり、経済活動およびその周辺の活動の莫大な種類・量のデータが利用できるようになった、ということを指しています。利益の元を縦横無尽に探ることができるようになったというわけです。そのような意味での統計解析は、人事においてもなしえるでしょうか?

答えとしては、十分、なしえます。ただし、人の業績とそれに至る要因というのは、売上とそれに至る要因、よりも漠然としており、その処理のためには人事固有のコンセプチュアルなスキルやセンス、そして手順を必要とします。しかし、その手順が開発されてきたことや、データをとる仕組みの構築が容易になってきたこと、そしてPCの性能が向上したことが相まって、購買データの活用のようなデータ活用ができるようになってきました。そのことを、以下見てゆきましょう。統計手法と概念思考の合わせ技が重要になるという話です。


統計学とコンピテンシーモデル

10年ほど前、単なる情意考課ではなく高業績につながる行動の評価を目指し、役割や職種に合った行動モデルであるコンピテンシーモデルの作成・導入が進みました。現在でも、改訂されながら活用されている会社も多いと思います。

このコンピテンシーモデル作成にしても、その作成プロセスや作成の精度は様変わりしました。実を言うと、以前のプロセスはアナログなものでした。高業績者にインタビューし、高業績につながった場面、そこにおける思い、判断や行動を細かく聞いてゆき、因果関係を整理し、高業績につながる行動モデルを作る・・・。今でもその基本は変わらないのですが、今であれば次のようなステップを踏みます。

【ステップ1】 アンケート調査を行い(あるいは360度フィードバックのデータがあればそれを用い)、行動のリストの中から、高業績につながる鍵となる行動を、重回帰分析等の統計手法を用いて絞り込む。

【ステップ2】 その他の行動も含め、行動と行動の間の相関関係を因子分析手法等を用いて整理しながら、どの行動とどの行動を同じ種類の行動と見なすことができるのか、それはどのようなコンピテンシーを示していると言えるのか、整理し、コンピテンシーのラベルを振り直す。

【ステップ3】 行動と行動、コンピテンシーとコンピテンシーの間の相関関係の全体像を見ながら、コンピテンシーの全体像と、それが高業績を生み出すメカニズムをできるだけわかりやすく納得感が高い形に整理する。新しい枠組みに合わせて、育成や評価のプログラムを体系だてる。そうして、実務に落としこみ、習慣付けを行っていく。

これをもう少し具体的に、ケースで説明いたしましょう。

【ステップ1】 重回帰分析の結果、営業業績の最大の鍵となる行動が、「クロージング(=購買意思決定を促すこと)ができること」であることがわかった。これにより、営業担当者の育成は「クロージングをいかに行うか」ということに絞って行うのが効率的、という見通しが立った。また、評価の高い管理職の最大の鍵となる行動は、「チームに対して優先順位を適切に示すこと」であることがわかった。これにより、管理職が適切に機能しているかどうかのチェックは「チームメンバーがチームの優先順位を認識しているか」ということに絞って行うのが効率的、という見通しが立った。つまり、経営としての組織の見どころ、勘所がはっきりした。・・・インタビューしたところで、この結論を引き出せるかどうかはわかりませんし、また、たとえ引き出せたとしても、その説得力が全く違い、よって、アクションへのつながり方が違います。

【ステップ2】 ステップ1でわかった営業担当者の鍵となる行動、管理職の鍵となる行動とも、つまるところ、「人に対して行動を促すことができる」ということであると理解された。そこで、「人の行動を促す」コンピテンシーというラベルを振ることにした。しかし、そのコンピテンシー単独では成り立たないのは明らかである。例えば「押し付けがましい」と感じさせたらおしまいである。よって、そこで例えば、「相手の顔色を読む」あるいは「場の空気を読む」コンピテンシーが、「人の行動を促す」対極に来る重要なコンピテンシーになると推測された。そして、そのような対極に来るコンピテンシーの存在についても、因子分析結果を通じて裏付けが得られた。

【ステップ3】 さらに、他の行動も含めて、コンピテンシーの全体像を得るものとした。ステップ2で見出された、「行動を促す」⇔「空気を読む」という軸の他にも軸がある筈で、それは、「ビジネスの個々の問題を当事者の視点に入り込んで理解する」⇔「ビジネスの大局的な全体像をつかむ」というものになるのではないか、という仮説が立てられた。つまり大きくビジネスパーソンのコンピテンシーは次のような2軸から成るのではないか、という仮説に基き、コンピテンシーモデルの全体像が整理されていった。

