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「役割」が人を育てる場に遭遇して(番外編)

前回ご紹介したように、子育てを通して、人材育成のエッセンスを感じさせられる事は多い。子供を通して感じるのみでなく、先日は幼稚園の先生が大きく成長される場面に遭遇した。

春の入園シーズン。年少組は親元を離れた集団生活は初めての子が多く、感情表現も露骨で、遠慮も何もない。そんな子供達の注目を集め、飽きさせないように興味を惹きながら、様々な活動を進めていくのが先生の役目だ。自分の子供だけでも四苦八苦なのに、先生は他人の子供を30人以上まとめていくのだから、その大変さは想像を超える。理屈を解し、節度をわきまえた大人を相手にするより、遥かに実力が問われる仕事かもしれない。

クラスには主担任と副担任の2人の先生がついて下さるが、幸いな事に、我がクラスは学年主任のベテラン先生が主担任になられた。副担任は見るからに初々しい、着任2年目の先生だったが、「経験の浅い先生が学年主任からたくさん学べるように、先生の教育を意識した編成だな。先生の世界もOJTが基本だ」などと勝手に納得し、一安心していた。

安心しきって2学期を迎えた頃、突然、主担任の先生がご結婚のため、10月末で退職されると連絡が入った。別の先生を至急採用するので、担任2名体制は維持されるとのこと。でも、学年主任に代わる水準の先生がすぐに見つかるのかという疑問もあり、「着任2年目のあの先生が主担任で本当に大丈夫だろうか」と正直なところ、心配せずにはいられなかった。

朝晩の短い送迎時間帯のみでは、先生とゆっくりお話できる機会も少なく、心配は募る。ベテラン先生の退職後は、お迎えに行った帰り道、自転車に乗りながら「幼稚園、楽しかった?」「嫌な事はなかった?」など詳しく話を聞き出そうとして、子供に不思議がられたりしていた。子供の方は新しい先生にもすぐ慣れ、毎日「楽しかった!」を繰り返すばかり。「大丈夫そう」とぼんやり感じながら、毎日が過ぎていった。

年が明けて2月、新しい副担任を迎えて初めての保育参観日がやってきた。そこには、大勢の子供達を見事に束ねる、あの2年目の先生の堂々とした姿があった。秋の参観日に見た、優しい笑顔ながらも遠慮がちに子供と接し、弱々しい声で話をするあの先生はどこにもいない。姿勢や発声から違う。大きく抑揚のついた声で、大騒ぎする子供たちを注目させ、関心が薄れて遊びだす子が出るタイミングで、身体を揺らして全員の興味を惹きながら、次々に活動を進めていく。子供達への声かけも、優しく褒めたかと思うと、「本当にできるのかなぁ?」と挑発したりと多彩で、その声には自信が満ち溢れていた。あまりの立派な先生ぶり、成長されたお姿に、見ているこちらが思わず涙ぐみそうになった。ここまで変わられたとは、この数カ月の先生のご苦労はどれほどだったろう。周囲のサポートも大きかったろう。思えば、園長や先輩の先生方と話しこむ担任の先生の姿をよくお見かけした。

会社での人材育成でも「役割が人を育てる」とよく言われる。通常よりも一段高い役割を与える事で、期待される働きに見合うように本人が努力を重ねて、結果として役割に見合う能力を身に付けていくケースは多い。仕事の実力も、こうした「経験」から学んで伸ばすしかないと言われる。ハイパフォーマーは、「一皮むける経験」「修羅場経験」といった、自分の力が大きく伸びた「経験」を必ず積んでいるとする研究もある。

一段高い役割を意識的に与え、成果をあげている好例として、日清食品グループの「ブランド・マネージャー(BM)制度」が挙げられるだろう。カップヌードル等の看板商品に依存する甘えの風潮を打破し、より強力な競争原理を社内に取入れるために1990年に導入されたこの制度は、マーケティング部を商品ブランド別に9グループに分け、それぞれを1人のBMが統轄するものだ。

BMの役割は、①担当ブランドの売上、利益を最大化し、より強いブランドに育てることと②新商品、新ブランドの開発で、いわば「ブランド社長」の地位にあたる。新商品開発の成否や利益に全責任を負い、当然処遇も大きく変動する。目的達成のためには、競合他社は言うまでもなく、自社ブランドのシェアを奪うこともいとわない厳しさが求められる。

BMは課長職相当の管理職があたり、通常の異動・配置のほか、公募制度を使って自ら挑戦することも可能という。必要なスキル・知識は、社内研修の機会を活かして自ら備えておくことが最低条件で、その基盤の上に、新商品の立ち上げから販売戦略を練り、店頭に商品を並べるまでに必要な全工程を、関連部署との連携・調整も行いながら実践・経験していく。多くの苦労を伴う厳しい経験は、より大きな職責を担う立場になった際に、他社との競争への対応にそのままつながり、活かされていく。

この取組みを通じて同社は、市場シェアの急伸と経営人材育成の両面において、大きな成果を得ている。市場シェアは制度導入前年の32%(1989年・金額ベース)から42%(1998年)となり、現在ではグループ役員、海外現地法人の社長等の多くがBM経験者という。

経済環境の変化や社内年齢構成の高齢化等を背景に、現場では身の丈より大きな役割を与える機会が減ったという話をよく耳にする。流れに任せるままでは、そうかもしれない。それならばなおのこと、意識的に役割を与える機会を作っていかなくては、発揮できるはずの力が埋もれ、組織の活力喪失につながる可能性さえあるかもしれない。担任を任されるという想定外の経験がなければ、あの先生はこれほど早く成長されなかったと思う。想定外の経験も好機と捉え、期待に応えて羽ばたく人材は実は多いのではないかと思わずにはいられない。

参考文献:労務行政研究所「組織を変える。人材育成事例25」2011 労務行政
谷口智彦「「見どころのある部下」支援法」2009 プレジデント社


西 珠海(にし たまみ)
株式会社HRアドバンテージ シニアコンサルタント

▪株式会社三和総合研究所(現:三菱UFJリサーチ&コンサルティング)、アンダーセン・コンサルティング(現:アクセンチュア)、マーサージャパン株式会社、外資系事業会社を経て現職。
▪日系企業/外資系企業の組織・人事制度改革、各種制度導入支援、各種データ分析業務の経験多数。
▪早稲田大学第一文学部(社会学専修)卒。プリマス大学院 社会調査修士号取得、ロンドン経済大学院(LSE) 労働経済修士号取得。




プロフィール

写真:南雲 道朋(なぐも・みちとも)
株式会社HRアドバンテージ取締役
南雲 道朋(なぐも・みちとも)

株式会社HRアドバンテージ取締役。富士通でシステム開発企画、マーサージャパン等の外資系コンサルティング会社で業務改革/マネジメント改革/組織改革/人材開発を横断するプロジェクトの企画・推進を行ってきた。分野を横断するシステム思考の実践を基本姿勢とし、近年は人と組織のデータ活用の仕事に注力している。著書に、『多元的ネットワーク社会の組織と人事』(ファーストプレス)、『チームを活性化し人材を育てる360度フィードバック』(共著、日本経済新聞社)、『図解戦略人材マネジメント』、『実践Q&A戦略人材マネジメント』(以上共著、東洋経済新報社)がある。

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