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多様化した社会で生きるために(番外編)

企業経営におけるダイバーシティの大切さが叫ばれて久しいが、日本でその言葉を聞くと、つい「女性の活用」に目が向きがちにならないだろうか。年齢、国籍、人種、宗教、身体的能力、性的指向、価値観等、ダイバーシティの内容は広範に及ぶはずだが、自身の置かれた環境下では、どうしても限られた内容の「多様化」しか考えが及ばない人も多いだろう。逆に、昨今の国際競争の激化にさらされ、国籍や人種の多様化に対応せざるを得なくなっている人も増えているに違いない。

以前は「国際化」と言えば、欧米への対応が頭に浮かぶ事が多かったが、新興国の台頭に伴い、中国、東南アジアなどアジア諸国への企業進出やアフリカ、中南米の企業との取引増加など、地球規模での国際化は進む一方だ。各種メディア情報や知人の話などから、その事は確かに知ってはいた。が、それを身に沁みて実感したのは、シンガポールに渡ってからだった。

家族がシンガポールで職を得て、拠点をシンガポールに移したのだが、いわゆる大企業の駐在員ではないため、日本人社会にどっぷり浸からずに、シンガポールの社会を観察する機会を得ることになった。ローカルに近い視点から見たシンガポールの様子、そこで働く日本人の苦労など、ごく普通の日本人が「国際化」の波に晒された時、恐らく直面するであろうことがらを少しご報告できたらと考えている。

冒頭に書いたダイバーシティだが、シンガポールに来てまず感じるのは、(よく言われる事ではあるが)様々な意味で「多様化」した社会だという点だ。518万人の人口のうち、シンガポール人・永住者は379万人(2011年)のみ。民族も中華系74%、マレー系13%、インド系9%、その他3%という構成。イギリスやアメリカで生活しても(少なくとも、田舎町では)、これほど多様な人種、国籍、宗教の人たちとこれほど頻繁に接して、一緒に生活していると感じた事はなかった。駅や繁華街はいつも多くの人で賑わい、活気に溢れているが、その活気や熱気は、実際にそこにいる人の数以上に、その人々の雑多さで更に増幅されているように感じる。少なくとも、渋谷のスクランブル交差点でたくさんの人を見るのとは、全く異なる雑多さ(例えば様々な髪の色(スカーフで髪を隠す女性も多い)、肌の色、言葉、服装、年齢など)が勢いよく目と耳に飛び込んできて、それだけで実際の人数の何倍もの刺激を感じてしまうのだと思う。

社会の中に、明らかな役割分担がある事も感じる。格差社会やそれによる貧困が日本でも問題になっているが、シンガポールではそれ以上に、使う側と使われる側が明確に分かれている。近隣諸国からの出稼ぎ者も多い。立場も賃金も大きく異なり、そしてそれが当たり前に受け入れられている。 そして驚き、感心してしまうのは、その様々な人達が当たり前のように相手を尊重しあっているということだ。電車の中では至る所で、相手の人種などには関わりなく、お年寄りや子連れの母親に進んで席を譲る姿が見られる。「自分と違うから」という理由で相手を排除したり批判するような姿勢は、ほとんど感じられない事が多い。

「自分の英語はイギリスやアメリカで通用しないが、シンガポールでは通じる」という日本人も多いようだが、言葉への寛容さも驚くほどだ。街の中では、完璧な発音の米語や英語はほとんど聞かれないが、シングリッシュを駆使する現地の方は、相手がどのような英語を話そうが、注意深く相手の言わんとするところを汲み取り、慣れた様子でさっさと仕事を進めていく。その姿には、余計なストレス感じている様子は見られない。少なくとも生活の場面では、多くの人が完璧な発音などしていないのだ。大なり小なり、母国語のアクセントを引きずりながら、それでも共通語である英語でコミュニケーションを取ることが当たり前になっている。

人種だろうが言葉だろうが信条だろうが、自分とは異なる相手がいる事が当たり前で、それを前提に様々なルールが作られており、それを守る事が当たり前になっている国。シンガポールの第一印象だ。