以上、ステップ2で対極的なコンピテンシーを見い出すくだり、ステップ3で2つの軸で整理することにしたくだりは、いかにも「えいや」というプロセスとして示しましたが、実はこの過程でも、因子分析手法や重回帰分析を何重にも用いる等して、データで裏付けを作っていくことが重要なのです。どのようなデータで裏付けられているかによって、どのような「ラベル」を貼ると内容にフィットするかが決まってきます。しかし、そこでも重要なことは、データをどう解釈するか、ということであり、そこでは、概念を組み立てる力、そして言葉のセンスが重要になります。


統計解析から得られた概念を血肉化し、世界の見方を変える

そして、わかりやすい枠組みが出来上がったならば、今度はそれを、言葉として馴染ませて、日々の生活の血肉としてゆく、という段階がやってきます。切れの良いフレームワークは血肉化されます。人事において統計学を用いた成果が感じられるのは、新しい枠組みが定着した時、すなわち、人々の使う言葉が変化した時、かもしれません。

一つ例を上げましょう。「右脳的」「左脳的」という言葉はよく使われます。「右脳」はイメージや直感、「左脳」は論理。わかりやすいのですが、わかりやすいからといって、それが一人歩きすると、そしてそれによって人物像が語られるようになると、だんだん、「なんだかな~」という局面が出てきます。例えば、私の場合「左脳的」と言われやすいのです。「感情の人でない」ということを指してそう言われるようです。「南雲さんは左脳的だから」と何度言われたことでしょう(笑)。しかし実は、私は必ずしも論理の人ではなく、全体像をイメージでとらえる「直覚の人」という側面が強いのです(それで、アイデアが言葉にならなくて困るのですが・・・)。また、論理が弱いということはないがその内訳として「言語」には強いが「数字」にはやや弱いという特徴を持っているのです(左脳的と言われることでそのことが悟られないのは有難いことですが・・・)。「そうなのにな~」といつも困った思いをしていたものです。

実は、知的能力はどのような要素に分けられるかということについては、様々な研究があり、統計的な裏付けが与えられています。当事者が置かれたコンテキストによっても異なってくるため、一つの結論が定まっているわけではありませんが、次の分類ならば、「右脳」「左脳」のラベルとは違って、より確かな根拠を持つものです。

「彼は言葉のロジックが鋭敏で物事を細分化してゆくのだけれども、肝心な計数的な見通しがそこについてこないね」
「彼は記憶容量が非常に大きい分、その読み込みに負荷がかかって、お客さんの反応を見ていないことがあるね」
・・・という議論がなされるようになれば、「右脳的」「左脳的」よりもどれほど豊かで、ビジネスパーソンの本質をとらえた議論となることでしょう。

ITの進化によって、統計手法を手軽に積極的に活用できるようになりました。それによって人事の何が変わるのか?・・・人々のことを気にかけ、論じる時の言葉が実証的に見直され、意味が明確になり、精度が高まるようになる・・・このように考えると、ITの進化というのはひたすら素晴らしいことだと思えませんか?


※本稿と関係する過去記事

人事が現場に出るための統計手法(または日本文化の中でのデータ活用法)
「メタ」マネジメントの時代に突入か


プロフィール

写真:南雲 道朋(なぐも・みちとも)
株式会社HRアドバンテージ取締役
南雲 道朋(なぐも・みちとも)

株式会社HRアドバンテージ取締役。富士通でシステム開発企画、マーサージャパン等の外資系コンサルティング会社で業務改革/マネジメント改革/組織改革/人材開発を横断するプロジェクトの企画・推進を行ってきた。分野を横断するシステム思考の実践を基本姿勢とし、近年は人と組織のデータ活用の仕事に注力している。著書に、『多元的ネットワーク社会の組織と人事』(ファーストプレス)、『チームを活性化し人材を育てる360度フィードバック』(共著、日本経済新聞社)、『図解戦略人材マネジメント』、『実践Q&A戦略人材マネジメント』(以上共著、東洋経済新報社)がある。

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