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最新人材マネジメント情報

幸福コンピテンシー

これから重要になるコンピテンシーは幸福コンピテンシーだ、ということを書きたいと思います。どうやらそうなのです。

人材開発や組織開発の世界では、この数年「ポジティブ・アプローチ」というアプローチが広く取り上げられるようになっています。それは「ギャップ・アプローチ」すなわち「問題(=あるべき姿と現状とのギャップ)解決アプローチ」に対するものとされます。すなわち、人や組織の問題を矯正しようとするよりも、「強みを発見してそれを伸ばすことに集中しよう」というアプローチです。そのようなアプローチについて聞かれたことのある方も多いと思います。話題になった、「強みを発見する自己診断テスト」などをやってみられたことがある方も多いでしょう。近年話題のチクセント・ミハイ氏のフロー理論、といったものもその文脈の中にあります。

ポジティブ・アプローチはこれまでのところ、「問題解決アプローチよりも明るくて良さげ」という印象論で受け入れられている側面が多いように思うのですが、なぜ今ポジティブ・アプローチか、ということを突っ込んで見てみると、それは一時的な流行でもあやしいものでもなく、まさにそこに本流があることが見えてきます。

そのために、ポジティブ・アプローチの元になっているポジティブ心理学を参照します。ポジティブ心理学の生みの親の一人として、ペンシルバニア大学のマーティン・セリグマン教授、そしてその著書であるAuthentic Happiness (邦題:世界でひとつだけの幸せ)という本が知られています。それを開けてみると、見かけこそ自己啓発書風の装いながら、非常に重要な指摘が含まれています。すなわち・・・心理学は人間の情動を動物的な欲求の次元でとらえ、人間がいわゆる真・善・美に代表されるような高い次元の欲求を持っていることを無視してきた。心理的な状態を、抑圧やトラウマの結果としてとらえ、治療は過去の抑圧やトラウマを対象とし、それからいかに開放されるかということに焦点を当ててきた。「人は未来を形成していく」ことができるということを前提として、「自分にとって良い状態とは何なのか」「どうしたら良い状態に近づくことができるのか」ということを正面から問題にしたものがなかった。過去は過去。それよりも、将来を向いていかに人生を創造していくかということに集中する方が効果的・・・

・・・確かにそうです。蛇足ながら、その意味では、経済学などもそうであったと言えるかもしれません。経済学は物質的な効用の最大化に向けて合理的な判断をする経済人を前提としており、感情的な満足をより重視したり、物質的な効用よりも高いレベルのビジョンのために働いたりする人というのは、経済学の標準的な取扱い対象ではありませんでした。

そして、セリグマン教授は、幸福、すなわち心身ともに健康な状態をもたらす要因として、伝統的な道徳や宗教において尊重されている次の6つの分野を提示しています。そして、これらを自発的な意思によって獲得・発揮することが幸福につながるというのです。
 ● 知恵と知識
 ● 勇気
 ● 思いやりと愛
 ● 正義
 ● 自制心
 ● 超越志向

・・・あたりまえのことのような道徳的美徳が並びましたが、たしかに、「心理学の影響」だったのでしょうか、例えば自分の人生の中において、そういった道徳的美徳には「幼少期のトラウマ」ほどにも焦点を当てることはなかった気がします。心の取り扱い方には意外な盲点があったと言えそうです。



そういったこれまでの心理学のバイアスがある一方、現在の我々の経済状況があります。(経済を飛ばし続けるために必要な)新しい成長エンジンを得るために、イノベーションや企業家/起業家精神が今ほど必要な時はありませんが、それをどこに見出すべきなのでしょうか。言われ尽しているように、品質の良いモノは行き渡り、サービスの品質も、居酒屋のメニューからコールセンターのサービスに至るまで、10年前と比べても格段に、息苦しさを感じさせるまでに、高まりました。モノやサービスの競争のフロンティアは、「顧客が気づいていないことを先に気づいて先回りして提供する仕組みを作ること」に移っていますが、もはやそれは、サービスの受け手となる人間の能力を奪いとるような「過剰な」レベルであると感じられることが多いように思われます。そこに、新しい企業家/起業家精神が勃興する、ということは考えにくいことです。そのような、モノ・サービスの一種過剰な状態の中で、「あるべき姿と現状とを照らしてギャップ=問題を明確にし、企業/起業のテーマを定める」ということは難しいことです。

