1. トップページ
  2. インフォメーション
  3. 最新人材マネジメント情報
  4. 続・金融危機をきっかけに人事のあり方は変わるか(成果の真の目利きへ)
最新人材マネジメント情報

続・金融危機をきっかけに人事のあり方は変わるか(成果の真の目利きへ)

欧州を中心に金融市場の混乱はなお続き、銀行による投機的な投資の制限など、金融市場のあり方の抜本的な見直しの議論も続いていますが、そのような金融市場の動向が人事のあり方にどう影響を及ぼすか、ということについてあらためて考えてみたいと思います。

人事部門も、財務部門も、経営スタッフ部門として花形部門たりうる部門ですが、人事部門と財務部門とは「仲があまり良くない」とはよく言われます。そして、財務部門の力が強い時代には人事部門の力が弱く、逆に人事部門の力が強い時代には財務部門の力が弱くなる、と言われます。そして、「市場」の働きが賞賛され信じられている時代には財務部門の力が強くなり、逆に「市場」の働きに疑問が呈せられ市場を統制する国家の役割が大きくなっているような時代には人事部門の力が強くなる、ということが指摘されています。(以前の本コーナー記事: 金融危機をきっかけに人事のあり方は変わるか

ソ連が崩壊した90年代初頭から2008年のリーマンショックに至るまでの20年近くは、金融市場の拡大が主導する形で世界経済は拡大し、世界的に市場の働きが賞賛される時代でした。その時代は明らかに財務部門の時代でした。ビジネス界のトップエリートを目指す者はこぞって投資銀行や財務部門を目指しました。上がる株価と報酬とを連動させる報酬制度が普及し、高額所得者を生み出しました。資産運用マネージャーの報酬も青天井となりました。世界を動かすかのような経営者や資産運用マネージャーの報酬の世界は、労働者の報酬とは別次元の世界となり、それは人事部門が介入する世界ではありませんでした。

しかし、金融市場のバブルは崩壊し、市場機能維持のために巨額の公的資金が動くなど混乱が続いています。そして、金融市場の混乱の原因が、巨額の利益を上げれば巨額の報酬を得ることができるが大損しても会社を辞めるだけでよいという「ノーリスク・ハイリターン」の報酬制度にあったことが指摘されています。得られる利益の規模は動かす資産の規模に比例するため、運用マネージャー/トレーダーは、元手資本にレバレッジをきかせて資産規模を膨らませ、かくして実体経済の規模とはかけ離れた規模の投機マネーが世界経済を振り回す、という、金融市場の破壊的な性質も広く認識されるようになりました。

さて、そのような状況に至ったことは人事のあり方にも影響を及ぼすでしょうか?

つい最近、ハーヴァードビジネススクールのMihir Desai 教授が、金融市場に携わる者のインセンティブについて、興味深い論考を発表し、次のことを指摘しています。 (出典: The Incentive Bubble)

1) 金融資産の価値と、経営者や資産運用マネージャーなど個人の報酬とを連動させたことが、不可避的にバブルを発生させ、健全な資本主義を歪めた。
2) 金融資産と個人の報酬とを連動させるということは、パフォーマンス評価のあまりにも安易な「アウトソーシング」だった。
3) そのような報酬制度は、投資家と、資産を預かる資産運用マネージャーとがWin/Winになるように見えるため肯定されてきたが、実際には、リスクテーキングのインセンティブが歪むので投資家に対しても良い結果をもたらさず、またそれは資本配分を歪めるため、経済社会の生産性に対しても悪影響をもたらす。
4) しかし、資本市場で個人が成功できることこそが資本主義のインセンティブのキモであり、金融資産価値の上昇を個人の報酬に結びつけることそのものを否定することはできない。
5) そこで鍵になるのは、アルファ(=市場平均収益を上回った収益)とベータ(=市場平均収益)の概念である。真の超過収益であるアルファを見極めて、報酬はそこに連動させなければならない。そのようなアルファの見極めは、決して容易なことではない。また、単年度の評価ではなく長期の評価にしなければならない。しかも、その収益を上げる上でのリスクと一体的に評価しなければならない。
6) それは、株主資本主義を否定することではなく、株主資本主義を、その本来のあるべき姿に戻すことである。

まさに、王道を指し示す指摘であると思います。特に、金融資産価値でパフォーマンスを評価することは、パフォーマンス評価を金融市場に安易にアウトソーシングしてしまったということだ、という指摘は、「市場価値なのだから仕方がない」と市場にひれ伏しがちな姿勢に対する痛い指摘であるように思います。

この王道を歩むことを志向する時には、人事部門の役割はどのように変わるのでしょうか?・・・そうです。事業そしてその担い手が生み出した真の付加価値を見極める役割が問われます。そのためには、次のスキルが必須になるでしょう。つまり、ベンチマーキングのスキルが人事部門のコアスキルの一つとして加わるかもしれません。

1) 事業環境と自社の位置付けの把握
2) 事業のリスクと期待できるリターンの見極め
3) 市場や競合他社との比較すなわちベンチマーキングを通した、付加価値の評価

事業の直接の担い手には、自分の事業への強い思い入れがありますから、全社的な視点から、あるいは株主の視点から、客観的にジャッジする必要があるのです。そしてそれこそが、社員の評価と報酬を統括する人事部門に期待される役割になるのではないでしょうか。

そしてそれを行なうためには、事業に直接携っていた経験も重要となるでしょうし、市況や最新の商品やサービス、競合などの情報を求めて、社内外の人と積極的に会うことも、重要な仕事の要素になってくるでしょう。



プロフィール

写真:南雲 道朋(なぐも・みちとも)
株式会社HRアドバンテージ取締役
南雲 道朋(なぐも・みちとも)

株式会社HRアドバンテージ取締役。富士通でシステム開発企画、マーサージャパン等の外資系コンサルティング会社で業務改革/マネジメント改革/組織改革/人材開発を横断するプロジェクトの企画・推進を行ってきた。分野を横断するシステム思考の実践を基本姿勢とし、近年は人と組織のデータ活用の仕事に注力している。著書に、『多元的ネットワーク社会の組織と人事』(ファーストプレス)、『チームを活性化し人材を育てる360度フィードバック』(共著、日本経済新聞社)、『図解戦略人材マネジメント』、『実践Q&A戦略人材マネジメント』(以上共著、東洋経済新報社)がある。

サービスに関するお問い合わせ・ご相談はこちらまで

お問い合わせ

人事に関する情報が満載メールマガジン配信中

メールマガジン登録