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人事が現場に出るための統計手法(または日本文化の中でのデータ活用法)

人事部門が説得力を持った提案を行うために、人・組織の何が問題なのか、データでしっかりと裏付けることが必要です。従業員意識調査を初めとするアンケート手法は必須アイテムであり、そこから課題を分類・整理・体系化するためのデータ分析手法として、「多変量解析手法」と呼ばれる手法が有効です。それにより、単なる点数の高低の分析からだけではわからない、そもそもどのような枠組みで問題をとらえることが有効なのか、ということを問い直す深い分析ができます。

しかし、「統計的な手法によって得られた結論はこれこれです」というと、どうしても敬遠されてしまうことが多いのです。説明の中に数字や数式は登場させないとしても、データから導き出された結論が経営陣や現場に受け止められ、取り組むべき課題として認識され、施策に落とし込まれるまでの間には、壁があります。そのことについて考えてみたいと思います。

データから結論を引き出し、その納得を得るにあたって、一つ大原則として言えることは、「抽象化」はしない方がベターである、ということです。例えば従業員の意識調査において、数十項目(下の例示では10項目)の項目について測定することを考えます。

 

これらの項目を、「因子分析」手法等を用いて4つとか5つとかのグループにわかりやすくまとめることができます。それは4つとか5つとかの因子に「抽象化」したわけです。そしてそれは、思いつきでまとめたものではなく、その企業のデータから導き出したものですから、真にその企業の課題の姿を示している、と言えるのです。(企業によってどのようにグルーピングされるかは異なってきます。)自社の課題はこのような「くくり」に分かれているのであり、それぞれに対して手を打つ必要がある、と根拠(エビデンス)とともに言えるのです。

しかし、このような「課題のくくり」がどのようにして導き出されたのか、ということを説明するために「因子分析」手法のことを説明したとしても、その手法に親しんでいない人にその理解を得ることは難しいと考えた方がよいのです。ではどうするか。一つの方法として、出てきた因子を「解釈」して、例えば次のような2軸のフレームワーク(枠組み)の中に位置づけることで納得は得やすくなります。

しかしこれであれば、データ分析を経ることなく、予めそのようなフレームワークを準備して測定・分析したのと見かけは変わることはありません。ですから、せいぜい、フレームワークの正しさがデータ分析結果からも裏付けられました、という言い方になるでしょう。説明の受け手にとっては、そちらの方がわかりやすいので、そのように説明するのがよいでしょう。そして、部門やチーム等の組織単位ごとに、4つの象限のどれが強いか/弱いか、といった比較レポートにまとめ、何故そのような違いが出てくるのか、という見地から洞察を引き出していくことになります。そのように、「組織の特徴を見える化」することにより、施策もまとめやすくなるわけです。

以上のように、フレームワークを使って示すことで受け手の理解も進みますが、一番良いのは、4つとか5つかの因子に「抽象化」することなく、項目どうしの影響関係をそのまま示すことなのです。例えば次の図のようにです。

これは、技術的に言えば、「重回帰分析」を通じて明らかにした項目間の影響関係です。しかし「重回帰分析」などと言う必要はありません。項目がそのまま残っており抽象化されていないので、説明は比較的容易です。そして、グルーピングするとしても、「影響関係が強い、近くにある項目をまとめていって、その結果これらの(4つとか5つとかの)グループにまとめることができます」と説明するのならば、説明の受け手にもしっかりと頭に入ってきます。言わば、KJ法でカードをグルーピングするようなイメージを喚起するのです。

そしてさらによいことには、抽象化することなく項目レベルを残したまま関係を精査していく方が、より深い議論ができます。例えばこの例示では、項目別の影響関係をよく見ていった結果、互いに負の影響関係にある項目が発見されました。すなわち、次の相反する関係が見つかったのです。

A: 「仕事へのチャレンジ機会が豊富にある」 ←相反!→ 「仕事量や時間に無理はない」
B: 「仕事の分担は明確になっている」 ←相反!→ 「当社で働くことに満足している」

