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最新人材マネジメント情報
福島原発事故はマネジメントの見方をどう変えるか
 

この度の震災で被災された方に心からお見舞いを申し上げます。
多くの企業の人事部の皆様は、なお、諸確認、諸体制づくりに総力を挙げておられるものと存じます。


さて、今回の災害、その中でも「企業発の災害」ということで福島原発の事故が、マネジメントというもの、そして、もしできれば人事というものに、どのような影響を与えるか、ということを考察してみたい。

まず、そのヒントになる論考として、ハーバード・ロースクールのフェロー、Ben W. Heineman, Jr.氏がHarvard Business Review に寄稿している、「日本の原発とBP原油流出における、危機管理の失敗」という記事(リンク先はPDFファイル)を紹介したい。同記事によれば、今回の福島における原発事故とメキシコ湾におけるBP原油流出事故との間には驚くほどの一致があるという。すなわち、次の重要な5つの軸(ディメンション)において、二つの事故は一致しているという。

 1) 予見できる危機に対する対応計画の不存在 (=地震と津波の組み合せが予見できなかったことであるとは言えない)
2) 危機対応の責任主体のあいまいさ (=私企業の責任か国の責任かがあいまいなまま推移)
3) 情報流の混乱、「情報の統制と開示」の不足 (=一本化した上で、完全な開示を図るべき)
4) 意思決定過程の不透明さ (=誰がどの論点に関してオプションを用意し、誰が意思決定し、誰がその妥当性を監査するのか)
5) 意思決定された内容を実行に移す主体が誰で、どのようなリソースを使うことができるのかということの不明確さ (=例えば東京都のリソース、米国提供のリソース、民間提供のリソースを誰が招集するのかしないのか)

そして結論として、カタストロフの潜在的可能性を持つ商品/プロセス等を持つ場合には、最悪ケースのシナリオに基づいて予め対応策が考えぬかれていなければならないこと、かつ、単に計画が立てられただけではその計画は風化するだけなので、(軍隊が行うような)シミュレーション/ウォーゲームのメンタリティで訓練が常に行われるべき、ということが述べられている。 


以上の記事の考察は、「危機管理」という限定された枠組みにおける考察となっている。だが今後は危機管理という範囲を超えて、原発の存続そのもの、そして平常時を含む運営のあり方そのものが問われることになることは必至である。よってその議論を組み立てることができるような枠組みに広げて考えたい。

例えば、これまでは推進派と反対派の間で断絶していた原発の存続可否、設置・運転の条件をめぐる議論ができるような枠組みを考えたい。すなわち、「絶対安全」vs.「絶対危険」の対立ではなく、いかなる条件のもとでならば設置・運転しうるのか、その条件は満たされるのか、という議論ができるような枠組みを考えたい。また、福島第一原発に関しては、その弱点について何年も前より外部から指摘があったことが明らかになり、また、今回事故が起こってからは、外部から知見やリソース(生コン圧送機の使用等)が提供され活用が始まっているが、今後はおそらく存続しえない「一企業や利害を同じくする専門家コミュニティに閉じたマネジメント」を、いかに「衆知を集めるマネジメント」に変えていくか、ということを考えたい。

そのためには、企業や人の課題領域、活動領域、そして能力領域を整理する次の2軸・4象限の枠組みが、やはり有用である。

risk management chart


このような整理により、課題が大きく4つの領域に整理され、今回の原発の場合、混沌とした状況の中から、個々の問題解決からスタートする左半分が徐々に形になり始めている一方、全体最適に関わる右半分にはまだ手がつけられていない、という全体像を理解しやすくなる。(全体最適に関わる右側には、例えば、「主権」「国と私企業」「政府と官僚」「首都と地域」などの論点が含まれる。)

また、同じ整理を、原発のみならず、一企業では負いきれない(=または負うべきではない)リスクを孕むシステム全ての運営について行うことができることがわかる。そのようなシステムとして、例えば金融システムが含まれるであろう。いや、一企業では負いきれないリスクを孕むという意味では、多くのインフラ業、ITサービス業、製造業が扱うシステムも同じであろう。


