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最新人材マネジメント情報

ロジカルシンキングやフレームワークの次に来るもの

前回までで、企業の中の活動を分類・整理する枠組みをうまく設定することで、人材やその活動といったリソースを、重複や矛盾を最小限に抑えながら配分していくことができる、ということを述べました。特に、ビジネス上の課題と組織・人事上の課題を一気通貫することが重要であるということを、マーケティング課題を組織・人事の課題に落とし込むことを例にとって、述べました。

要は課題や活動をいかに分類・整理するか、ということなのです。次のチャートを見てください。ここには計28個の人事課題があがっています。人事課題とされるものにはこのように沢山の種類があります。これらにどう取り組むか、ということなのです。

<人事課題の例>

これらの課題全てに取り組むものとし、それぞれに目標と担当者を割り当て、進捗管理することにしたらどうでしょうか?目標管理制度を活用して取り組む場合など、実際にそのようになりがちです。しかし、そのようにした場合、施策間の一貫性が図れなくなることもさることながら、社員に対して、人事部は全体として何を企図しているのか、現場や社員の視点から見て何が変わるのか、うまく説明ができないものになってしまうのではないでしょうか。そして、現場や社員にとっての意味が明確に伝わらないのならば、すなわち魂が伝わらないのならば、人事施策の効果は大きく損なわれてしまう、ということは言うまでもありません。

これらへの取り組みが効果的なものであり、しかも無駄な費用をかけることなく効率的に遂行されるためには、これらがうまく分類整理、パッケージングされなければなりません。

そのような分類整理の枠組みを与えてくれるのが、いわゆる「フレームワーク」であり、フレームワークを作る前提となる思考が、いわゆるMECE(ミッシー)(モレ・ダブリなし)と呼ばれる分類原則です。

例えば、人事施策の目的を、「社員の力を引き出す」とした上で、そのための課題を分類する次のようなフレームワークを作ることができます。そして、この枠組の中、黄色で着色した4つの領域に人事・組織の施策を整理することができます。

<人事施策を整理するフレームワーク例-パターン1>

また、結論は同じ4つの領域でありながら、次のように異なった視点で分類することもできます。

<人事施策を整理するフレームワーク例-パターン2> 

どちらも、「全社/職場」と「上から下/下から上」いう分類軸を組み合わせたものですが、どちらの分類軸を先にするかで、施策のメッセージは大きく変わってきます。そして、どちらの分類方法が効果的か、というのは企業/会社によって異なってきます。

一般的には、「全社的な方向づけ」と「個々の職場の活性化」とはお互いに独立した要因であることが多いのです。すなわち、会社全体がどうあれ、自分の所属する個々の職場へのコミットメントは高い、ということはよく見られるのです。そのような場合には職場の連帯を最大限に活かしつつ、全社的な戦略や活動へ向けていかに各職場を方向づけていくか、ということがポイントになります。この場合には、前者の分類の仕方がフィットします。

しかし、企業によっては「職場」ごとの自律的なまとまりはそれほど強いものではありません。創業者のリーダーシップで動いている企業などは多くの場合そうです。この場合には、職場の自律性を新たに強調することではなく、むしろ職場間の壁を飛び越えて、経営テーマやプロジェクトごとにいかに人を効果的に活用していくか、ということを考えるべきことになります。この場合には、後者の分類の仕方がフィットします。

このように、課題を整理しようとして「MECEな」ロジックツリーを作ってみようとすると、どの分類を先に持ってくるか、という問題に常に突き当たるのです。

予め与えられた4つのファクターをどう並べるか、というだけでも、このように選択肢があり、大きく異なったフレームワークができあがるのですから、そもそもどのようなファクターを切り出すか、ということまで考えると、全く一意には決まらない、「アート」の領域になります。

しかし、人事企画スタッフやコンサルタントが「アート」でもって施策の体系案を描き、それを、経営者がセンスでもってフィット感があるものを選ぶ、というやり方では、継続的に具体的な施策に展開したり、社員とコミュニケーションをとったりするためのプロセスとしては十分なものであるとは言えません。

もともと職場の自律性が高いとは言えず、自律性を高めていく方向性でもない場合に、「職場を活性化する」ことに向けられたプログラムを企画しようとすると、矛盾が噴出します。すなわち、「目標達成に一丸となるようにする」ことと「一人ひとりの持ち味を活かす」こととが相反する側面を持つことであるがことが明らかになり、それらを矛盾なく遂行するためには管理職に極めて高いレベルの管理能力が要求されることがわかってきて、そのために、次に苦労して管理職教育を組んだとしても、場当たり的で不完全燃焼感が高いものになることは容易に予想されます。

自社にフィットした施策の体系案を作成するためには、自社のデータに基づいた客観的・定量的な分析・議論が必要です。そのために必要な手法は「多変量解析」と呼ばれる分野の統計手法になります。分析対象となるデータは、部署毎の業績データ、社員意識調査のデータ、360度フィードバックデータなどです。