確かに、そのようになりそうなことは理解できます。Aのように、「仕事へのチャレンジ機会が豊富にある」部署であれば「仕事量や時間に無理がある」ことが通常でしょう。しかし、どちらも従業員満足の要因なのです。いったいどのようにバランスをとったらよいのでしょうか?Bはさらに複雑です。「仕事の分担が明確になっている」と「当社で働くことに満足」しなくなる傾向があるというのです。仕事内容があまりにもきっちりと決まっていると、満足度がかえって低くなるということでしょうか?わかるような気もします。しかし、「仕事の分担が明確である」こと自体は、他の要因をも支える重要な要因なのです!これもどのようにバランスをとったらよいのでしょうか?

そのことを検討するために、データをそのまま示しながら現場のヒアリングに入っていくことができます。「どのような場合に、どのような条件で、働きがいを感じ、少々の無理や混乱もかえってやりがいの源として感じられ、理不尽な負担とは感じないのか」・・・グループ形式の対話型ヒアリング(=フォーカス・グループ・インタビュー)を通じて現場の認識を拾っていくのです。

そしてそのようなヒアリングに先立って、データから仮説を立てることができます。おそらくこの場合、相反する要因のどちらにも関係している、「教育やキャリア開発機会」が鍵になる、と仮説を立てることができます。すなわち、「チャレンジングな仕事の機会があるということを、それに従事するための必要条件や見返りとともに示し、自発的な参加を募るようなプロセスを経て、チャレンジしてもらうことが、相反する要因を両立させる鍵になる」という仮説を立てることができます。

 

【日本文化の中でのデータ活用法】

さて、データを活用するために抽象化は必要だが、いきなり抽象化しないことで人材開発/組織開発の深い議論に入っていくことができる、ということを述べました。このような、どのようなデータの活用法が効果的かということに関しては、文化的な要因が大きく関係するような気がします。

日本の風土では、モレダブリなく原理原則的に演繹して課題を追い詰める・・・というトップダウンなプロセスはおそらく馴染みにくいのです。逆に、物事の実態をそのまま示して関係者の声を拾い上げバランスのとれた形でまとめあげていく・・・というボトムアップなプロセスの方が馴染むのです。それが、データの活用法にも影響してきます。

カードを撒いて、個々の関係を直感的に感じ取りながら全体像を徐々に明らかにし、最終的に俯瞰する、というKJ法は、ご存知の通り、文化人類学者の川喜田二郎氏が編み出した、日本人による日本的な手法です。データを活かす手法の原点もそこに置くのがよいかもしれない、と感じるのです。

KJ法自体は既にありふれたもので、いろいろな局面で便利に使用される一方、マンネリや限界も感じられているものだと思いますが(=KJ法によるまとめは感覚的なもので、はっきりとした証明をすることができない等)、その限界感を打破して先に進むために統計手法を活かす、と言うべきなのかもしれません。そして、KJ法がフィールドワークの手法であったように、人事・人材開発部門が統計手法を用いるとき、それは机上で施策を立案するためではなく、それを武器として現場に出て問題を把握し、現場とともに施策を考え出すため、と言うべきなのかもしれません。

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プロフィール

写真:南雲 道朋(なぐも・みちとも)
株式会社HRアドバンテージ取締役
南雲 道朋(なぐも・みちとも)

株式会社HRアドバンテージ取締役。富士通でシステム開発企画、マーサージャパン等の外資系コンサルティング会社で業務改革/マネジメント改革/組織改革/人材開発を横断するプロジェクトの企画・推進を行ってきた。分野を横断するシステム思考の実践を基本姿勢とし、近年は人と組織のデータ活用の仕事に注力している。著書に、『多元的ネットワーク社会の組織と人事』(ファーストプレス)、『チームを活性化し人材を育てる360度フィードバック』(共著、日本経済新聞社)、『図解戦略人材マネジメント』、『実践Q&A戦略人材マネジメント』(以上共著、東洋経済新報社)がある。

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