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サービス業で勝ち抜くために(引越業界に見る)

私事ですが部屋の引越しをすることになり、見積りを取りました。引越しこそは、労働集約産業の典型であると思えます。物を動かすだけと言えば動かすだけ、家族や友人の助けを借りてセルフサービスで実施することもでき、専門性も高いとは言えなさそうです。従って、参入も容易、競争も熾烈、企業として利益を上げるということが最も難しそうな業界であるように思えます。しかし一方では、全国展開して何百億円もの売上を作りあげている大手企業もあることはご存じの通りです。

引越業界はいかに産業として成り立つのか、そこにおける企業はいかにして利益を上げ、成長するのか?そこに、今後ますます求められるサービス産業化への鍵を見ることができるのではないでしょうか?・・・と大げさですが、そのようなことも思いながら地元の1社と大手2社から見積りをとってみました。果たして、垣間見た3社のサービス姿勢・コンテンツには大きな違いがありました。結局、お願いすることにしたのは、最大手の一社であるA引越センターなのですが(Aというのが実際の頭文字かということはここでは述べません)、そこには確かに今後のサービス産業のヒントがあると感じましたので、記録しておきたいと思います。

【まず地元からスタート】

まず最初に声をかけたのは地元の運送会社。大手企業よりも中小企業の方が何かとコストは安いものでありましょう。また、同じお金を落とすのならば、地元に落としたいもの。家の近くなので直接訪ねてみると、今どき珍しいと思われる、木訥とした、そっけない態度。笑顔がないのが新鮮です。で、家に来てもらい、見積ってもらうと、さらさらっと6万円という見積りが出てきました。ザッツオール。2トンロングのトラックで積みきれないようだったらあとは積めるところまで積む、ということで、ま、安いことは安いと感じられたし、このままこちらにお願いしようかな、と。

【大手にアクセス】

とはいえ、一応は、相見積りをとるべきでありましょう。ネットで調べてみると価格コムのように引越しにも「相見積りサイト」があるのですね。キビシイものです!家具の種類や数などの情報を入力して、10数社並んでいる中から何社でも会社を選んでチェックを入れてボタンを押すと、一斉に各社に見積り依頼が発送されるという仕掛け。メールで仮の見積りを送ってくれるようです。あまり多くの会社に依頼するのもあとの処理が面倒ですから、最大手のA引越センターとB引越センターにチェックを入れて送信しました。

・・・と、30秒もしないうちに、電話がかかってきました。引越会社かなと一瞬思いましたが、普段家にかかってくる電話はとらない主義なので放置。と、また1分くらいしてまた同じ番号からかかってきました。仕方がない、とってみるとB引越センターでした。
 「早速見積りに伺わせていただきたいのですが。」「ご家族は何人様でいらっしゃいますか?どれくらいのお荷物の量でいらっしゃいますか?」・・・と、ザワザワした背景音の中で女性のイケイケ口調。
 「あのねえ。そういう情報をさっきネットに登録したんだけど。」
なぜネットに入れた情報を見ていないのか、なぜメールなりで見積りが出て来ないのか、問い正しても回答が返ってこないので、結局このB引越センターに来てもらうのは断りました。(それでも翌朝7時半にまた電話がかかってきました。)

さて、B引越センターから電話がかかってきて断ってから5分後、今度はまた別の番号から電話が。受話器をとると、今後はA引越センターでした。今度は、さっきのB引越センターのような背景のザワザワ音はありません。
 「早速見積りに伺わせていただきたいのですが。」
 「メールで見積りが出てくると思ったんだけど。」
 「正式のお見積りは訪問してということになっております。」
 「単に参考までの見積りが欲しいと思ったからネットに情報を入れたんだけど。」
 「実は、本棚の数が多すぎてシステムに入らないのです。本棚の数をあと2つ減らしていただければ入るのですが・・・」
 「でもそれじゃ意味ないよね。」
 「はい、ですのでお伺いして・・・」
 「でも、相見積りをとっているところなのでわざわざ来てもらっても無駄になる可能性高いですよ。」
 「はい、それはこちらも商売ですので全くかまいません。」
真面目で感じのよい電話の対応だったので、来てもらうことにしました。

【A引越センターの来訪】

土曜日の午前中、予定していたA引越センターの営業マンが資料が沢山入った大きなカバンを持ってやってきました。
「カバンを床に置かせていただいてもよろしいでしょうか!」からスタート。一通り荷物を見た後、「少しお話をさせていただいてもよろしいでしょうか。」それから、会社案内、サービス業として姿勢の紹介。
「オーディオコードの配線を再現しやすくするこのシールセットを差し上げますのでお使いください」とお土産。・・・断りにくくなりますね。
アフターサービスの紹介。・・・なるほど、規模があってかつリアルタイムで配車・要員配置できると、空き車両や空き要員を活用してアフターサービスが低コストでできるわけですね。
そして様々なオプションサービスのプレゼンをしつつ、それが見積りの条件にもなることから、サービスの採用有無を確認。
・・・で見積り。電卓をはじき、標準価格ということで13万円強の見積りが出てきました。しかし、様々な条件で値下げができるとのこと。
「現金での支払」「中古ダンボールの使用」「直前まで配車を調整した上での時間帯決定」・・・値下げできる条件を順に検討し、全部適用した結果、8万8千円にまで下がりました。