多変量解析手法とは、「複数の変数間の相互関連を分析する統計的技法」の総称です。人や組織のパフォーマンスには、極めて多くの要因が複雑にからみあっていますので、それを要約整理する必要があるのです。例えば、人の能力・スキルをとっても何十項目にも分類できます。組織についても、たとえば人事制度の内容やその運用状況をとらえるだけでも何十項目にもなります。働く時間はどうか、職場環境はどうか、報酬水準はどうか、目標は明確か、評価のあり方はどうか、など。

そういった数多くのディメンション(次元)を持つ情報・データを要約・整理して意味を読み解くための手法が多変量解析手法であり、まずは項目間の相関関係を見る「相関分析」が基礎になります。そして、応用手法である「因子分析」「重回帰分析」「クラスター分析」などを活用します。これらを行うためには、かつては専門的な統計分析ソフトが必要でしたが、最近では比較的手軽なEXCELのアドインソフトを使うことでも十分な分析ができます。ただし、あくまでも統計手法は、データを読み解くための「技」であって、使いこなしてメッセージを出すためには次のことが必要です。

分析結果には解釈が必要です。例えば、統計ソフトからある分類の仕方が示されても、それがなぜそのように分類されたのかということを突き止めるためには解釈が必要です 。
うまくメッセージを引き出してプレゼンテーションにまで持っていくためには、「技」の組み合わせが必要です。得意技とその組み合わせ方を持つことが重要で、逆に全ての技を用いる必要はありません。
データを扱うことには、かなりの時間とパワーが必要です。集中できるまとまった時間を確保する必要があります。休日出勤が必要になる場合も多いでしょう。逆に、得意技と組み合わせ方が決まってくると、前処理や後処理の効率化も図れるようになります。


いくつか、そのようにして分析を行った結果のイメージをご覧ください。

<社員の満足度要因を構造化する>

上図は、従業員満足度調査の結果に基づいて、満足度の10個の因子を抽出するとともに、それをツリー状に整理したものです(点線白塗り部分はツリー化するために充填したもの)。また、どの因子の満足度が高いかということも色で示しています。因子分析とクラスター分析の合わせ技を用いて作成したものです。
この図には、この会社固有の、「従業員満足度の形」が示されています。この会社では、「仕事への満足」と「会社への満足」とが分かれており、「仕事や職場への満足」は高いが、「会社への満足」は高くない、という傾向があるのです。そうすると、強みである職場の求心力を維持しつつ、いかに会社の戦略的な方向性へと引っ張っていくか、ということがこの会社の課題になります。

<従業員の満足度要因間の因果関係を明らかにする>

 

上図は、やはり従業員満足度調査の結果に基づいて、やはり満足度の10個の因子を抽出するとともに、今度は、因子間の因果関係を要約・整理したものです。これは、因子分析と重回帰分析の合わせ技を用いて作成したものです。

この図には、この会社において、社員の満足度を左右する要因は大きく「仕事の充実度」「評価・報酬・人事への納得」「良好な労働環境」の3つがあるけれども、「社内の風通しの良さ」と「豊富なキャリア開発機会」とが、全ての因子に影響する基礎であることが示されています。このことから、自信を持って、「社内の仕事の見える化と、横断プロジェクトを通じてのチャレンジ機会の開放」等の施策を推進していくことができます。

このような分析とメッセージの導出は、今のところコンサルタントを含めて誰にでもできることではありませんが、単なる気の利いたコンセプトやフレームワークでは十分な説得力を持たなくなっている現在、データによってコンセプトを裏付ける手法の理解と、データを用いて語る習慣は不可欠になりつつあります。豊富な販売データを分析するマーケティングは既にそうなっていると言えますが、人事・組織マネジメントも同じ方向に向かっていると言ってよいと思います。組織の中に眠っているデータを活かすことに、少しずつでも取り組まれてはいかがでしょうか。もちろんご支援いたしますよ。

(本件もう少し続く予定です。)

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プロフィール

写真:南雲 道朋(なぐも・みちとも)
株式会社HRアドバンテージ取締役
南雲 道朋(なぐも・みちとも)

株式会社HRアドバンテージ取締役。富士通でシステム開発企画、マーサージャパン等の外資系コンサルティング会社で業務改革/マネジメント改革/組織改革/人材開発を横断するプロジェクトの企画・推進を行ってきた。分野を横断するシステム思考の実践を基本姿勢とし、近年は人と組織のデータ活用の仕事に注力している。著書に、『多元的ネットワーク社会の組織と人事』(ファーストプレス)、『チームを活性化し人材を育てる360度フィードバック』(共著、日本経済新聞社)、『図解戦略人材マネジメント』、『実践Q&A戦略人材マネジメント』(以上共著、東洋経済新報社)がある。

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