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最新人材マネジメント情報

「他人の」能力の棚卸・・・組織力を高める最短距離


【多面評価は「評価する側」一人一人のため】

組織メンバー一人一人についての情報を得て、一人一人の能力発揮のあり方を見直すための方法として、多面評価は最も優れた方法であると考えられるため、多面評価が人事のインフラとして定着できるよう、努力を重ねております。

対象者一人一人にとっても会社にとっても気づきの多いアウトプットを提供することはもちろんのこと、インプットの過程でも、回答負担を極限まで減らせるようにしたり、対象者が自分で自分の評価者を選べるようにしたり、多言語表示をその場で切り替えられるグローバル対応にしたり・・・システムと運営の改良を続けてきました。

・・・とはいえ、広範な社員について毎年多面評価を行って、人材情報を更新してゆくことは、一大人事イベントになることは確かです。

なぜ手間暇を惜しまずに、社員一人一人についてのデータを作り、フィードバックしてゆくのか。それは、観察される対象者のためであることもさることながら、組織のためであり、さらに言えば、評価する側一人一人のためだからと言えないか。すなわち、一年に一度、同じ評価項目の中で、お互いにお互いのことを考え、定量的に評価してみる・・・このプロセス自体が、単なるコストではなく、意味があることだからではないか・・・という感触を持ち続けてきました。


【お互いを知ることが組織を強くする】

その感触を説明してくれる理論を見つけました。「トランザクティブ・メモリー」という考え方です。組織全体としての知識を増やす鍵は、組織の各メンバーが「他メンバーの誰が何を知っているか」を知っておくことである、という理論です。グループ内の誰かは他の人とは異なった技能を持っているというメンバーの「専門性」、そして、そのことについての自己認識と他者認識が一致するという「正確性」が高いのならば組織のパフォーマンスも高まる、という研究が下記書籍に紹介されています。(※)

一見当たり前のことのようにも思えますが、この考え方に立つことによって、教育研修や組織開発への考え方が異なってきます。すなわち、そのような考え方に立った時、「会社が社員の知識・スキルレベルを高める」という発想はなくなります。すなわち、会社として社員一人一人の知識・スキルレベルを把握し、誰にどのような知識・スキルを身につけさせるか計画を立て、人選をして教育研修を案内する・・・といった発想はなくなります。

その代わりに、知識・スキルを身につけること自体は、社員一人一人の責任とする。一方、誰が何を知っているか、誰が何に強いか、ということをお互いに考える機会を与える。社員一人一人が、自分の強み・弱みが他者によってどのように認識されているかを知り、どの分野を伸ばすことで組織の中でより有利に生きてゆくことができるかを考え直す機会を与える・・・そのような考え方が主流になる筈です。

ポイントは、お互いの強み/弱みを意識し合い、お互いの認識を擦り合わせること。自分の強みの認識は、他者の見方と照らし合わせることで、研ぎ澄まされます。何故ならば、他者と比較してどうか、他者からどう見られているか、ということに、「強み」ということの本質はあるからです。

多面評価は、そのような文脈に位置づけられるべきでしょう。また、知識やスキルの棚卸を行う場合も、自分または上司だけがチェックする、というのではそのメリットは半減してしまうでしょう。誰が何について詳しいのかお互いに振り返ること、その認識を照らし合わせてそれを組織の認識としてゆくこと・・・こそを知識やスキルの棚卸の中核としてゆくべきでしょう。


【コミュニティの起源はお互いを「記憶」すること】

そして思い起こすならば、お互いについてのお互いの認識を研ぎ澄ますことこそが組織や社会にとって重要、という考え方には、歴史的な、そして組織や社会の本質に根ざした背景があるのです。

組織の能力を高めるためにはフォーマルな組織図を超えた「コミュニティ」が重要、ということが指摘されてきました。「現在の組織図の枠を超えてもっと組織横断的に動かないとだめだ」という課題意識は、読者の皆様も常にお持ちと思います。といって、組織横断的な委員会を作る、というのはどうも大袈裟で、「組織図を超えるための組織を作ることは屋上屋を重ねることにならないか」という課題意識も皆様常にお持ちと思います。そのような課題認識に対して、どのように対応されていますか?

一つの有力な方向性は、「意識的に他者のことを思い起こす機会を設ける」ことです。自分と仕事上のつながりがある人々のことを思い起こし、様々な角度から能力を評価し、人それぞれの強みと弱みを考えてみる。それを仕組み化する。そのような仕組み化ならば、仕組み化すると言っても、委員会のようなものを設けるよりもはるかに簡便な筈です。

そして、それこそが、「コミュニティ」の起源に根ざした発想なのです。コミュニティの歴史的起源、代表的な形態が教会の集まりにある、ということはよく指摘されるところです。(教会の中心にある最も聖なる交わりは、コミュニオン(communion)と呼ばれます。)では、このコミュニオンの実体とは何なのでしょうか?「お互いの記憶」こそがコミュニオンの実体なのです。(私も一応そうなのですが)伝統的なクリスチャンの世界において人々が毎週日曜日に行うことは、自分とつながりのある人々を思い起こすことなのです。(そしてパンに刻み、一つの器に入れる。)他の全てのことは、「互いの記憶」についてくるものとされます。このようなコミュニティの起源は、組織運営上も参考になるものではないでしょうか?

そのように考えつつ、個々の人材開発のツールというよりも組織開発のためのツールとして多面評価の仕組みを育ててゆこうと想いを新たにしているところです。


※「世界の経営学者はいま何を考えているのか:入山章栄:英治出版」


プロフィール

写真:南雲 道朋(なぐも・みちとも)
株式会社HRアドバンテージ取締役
南雲 道朋(なぐも・みちとも)

株式会社HRアドバンテージ取締役。富士通でシステム開発企画、マーサージャパン等の外資系コンサルティング会社で業務改革/マネジメント改革/組織改革/人材開発を横断するプロジェクトの企画・推進を行ってきた。分野を横断するシステム思考の実践を基本姿勢とし、近年は人と組織のデータ活用の仕事に注力している。著書に、『多元的ネットワーク社会の組織と人事』(ファーストプレス)、『チームを活性化し人材を育てる360度フィードバック』(共著、日本経済新聞社)、『図解戦略人材マネジメント』、『実践Q&A戦略人材マネジメント』(以上共著、東洋経済新報社)がある。

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