以上の4象限の枠組みをより細分化し、チェックリスト化すると、例えば次のようになるであろう。

【将来―全体最適】

 1) リスクの全体像を把握するのが誰であるか明確か
2) 最悪のシナリオ含め、シナリオが想定されているか
3) 最悪のシナリオに対する対応策が考えられているか
4) 自社のみならず他社との連携体制が考えられているか
5) リスクを吸収できる余力がどこにどれだけあるか定量的に把握されているか
6) 従業員、顧客、株主等ステークホルダーとのリスク分担について考えられているか
7) リスクを移転する保険等の仕組みが考えられているか

  【現在―全体最適】

 8) 意思決定者が誰であるか明確か
9) 意思決定の選択肢を、誰が作るかが明確か
10) 意思決定内容の妥当性について誰が評価するか明確か
11) 必要な全ての情報が集まるようになっているか
12) 情報が可能な限り公開されているか
13) 全ての課題が優先順位とともに列挙されているか
14) 課題への対応状況が一覧化され公開されているか  

  【現在―個々の問題解決】

15) 必要なリソースとその調達方法が明示されているか
16) 問題解決に最も近い現場に十分な権限が与えられているか
17) 一人一人の役割分担/責任が明確であるか
18) 一人一人の役割遂行に対するインセンティブはあるか
19) なすべきことが手順として定義されているか
20) 継続的なトレーニングがなされているか
21) トレーニングは具体的な出来事を想定したものか

  【将来―個々の問題解決】

22) 最新の知見を能動的に収集・評価する機能があるか
23) クレームを含む外部からのインプットを受け付けて評価しているか
24) これまでの全ての事故・事象が分析されて教訓が反映されているか
25) 自分達の水準を測定し、強みと弱みとを明確にしているか
26) 現状が公開され、不特定多数の外部の目で評価されているか
27) 冗長であっても常に複数の方法が試され、切り替えが可能になっているか
28) 前提条件や環境の変化に合わせてこれまで行ってきたことを否定する用意があるか

・・・こうして列挙すると、リスクマネジメントの当たり前なチェックリストのようなものになった。

しかし、「利益の直接的な源泉となる顧客ニーズ」に焦点を当てた活動の体系化は、これまで飽きるほどに考えられ実践が試みられているのだが、「利益を損なうリスク」に焦点を当てた活動の体系化は、近年内部統制やリスクマネジメントの掛け声とともになされてきたとはいえ、単なる形式的なものであったり、顧客ニーズに焦点を当てた活動とバッティングするものになっていたり、インセンティブが考えられていなかったり(=人事上の課題)、根づくものになっていないことに改めて気づくのである。本来は、「利益の源泉」と「利益を損なうリスク」とは表裏一体(=リスク/リターン)であるにも関わらず。

そして、上記のチェックリストを作成しつつ「我が身」を振り返りながら、今既に来ている大変動を前にリスクに焦点を合わせて活動を見直すことは、自分達自身の生存、存続のための利益の確保に直結することを、実感するのである。今後、一企業を超えるリスクに焦点を当てて活動の見直しと体系化が進むことは間違いないだろう。


プロフィール

写真:南雲 道朋(なぐも・みちとも)
株式会社HRアドバンテージ取締役
南雲 道朋(なぐも・みちとも)

株式会社HRアドバンテージ取締役。富士通でシステム開発企画、マーサージャパン等の外資系コンサルティング会社で業務改革/マネジメント改革/組織改革/人材開発を横断するプロジェクトの企画・推進を行ってきた。分野を横断するシステム思考の実践を基本姿勢とし、近年は人と組織のデータ活用の仕事に注力している。著書に、『多元的ネットワーク社会の組織と人事』(ファーストプレス)、『チームを活性化し人材を育てる360度フィードバック』(共著、日本経済新聞社)、『図解戦略人材マネジメント』、『実践Q&A戦略人材マネジメント』(以上共著、東洋経済新報社)がある。

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