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科学的アプローチをサル山に求める

人は自分の利益を最大化するために振る舞う、ということを前提に、個々人の目的やインセンティブをどう束ねて組織力を最大化するかを考える、という、個人主義的、そして分析的・科学的な人や組織へのアプローチには、他者からの見え方、すなわち体面であったりプライドであったりが大きな意味を持つ組織の現実をとらえていない浅さを感じさせるものがあり、「成果主義」の議論が本音のところで盛り上がらなかったのはそのためであったと言えそうです。

といって、個人主義的な組織観に対抗するものとして、より集団的な組織観である「日本的な」組織・人事観を持ちだしたところで、集団の力学、すなわち様々な「見る-見られる」の関係が複雑にからみあった力学をきちんと把握することは難しく、また、「日本的な」組織運営や人事の慣行が、今後のグローバル競争の中で本当に競争力を持つものなのか、広めるだけの普遍性を持ちうるものなのか、ということについては確証を得られないところでもあるので、そのようなことから、「日本的」組織・人事の話もまた盛り上がらなかったと言えそうです。

社会科学的には、個人主義的な思考と集団的な思考の相克とは、「自立した個人と個人が法律や契約によってつながる近代的な社会」の感覚と、「お互いの平等感や身内意識が大きな役割を果たす集団感情でつながる部族社会」の伝統的な感覚のせめぎ合いである、という枠組みでとらえられることになるのでしょう。そして、有史以前からのムラ的な社会構造が現在に至るまで温存されてきた日本社会には部族社会の感覚が強く残っている、と。しかし、そのように起源を理解したところで、個人主義的な思考と、日本的組織感覚をどうバランスさせるか、そして、後者の様々な組織感情の襞をどのように組織運営の中に組み込んでいったら組織パフォーマンスが高まるのか、という実践的な示唆は得られるものでもありません。

個々人からスタートする演繹的な思考は現実をとらえきれずに空回りし、組織の中で共に生きることから生まれる悲喜こもごもの感情をとらえる帰納的な思考も変革の力を持ち得ない、とすれば、組織・人事の思考は何を拠り所にしたらよいのでしょうか?組織・人事をめぐる論考の論点から、この根本問題は宙に浮いてきたように思います。



その中で最近、組織を理解するほとんどの鍵はここに客観的に示されているのではないか、それを参照することで「科学的」に組織を理解できるのではないか、と思うようになったものがあります。それは「サル山(サル社会)」の話です。サル山のサルが、ボス猿の地位とメスを獲得するための権力闘争の中において、様々な政治や駆け引きを駆使することはよく知られています。力のバランスを見極めて同盟関係を結んだり、状況判断の中で組む相手を乗り換えたり、それはまるでローマ史の歴史書のようであり、企業での権力闘争のようである・・・ということが言われたりします。(参考文献:「政治をするサル―チンパンジーの権力と性:フランス ドゥ・ヴァール:平凡社ライブラリー」

ただ、サル山のサルの話が、特定のサル山における特定のサル達のストーリーであれば、それがいかにリアルなもので人間社会の縮図としてその姿をつぶさに観察できる形で見せてくれるものであったとしても、それはあくまでも、そのサル社会がそうである、というだけのことで、比較したり分析したりするモデルにはなりません。

サル山のような現実の対象に取材する検討が俄然輝きを帯び始めるのは、サルの種類によって社会の作り方が全く違う、また、あるいはオスとメスとで社会の作り方が違う、といった比較検討が始まった時です。それによって組織運営の様々な類型が作り出されます。それによって、それに照らしあわせて分析したり、比較したり、(足りない要素を補うことで)改善したりすることが可能になります。例えば、ダイバーシティ、女性の活躍推進によって、組織運営をどう変える必要があるか、といった考察が可能になります。

そのように、サル山の意味を一気に広げてくれた、と感じたのが、異なるサル(類人猿)の種によって社会の作り方が全く異なる、ということを示してくれた、「あなたのなかのサル:フランス・ドゥ・ヴァール:早川書房」です。そこでは、チンパンジーとボノボという、外見は非常に良く似た2つのサルの種によって、社会の作り方がどれほど違うか、ということが示されています。かくして、マックス・ウェーバーが類型化によって歴史学の社会科学化への道を切り開いたように、サル山で観察される様々なエピソードが社会科学のツールになり始めるのです。すなわち、サルの行動を次のマトリクスに整理することで、サルの行動事例集が組織を分析するためのツールに早変わりするのです。(もっとも余計なことながら、ボノボの驚嘆すべき関係調整行動は性行動に満ちており、それをそのまま組織運営で実践したら大変なことになるので、大きな読み替えが必要になりますが・・・笑)

apes


サルとヒトとは異なり、そして、サルとは異なるヒトの特性こそが人の組織や社会を導く、という考え方もありえます。しかし実は人間社会の要素はサル社会の中に全て含まれており、ただ、それを客観化し、類型化し、反省的に適用することができる、ということにこそヒトの独自性がある、と言うこともできるでしょう。人と組織の「科学的な」アプローチの一つの方向性が、このような動物/生物の社会の観察にあることは確かなようです。




プロフィール

写真:南雲 道朋(なぐも・みちとも)
株式会社HRアドバンテージ取締役
南雲 道朋(なぐも・みちとも)

株式会社HRアドバンテージ取締役。富士通でシステム開発企画、マーサージャパン等の外資系コンサルティング会社で業務改革/マネジメント改革/組織改革/人材開発を横断するプロジェクトの企画・推進を行ってきた。分野を横断するシステム思考の実践を基本姿勢とし、近年は人と組織のデータ活用の仕事に注力している。著書に、『多元的ネットワーク社会の組織と人事』(ファーストプレス)、『チームを活性化し人材を育てる360度フィードバック』(共著、日本経済新聞社)、『図解戦略人材マネジメント』、『実践Q&A戦略人材マネジメント』(以上共著、東洋経済新報社)がある。

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