では足りないものは何か、それが「幸福」です。国民の幸福度ランキングで日本は諸国の中でも数十位になるであるとか、自殺率が非常に高いであるとかいったことから、日本国民の幸福度が高いとは言えない、ということは良く指摘されます。さらに、そこそこの生活はできても、「成功の格差」を通じて、幸福の配分は決定的な危機を迎えている、という指摘もあります。例えば次のように描写される状況・・・「世界の富の総量は「クリエイティブ・クラス」の「イノベーション」でいくらでも増やすことができるかもしれないが、世界の尊厳=希望の総量は決して変わりはしないという単純な事実・・・ある個人に尊厳=希望を与えれば、別の個人が必ず尊厳=希望を奪われ地下室に堕ちる」(「クォンタム・ファミリーズ:東浩紀」より)

よって「幸福」に焦点を当てることにして、そこで問題になるのは、「幸福」とは主観的なもので、定義もできず、計測もできない、とらえどころがないものではないか、ということです。幸福というものは追いかけても追いかけても行き着くことのできない蜃気楼のような性格を持つものであるため、幸福を扱うことは、学問の世界でも、実生活でも、「あやしいもの」にしかなりえず、主流になれなかったと考えられるのです。セリグマン教授の著書では、まさにそのことが扱われています。そして、セリグマン教授の主張は、幸福の源泉とされてきた要素を、「目に見える特性=traits」によって指標化することで、それは扱うことができるものになり、学問的にも正統なものになる、ということなのです。(それゆえAuthentic Happiness という書籍の題名になっています。) 能力を行動特性によってとらえようという、コンピテンシーと同じです。

また、企業が扱うものとしてはどうでしょうか? 幸福は、ビジネスの中で直接問題にできるものでしょうか? 「自社は顧客に対して知恵や勇気や愛や正義を提供しています」・・・というとやや違和感があります。あるいは、「自社は従業員を知恵や勇気や愛や正義に基づいてマネジメントしています」・・・というとやや違和感があります。しかし、違和感を感じる点がどこにあるか見つめてみると、知恵や勇気や愛や正義といったことが、いずれも「良いこと」という価値判断を含み、幼少より無意識の内に社会生活の中で求められてきた道徳の手垢や埃にまみれてしまっているがゆえに、境界もはっきりせず、漠然とした、ふわふわとした、実態の良く見えないものになってしまっている、という点にあるでしょう。

そうであるとすれば、それぞれの美徳の性質と意味を際立たせるために、例えば、(例によって)次のようなディメンションで整理してみたらどうでしょう。自社の商品やサービスが顧客にとって、この中のどの象限の獲得・発揮に役立つものであり、また自社の従業員は、この中のどの象限の力を獲得・発揮するのか、自社の現状と方向性を議論できるのではないでしょうか。ビジネスの領域、提供したい付加価値、人材の付加価値タイプがはっきりとわかります。

AuthenticHappiness

これからの時代の付加価値を生み出すためには、幸福という言葉でとらえられてきた領域を、心的な状態であるためにとらえにくいからといってとらえないわけにはいかない。どうやら、そのための有力なアプローチが、ポジティブ・アプローチである、と考えるべきなのです。

世界でひとつだけの幸せ―ポジティブ心理学が教えてくれる満ち足りた人生
マーティン セリグマン
アスペクト

プロフィール

写真:南雲 道朋(なぐも・みちとも)
株式会社HRアドバンテージ取締役
南雲 道朋(なぐも・みちとも)

株式会社HRアドバンテージ取締役。富士通でシステム開発企画、マーサージャパン等の外資系コンサルティング会社で業務改革/マネジメント改革/組織改革/人材開発を横断するプロジェクトの企画・推進を行ってきた。分野を横断するシステム思考の実践を基本姿勢とし、近年は人と組織のデータ活用の仕事に注力している。著書に、『多元的ネットワーク社会の組織と人事』(ファーストプレス)、『チームを活性化し人材を育てる360度フィードバック』(共著、日本経済新聞社)、『図解戦略人材マネジメント』、『実践Q&A戦略人材マネジメント』(以上共著、東洋経済新報社)がある。

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