ビジネスの場ではどうだろうか。シンガポールへの日本企業の進出は、2008年のリーマンショック以降は減少に転じたものの、2012年にはリーマンショック以前の水準まで戻り、この増加傾向は今後も続くものと予想されている。在留邦人は約27,500人と、大きなコミュニティを形成している。進出企業の中身だが、当初の大企業をメインとした進出から、現在では中堅・中小企業、また地方企業の進出へと変化が見られているようだ。実際に、新しく立てられたショッピングセンターには、数多くの日本のレストランや地方のラーメン店などが入っており、ここは日本かと見まごう所もあるほどだ。スーパーや各種店舗でも、食品、雑貨を問わず、多くの日本製品が陳列されて人気を集めており、日本企業の営業努力を感じざるを得ない。

そんな企業に働く人たちに求められるのは、どのような力なのだろう。役員や上級管理職以上で、後に欧米諸国への異動が想定されるような方々にとっては、キャリアの高さを示す美しい発音の英語やそれを駆使して議論する力がまず必要かもしれない。

しかし、現地の多様な社員を取り仕切る役割を期待される管理職や現場の社員にとって、最優先課題は必ずしも完璧な英語と合理的なロジックではないだろう。様々な要素の多様性を受け入れ、相手を理解して、尊重し、良い意味での妥協点を探せる力が何にも増して求められるのではなかろうか。 現地で働く人の話をまとめると、そのように感じざるを得ない。

これまでシンガポールで頑張ってこられた方々のおかげで、総じて日本人のイメージは悪くないようだ。しかし、多様な人が暮らしているだけに、先入観だけに振り回されることは少ない。実際に一緒に仕事をして信用できる相手かどうかは、相手の肩書きやラベルではなく、相手の人となりや言動をしっかり見て、自分で判断するのが基本の社会だ。そんな中で、長期的な信頼を築いていくには、人間として、より本質的な違いを受け入れる覚悟と度量が必要となる。業務遂行上、本当に大切にしなければならない事は何かを見極めて、それ以外は許容するような姿勢が基本にないと、普段の業務も立ち行かない。

相手の信用を得るのに何が必要か、相手と信頼関係を築くのに何が必要かを常に考え、必要なことを実際に行動に移す。その積み重ねで、少しずつ周囲の信頼を得て、日々のビジネスが何とか回っていく。「そんな事はビジネスの基本だ」と言ってしまえばその通りだが、その愚直な基本中の基本を、相手が誰であっても、どれほど相手と自身との相違点が多くても、どのような環境であっても、我慢強くやり続ける力が、まず求められる能力なのかもしれない。

「自分と相手は違って当たり前」という、それこそ当たり前のことを忘れそうになっていた自分を改めて感じた。




西 珠海(にし たまみ)
株式会社HRアドバンテージ シニアコンサルタント

▪株式会社三和総合研究所(現:三菱UFJリサーチ&コンサルティング)、アンダーセン・コンサルティング(現:アクセンチュア)、マーサージャパン株式会社、外資系事業会社を経て現職。
▪日系企業/外資系企業の組織・人事制度改革、各種制度導入支援、各種データ分析業務の経験多数。
▪早稲田大学第一文学部(社会学専修)卒。プリマス大学院 社会調査修士号取得、ロンドン経済大学院(LSE) 労働経済修士号取得。




プロフィール

写真:南雲 道朋(なぐも・みちとも)
株式会社HRアドバンテージ取締役
南雲 道朋(なぐも・みちとも)

株式会社HRアドバンテージ取締役。富士通でシステム開発企画、マーサージャパン等の外資系コンサルティング会社で業務改革/マネジメント改革/組織改革/人材開発を横断するプロジェクトの企画・推進を行ってきた。分野を横断するシステム思考の実践を基本姿勢とし、近年は人と組織のデータ活用の仕事に注力している。著書に、『多元的ネットワーク社会の組織と人事』(ファーストプレス)、『チームを活性化し人材を育てる360度フィードバック』(共著、日本経済新聞社)、『図解戦略人材マネジメント』、『実践Q&A戦略人材マネジメント』(以上共著、東洋経済新報社)がある。

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