それ以上の値下げは、「いつ決めていただけるか」ということによって、営業担当の裁量で下げられるのだそうです。
「いつお決めになりますか。」「今日中には決めますよ。」「ということは本日他社も来るということですね。(数秒考え、)では、私の裁量のぎりぎりまで提示させていただきます。今ここで決めていただければ、この価格とさせていただきます。」と、6万8千円。「万一積み切れない等のことが発生したら営業の私の見積りミスということになりますので、責任をもって対処します。」
「ではお願いしましょうか。」・・・OKしました。地元運送会社の見積りよりも8千円高いですが、諸々の利便性やトータルコストを考えてそちらの方が有利と考えたわけです。
「その他、ご質問はございますか?」・・・時間帯の変動幅や使用トラックの大きさ、作業人数など、諸々の条件や懸念点を確認。これで大丈夫。
「では、早速ですが、段ボールをそこまで持ってきていますので、まずは30箱ほどお持ちします。」・・・なるほど既成事実を作ってしまうわけですね。
「押し付けがましく申し訳ございませんでした。よろしければこちらのアンケートを」・・・営業マンの対応と電話受付センターの対応の両方についてハガキ一枚に収まった顧客満足度アンケート。

【組合せの妙技】

以上をまとめると、商談の流れは大変にシステマティックなものでした。
 <Step1> 会社のポリシー提示
 <Step2> サービスメニュー提示
 <Step3> 割引のためのオプション提示
 <Step4> 裁量で条件を提示しつつ、決めのクロージング
 <Step5> 懸念の解消と、次のステップへの進行

その前提として、会社として提供している商品やサービスのメニュー、配車等のシステムと、営業マンへの権限委譲がうまく組み合わされています。あとで調べると、A引越センターの当該支店は、ISO9000をとっているそうです。

それを、例によっての枠組みで整理すると、次の図のように整理できます。
 

まさにこれらの4象限の力が追求され、それらが組み合わされることによって、引越業界という苛烈な業界において利益を出し、成長を続けてきたことがわかります。

そのような中、人事や人材育成はどのように行われているのでしょうか。営業マン氏は、もともとは引越しの作業をしていたけれども、この数年は営業だそうです。その他、配車等の職種があるそうです。

上記の4象限のコンピテンシー領域を有機的に組み合わせるためには、やはり全てがわかっている人が必要でしょう。現場にどのような玉を供給したら効果的なのか、ということは現場経験がないとわかりません。日々お客さんと接しながらその懸念を感じ、その解決法を考えるということをしていなければ、新しいサービスは生まれません。配車や作業員のスケジューリングも、経験に裏打ちされた現場感がなければぎりぎりのスケジュールは組めないでしょう。一方、一度はスタッフの立場に立たないと、日々の現場の仕事の中から様々なサービス開発や改善のヒントを生み出すことは難しいでしょう。

しかしそれでも、引越しという領域だけでは一生のキャリアを埋めるには十分ではないのではないかとも感じられます。そこで、付帯事業の開発がどうしても必要になるでしょう。引越しに伴う物の処分や買い替えの支援等々、引越しで生活がすっきりと豊かになる感覚を味わっていただくためのサービス事業。あるいは不動産事業そのもの。そのような付帯事業をどこまで首尾一貫したミッションや、コアコンピテンシーの中で取り扱えるか、ということが人材を継続的に惹きつけ、事業を大きくしていくための鍵になると言えそうです。

【他社との比較】

ここで想像するに、電話を先にかけてきたけれども断った、もう一社の大手のB引越センターは、より短期業績に重きを置いていると想像できます。入力された情報の処理をするまでもなく、間髪を入れず電話をかけてよこしたのは、まずできるだけ早く訪問する、という意思の現れでしょう。そして一番乗りさえすれば、「今ここで決めてもらえば安くなります」の技を繰り出して決まる確率が高い、という戦術だったのでしょう。おそらくは報酬制度も、予約を入れた数や受注した金額などの成果を、担当者間で競わせる度合いがより高いのではないでしょうかと推測します。ちなみに調べてみると、A引越センターとB引越センターとでは従業員の平均在籍年数に大きな違いがあるそうです。A引越センターが6.2年なのに対して、B引越センターが4.2年だとか。

ところで地元の運送屋さんは・・・電話をしてお断りをしたところ、「わかりました。またお願いしまーす。」となんともあっさりとした受け答えでした。必要最小限のサービス内容を取り揃え、必要最小限のプロセスを踏んだとしても、競合がひしめく中ではそう簡単に受注には至ることはできない。普通の中小企業が、これまで通りのやり方で戦って生きていける余地はますますなくなっている、ということを強く感じました。

 

プロフィール

写真:南雲 道朋(なぐも・みちとも)
株式会社HRアドバンテージ取締役
南雲 道朋(なぐも・みちとも)

株式会社HRアドバンテージ取締役。富士通でシステム開発企画、マーサージャパン等の外資系コンサルティング会社で業務改革/マネジメント改革/組織改革/人材開発を横断するプロジェクトの企画・推進を行ってきた。分野を横断するシステム思考の実践を基本姿勢とし、近年は人と組織のデータ活用の仕事に注力している。著書に、『多元的ネットワーク社会の組織と人事』(ファーストプレス)、『チームを活性化し人材を育てる360度フィードバック』(共著、日本経済新聞社)、『図解戦略人材マネジメント』、『実践Q&A戦略人材マネジメント』(以上共著、東洋経済新報社)がある。

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